第58回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-5] ポスター:高齢期 5

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PJ-5-6] 地域在住高齢者における認知機能と発散的思考の関連

山下 円香, 三木 恵美, 砂川 耕作, 宮原 智子, 吉村 匡史 (関西医科大学 リハビリテーション学部 作業療法学科)

【序論】
 発散的思考は問題解決や社会機能に関連すると考えられており,柔軟な環境適応のために重要な認知機能である.発散的思考の評価の一つであるThe Tinkertoy Test(以下TTT)はLezak(1982)によって遂行機能検査として作成された自由構成課題で,50個のピースを用いて自由に構造物を作成し名称を付けるという発散的思考の評価の側面をもつオープンエンドな検査である.認知能力と発散的思考の関連について検証することは,高齢者の環境適応に向けた対策の一助になると考える.
【目的】
 地域在住高齢者を対象に認知機能と発散的思考との関連をみることを目的とした.
【方法】
 地域在住高齢者97名(平均73.8歳)を対象とし,認知機能にMontreal Cognitive Assessment日本語版,注意機能にTrail Making Test日本版A,B(以下TMT-A,B),発散的思考には中村ら(2017)による修正版TTTを評価に用いた.修正版TTTは,下位7項目(構成・使用部品数・名称・可動性・立体性・安定性・誤り)を含む複雑さの得点と,作成イメージの明瞭さで採点する作成プロセス得点,これらの総合得点から成る. MoCA-J 26点以上を健常群(54名),25点以下を低下群(43名)とし,年齢,TMT,修正版TTTの各得点についてMann-Whitney U検定による群間比較を行った(有意水準p<0.05).本研究は所属機関の倫理審査承認を受けており,対象者には研究参加の文書同意を得た.
【結果】
 両群の比較結果(健常群平均±標準偏差,低下群平均±標準偏差,p_value)を以下に示す.年齢(71.3±6.6,76.9±6.2,7.57E-05),TMT-A(45.4±14.6,58.1±23.2,1.55E-3),TMT-B(70.2±23.4,107.4±38.4,5.99E-8),複雑さの得点(8.7±1.9,7.8±2.1,0.029),作成プロセス得点(2.1±0.9,1.7±1.0,0.053),総合得点(10.9±2.6,9.56±2.9,0.022).TTT作成プロセスを除いて有意差を認めた.さらに,複雑さの得点のうち名称(2.4±1.0,1.9±0.1,0.028)と誤り(0.0,-0.12±0.39,0.031)にて有意差を認めた.
【考察】
 自由構成課題であるTTTは作成イメージとしての内的表象を自ら産生し,それに向かい構造物を作成するという過程が含まれるため,表象産生能力と構成能力が影響すると考えられる.有意差がみられた複雑さの評価に含まれる使用部品数や可動性,立体性の項目は内的表象の豊かさに下支えされた構成能力が影響し,名称では適した表現のために明瞭な表象が必要になることから,認知機能の低下と発散的思考に必要な表象産生能力やその明瞭さの低下が関連することが示唆された.構成ミスを評価する誤りは主に構成能力が影響するため,この群間差は認知機能低下と構成能力低下の関連を示唆し,軽度認知機能低下に伴う構成能力低下に関する先行研究と一致する結果であった.また, TTT遂行過程には,提示されたピースと記憶を照合しながら表象の候補を挙げるための注意の分散,決定した表象を継続するための注意の集中が求められるため,本結果はTTT遂行に対する注意機能の影響も間接的に示唆すると考えられた.さらに,低下群は有意に年齢が高かったことで,このTTT得点差は加齢の影響を受けている可能性がある.しかし,加齢による認知機能低下の個人差は60~80代の高齢期後期になるにつれて拡大することが報告されており,今後は年齢の影響を受けにくい条件における発散的思考の個人差に関与する因子も検証する必要があると考える.それによって,環境適応に重要な発散的思考のために作業療法が焦点化すべき重要な手がかりが得られるのではないかと考える.