[PJ-4-5] 対話や交換日記を通じて作業の協業と作業同一性に着目した作業療法介入
【はじめに】作業同一性(以下,OI)は,作業に従事した過程から生み出された,自分は何者なのか,どのようになりたいのかという自己認識である.回復期の対象者は,急な心身の変化に直面しOIの葛藤を抱えることが多い.回復期の役割には日常生活活動(以下,ADL)や機能の改善があるが,OIに着目した退院支援も重要であると考える.今回,加齢や骨折から臥床傾向となりOIの葛藤を認めた事例を担当した.人間作業モデルに基づき,対話や交換日記を通じた作業の協業とOIに着目した退院支援を行なった結果,退院後も肯定的なOIを維持できた.本報告の目的は,回復期におけるOIに着目した介入の効果を検討することである.本報告はA氏の承諾を得ており,開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【事例紹介】A氏は90歳代前半の女性で,夫と長男夫婦と同居し,家事を担う役割があった.X年Y月Z日に右股関節転子部骨折から歩行困難となり,Z+22日に回復期病棟へ転院した.
【作業療法評価】機能的自立度評価法(以下,FIM)は74/126点(運動45点,認知29点)で,ADL全般に中等度介助を要した.Frenchay Activities Index(以下,FAI)は0点であった.人間作業モデルスクリーニングツール(以下,MOHOST)は59/96点で,体力や認知機能の低下への不安が強く,臥床傾向であった.以前の役割や習慣は維持できず,興味や価値のある作業が曖昧であった.また,「良い人生だった.もう死んでも良い」と語る一方「元の生活に戻りたい」と話し,OIの葛藤を認めた.
【介入経過】認知症高齢者の絵カード評価法の実施から,A氏が価値を置き,馴染みのあった整容や新聞を読むといった作業を導入して離床を促した.これらは1週間で日課となったが,記憶の低下を気にする様子が確認された.記憶を補い,日々の連続性が感じられるようZ+42日にA氏と交換日記を開始し,Z+49日に日課となった.また,不安の強いA氏と退院後を想定したADL練習を行った.それにより,退院後のADLや役割を想定でき,発言や交換日記に肯定的な内容が増えた.ADLは福祉用具を用いて起居,移乗,トイレが自立し,2本杖歩行も監視下で可能となった.退院が近づきA氏の思いを尊重した支援に向けて,作業同一性質問紙(以下,OIQ)を実施した.その結果,主婦の役割を担い様々なことに挑戦していた過去,「体力が落ちた」と感じる現在,そして,「病前より体力はないが,やれることを取り組めたらいい」と考える未来のOIを聴取した.A氏は,過去のOIを振り返り,現在のOIから未来のOIを見出し,肯定的なOIを形成することができた.肯定的なOIを維持するために,対話を続けA氏が行いたい活動を整理し,ADLや家事,友人との文通,交換日記等の作業が継続できるよう書面で家族やケアマネジャーに申し送り,Z+115日に自宅退院となった.
【結果】FIMは79点(運動57点,認知22点)であった.FAIは12点で,食事の片付け,掃除や整頓,趣味,読書の項目で改善を認めた.MOHOSTは82点で,興味や価値のある活動に取り組み,役割や日課が改善した.退院後のA氏からは,ADLを自立して家事を一部再開し,友人との文通,交換日記を継続する肯定的なOIを聴取できた.
【考察】A氏は骨折や加齢による心身の変化から,OIの葛藤を認めていた.整容や新聞を読むこと,交換日記と対話を通した作業の協業は,A氏にとって過去,現在,未来のOIを考える契機となったと考える.そして,OIQから心身の変化を前向きに捉えた未来のOIを明らかにし,A氏の望む作業や役割を整理して申し送ったことが,退院後の肯定的なOIの維持と作業参加につながったと考える.
【事例紹介】A氏は90歳代前半の女性で,夫と長男夫婦と同居し,家事を担う役割があった.X年Y月Z日に右股関節転子部骨折から歩行困難となり,Z+22日に回復期病棟へ転院した.
【作業療法評価】機能的自立度評価法(以下,FIM)は74/126点(運動45点,認知29点)で,ADL全般に中等度介助を要した.Frenchay Activities Index(以下,FAI)は0点であった.人間作業モデルスクリーニングツール(以下,MOHOST)は59/96点で,体力や認知機能の低下への不安が強く,臥床傾向であった.以前の役割や習慣は維持できず,興味や価値のある作業が曖昧であった.また,「良い人生だった.もう死んでも良い」と語る一方「元の生活に戻りたい」と話し,OIの葛藤を認めた.
【介入経過】認知症高齢者の絵カード評価法の実施から,A氏が価値を置き,馴染みのあった整容や新聞を読むといった作業を導入して離床を促した.これらは1週間で日課となったが,記憶の低下を気にする様子が確認された.記憶を補い,日々の連続性が感じられるようZ+42日にA氏と交換日記を開始し,Z+49日に日課となった.また,不安の強いA氏と退院後を想定したADL練習を行った.それにより,退院後のADLや役割を想定でき,発言や交換日記に肯定的な内容が増えた.ADLは福祉用具を用いて起居,移乗,トイレが自立し,2本杖歩行も監視下で可能となった.退院が近づきA氏の思いを尊重した支援に向けて,作業同一性質問紙(以下,OIQ)を実施した.その結果,主婦の役割を担い様々なことに挑戦していた過去,「体力が落ちた」と感じる現在,そして,「病前より体力はないが,やれることを取り組めたらいい」と考える未来のOIを聴取した.A氏は,過去のOIを振り返り,現在のOIから未来のOIを見出し,肯定的なOIを形成することができた.肯定的なOIを維持するために,対話を続けA氏が行いたい活動を整理し,ADLや家事,友人との文通,交換日記等の作業が継続できるよう書面で家族やケアマネジャーに申し送り,Z+115日に自宅退院となった.
【結果】FIMは79点(運動57点,認知22点)であった.FAIは12点で,食事の片付け,掃除や整頓,趣味,読書の項目で改善を認めた.MOHOSTは82点で,興味や価値のある活動に取り組み,役割や日課が改善した.退院後のA氏からは,ADLを自立して家事を一部再開し,友人との文通,交換日記を継続する肯定的なOIを聴取できた.
【考察】A氏は骨折や加齢による心身の変化から,OIの葛藤を認めていた.整容や新聞を読むこと,交換日記と対話を通した作業の協業は,A氏にとって過去,現在,未来のOIを考える契機となったと考える.そして,OIQから心身の変化を前向きに捉えた未来のOIを明らかにし,A氏の望む作業や役割を整理して申し送ったことが,退院後の肯定的なOIの維持と作業参加につながったと考える.