[PJ-4-7] 自己効力感の低下した高齢者に対する課題指向型訓練と楽しさ提供の有用性
【はじめに】課題指向型訓練は世界的にも有用とされ,機能改善だけでなく行動変容を促していくことが重要と言われている.高橋(2020)は行動変容を促すには自己効力感と報酬期待の相互作用が重要と述べ,また本家(2016)は内発的動機付けに基づいた作業経験により自己効力感が向上すると述べている.本報告の目的は,自己効力感の低下した高齢者に対する,課題指向型訓練と余暇活動を通した内発的動機付けの有用性について報告する.尚,本報告は当院倫理委員会にて承認を得ている.
【事例紹介】A氏,70代女性.自宅にて娘,息子,孫と4人暮らしで,シルバーカーを使用しADLは自立.X年Y月,自宅で転倒し,右大腿骨頸部骨折にてB病院へ搬送.術後Y+1月に自宅退院も,転倒を繰り返し,ADL重度~中等度介助必要となり当院入院.A氏は「生きていても迷惑を掛ける」と悲観的な発言が増え,ベッド上での生活となる.作業歴は,新しいことを始めたいと40代で絵画に挑戦する.50代にはリウマチ,60代には左脳梗塞を発症し,利き手での書字困難となるも,非利き手での絵画を続け,優秀賞を受賞し,展示会には定期的に参加していた.
【作業療法評価】Br.stage右上肢Ⅳ,手指Ⅴ,下肢Ⅳ.MMTは右下肢2,左下肢3,右上肢3,左上肢4と筋力低下あり.HDS-R28/30点,TMT-A51秒,TMT-B187秒と,安全や時間等の管理能力は保たれている.FIMは68点(運動40点/認知28点).人間作業モデルスクリーニングツール(以下,MOHOST)は38/96点(作業への動機付け6/16点,作業のパターン5/16点,環境5/16点).元々の趣味人としての習慣や役割はなくなり,また一般性セルフエフェカシー尺度(以下,GSES)0/16点と自己効力感は低下し,さらに必要とされる存在から迷惑を掛ける存在になったと,価値が満たされない状況となる.
【治療方針】課題指向型アプローチにて課題を段階付けると共に,楽しさ評価法を用い,余暇活動を通して自己効力感を高めることで,絵画といった生きがいを取り戻すこととした.
【介入経過と結果】OTは悲観的だったA氏に,まず高齢者版・余暇活動の楽しさ評価法(以下,LAES)を用い,絵画についての語りを引き出した.絵画の話題になるとA氏は自ら語りだし,徐々に笑顔も増えていった.意志が働き始めたA氏に,生活上での課題を段階付け,介入を行うこととした.一つひとつ小さな達成を積み重ねることで語りは変化し,「~したい」といった欲求となった.Y+2月,欲求が芽生えたタイミングで,OTはA氏に絵画への挑戦を再び促した.一度は諦めた絵画だったがA氏は挑戦したい気持ちへと変化していた.Y+3月,OTはPTと課題の段階付けの共有を図り,達成経験の積み重ねの提供.またSTとは,A氏の楽しさの価値を伝え,A氏に教えてもらう役割で絵画の機会を提供.そしてY+4月,前担当OTとは,A氏に飼っているペットの絵が欲しい旨を伝えてもらい,プレゼントする機会をA氏に提供した.このように,達成経験の積み重ねと余暇活動を通して他者から必要とされる経験をしたA氏の生活は主体的へと変化し,退院した現在も他者のために絵画を続けている.
【結果】FIMは84点(運動55点/認知29点).MOHOSTは60/96点(作業への動機付け12/16点,作業のパターン11/16点,環境11/16点).GSESは4/16点へと改善した.
【考察】課題指向型訓練は,生活上の課題を段階付けるため,生活の自己効力感向上へ直結しやすい.段階付けた課題は,OTのみでなく他職種とも共有を図り,同じ課題の段階付けを行うことで,より効果的となった.また作業の動機付けにはLAESを用いた介入は有用であり,その人にとっての『楽しさ』とは何か,そして動機付けを強めるための価値を探ることが重要であった.自己効力感の低下した高齢者に対し,課題指向型訓練と楽しさの提供は有用である.
【事例紹介】A氏,70代女性.自宅にて娘,息子,孫と4人暮らしで,シルバーカーを使用しADLは自立.X年Y月,自宅で転倒し,右大腿骨頸部骨折にてB病院へ搬送.術後Y+1月に自宅退院も,転倒を繰り返し,ADL重度~中等度介助必要となり当院入院.A氏は「生きていても迷惑を掛ける」と悲観的な発言が増え,ベッド上での生活となる.作業歴は,新しいことを始めたいと40代で絵画に挑戦する.50代にはリウマチ,60代には左脳梗塞を発症し,利き手での書字困難となるも,非利き手での絵画を続け,優秀賞を受賞し,展示会には定期的に参加していた.
【作業療法評価】Br.stage右上肢Ⅳ,手指Ⅴ,下肢Ⅳ.MMTは右下肢2,左下肢3,右上肢3,左上肢4と筋力低下あり.HDS-R28/30点,TMT-A51秒,TMT-B187秒と,安全や時間等の管理能力は保たれている.FIMは68点(運動40点/認知28点).人間作業モデルスクリーニングツール(以下,MOHOST)は38/96点(作業への動機付け6/16点,作業のパターン5/16点,環境5/16点).元々の趣味人としての習慣や役割はなくなり,また一般性セルフエフェカシー尺度(以下,GSES)0/16点と自己効力感は低下し,さらに必要とされる存在から迷惑を掛ける存在になったと,価値が満たされない状況となる.
【治療方針】課題指向型アプローチにて課題を段階付けると共に,楽しさ評価法を用い,余暇活動を通して自己効力感を高めることで,絵画といった生きがいを取り戻すこととした.
【介入経過と結果】OTは悲観的だったA氏に,まず高齢者版・余暇活動の楽しさ評価法(以下,LAES)を用い,絵画についての語りを引き出した.絵画の話題になるとA氏は自ら語りだし,徐々に笑顔も増えていった.意志が働き始めたA氏に,生活上での課題を段階付け,介入を行うこととした.一つひとつ小さな達成を積み重ねることで語りは変化し,「~したい」といった欲求となった.Y+2月,欲求が芽生えたタイミングで,OTはA氏に絵画への挑戦を再び促した.一度は諦めた絵画だったがA氏は挑戦したい気持ちへと変化していた.Y+3月,OTはPTと課題の段階付けの共有を図り,達成経験の積み重ねの提供.またSTとは,A氏の楽しさの価値を伝え,A氏に教えてもらう役割で絵画の機会を提供.そしてY+4月,前担当OTとは,A氏に飼っているペットの絵が欲しい旨を伝えてもらい,プレゼントする機会をA氏に提供した.このように,達成経験の積み重ねと余暇活動を通して他者から必要とされる経験をしたA氏の生活は主体的へと変化し,退院した現在も他者のために絵画を続けている.
【結果】FIMは84点(運動55点/認知29点).MOHOSTは60/96点(作業への動機付け12/16点,作業のパターン11/16点,環境11/16点).GSESは4/16点へと改善した.
【考察】課題指向型訓練は,生活上の課題を段階付けるため,生活の自己効力感向上へ直結しやすい.段階付けた課題は,OTのみでなく他職種とも共有を図り,同じ課題の段階付けを行うことで,より効果的となった.また作業の動機付けにはLAESを用いた介入は有用であり,その人にとっての『楽しさ』とは何か,そして動機付けを強めるための価値を探ることが重要であった.自己効力感の低下した高齢者に対し,課題指向型訓練と楽しさの提供は有用である.