[PJ-6-3] 「(食事は)いらん」の背景にあるもの.
潜在するニーズに着目し,性格傾向に合わせた環境設定とケア技法を取り入れた支持的介入
【はじめに】
今回,経口摂取拒否により廃用状態となった症例に対して,『食事の場を共有する』というリハビリを実施した.本症例の感じる『食事』への本当の意味を解釈しながら,性格傾向に合わせて介入することで自力摂取,Activityへの参加に伴い,日常生活活動(以下,ADL)の向上が認められたため以下に報告する.なお本症例に対し,紙面と口頭にて発表の同意を得た.
【症例紹介】
本症例は,80歳代の女性であり,主訴は「何もせんでいい」「(食事は)いらん」であった.こだわりが強く,思う通りにならないと声をあげる場面も見られたが,会話は好きな印象を受けた.X–3年より腰痛があり,Y–8月疼痛増強し,入院加療開始となった.施設入所予定であったが,Y–6月より食欲・気力の低下がみられ,食事・点滴も拒否となり,ADLが全介助となった.
【作業療法評価】
リハビリに対して拒否はないが,消極的で,常時自室カーテンを閉め切っていた.日によって意欲に差がみられ,介助レベル,活動量,食事摂取量が変動した.3食の経管栄養であり,昼のみ高栄養ゼリーを摂取し.介助下だと1口,自力摂取促しで半量程度で,その後は拒否することが続いた.経管栄養について「そりゃ嫌よね」や「家族皆で食べるんがええんよね」といった発言,また,編み物の話題では「昔は色んな物作ってあげとったね」と他者交流を懐かしむ発言もあった.FIMは26/126点(運動・認知項目各13点),BMIは15.7であった.
【方法】
訓練は(1)ユマニチュードを意識したコミュニケーション,(2)下肢可動域・筋力増強練習,(3)基本動作練習,(4)セラピストとの『食事の場の共有』,(5)食事嗜好に対する環境設定,(6)手続き記憶を利用した作業活動,他者交流機会,(7)Activity参加を行った.
【経過と結果】
訓練(1)〜(4)を開始し,摂取量が増加したため,3食経口摂取(朝/夕経管栄養)となった.しかし,おかずしか食べないなどの偏りが生じたため,訓練(5)を実施し,BMIが19.5まで改善した.栄養状態が改善したことで訓練(6),(7)が実施でき,前向きな発言も聞かれた.本人希望により自室カーテンを10cm程度開ける・食事時間の管理といった院内生活への関心も高まり,FIMは43/126点(運動項目27点・認知項目16点)へと改善した.
【考察】
今回,こだわりの強い本症例に対して,ユマニチュードを意識した関わりを行った.介入の中で『食べること』に意味や楽しさを感じていないと判断し,『誰かと食べる』といった環境設定を行った.本症例の「(食事は)いらん」という言葉を単なる拒否と捉えるのではなく,どういった思いでの発言なのか,根底にある背景の把握も追求したことで,食事摂取量の増加が得られたと考える.「ユマニチュードを実践することにより複数の感覚器からの刺激が視床を経て扁桃体に送られ,感情を『快』にした状態で,複製された情報が大脳皮質に送られ,高次の処理などが行われ,その結果,脳の様々な部分が活性化され,視床下部を介して,ホルモンの分泌(オキシトシンなど)を促し,自律神経を整え,表情・行動をポジティブにし,新たな思考・行動を誘発し,これらを繰り返して心も身体も良好な状態にすることが可能となる」(竹林,2015)とされており,性格傾向を加味し,ケア技法を取り入れた関わりが効果的であったと考えた.
今回,経口摂取拒否により廃用状態となった症例に対して,『食事の場を共有する』というリハビリを実施した.本症例の感じる『食事』への本当の意味を解釈しながら,性格傾向に合わせて介入することで自力摂取,Activityへの参加に伴い,日常生活活動(以下,ADL)の向上が認められたため以下に報告する.なお本症例に対し,紙面と口頭にて発表の同意を得た.
【症例紹介】
本症例は,80歳代の女性であり,主訴は「何もせんでいい」「(食事は)いらん」であった.こだわりが強く,思う通りにならないと声をあげる場面も見られたが,会話は好きな印象を受けた.X–3年より腰痛があり,Y–8月疼痛増強し,入院加療開始となった.施設入所予定であったが,Y–6月より食欲・気力の低下がみられ,食事・点滴も拒否となり,ADLが全介助となった.
【作業療法評価】
リハビリに対して拒否はないが,消極的で,常時自室カーテンを閉め切っていた.日によって意欲に差がみられ,介助レベル,活動量,食事摂取量が変動した.3食の経管栄養であり,昼のみ高栄養ゼリーを摂取し.介助下だと1口,自力摂取促しで半量程度で,その後は拒否することが続いた.経管栄養について「そりゃ嫌よね」や「家族皆で食べるんがええんよね」といった発言,また,編み物の話題では「昔は色んな物作ってあげとったね」と他者交流を懐かしむ発言もあった.FIMは26/126点(運動・認知項目各13点),BMIは15.7であった.
【方法】
訓練は(1)ユマニチュードを意識したコミュニケーション,(2)下肢可動域・筋力増強練習,(3)基本動作練習,(4)セラピストとの『食事の場の共有』,(5)食事嗜好に対する環境設定,(6)手続き記憶を利用した作業活動,他者交流機会,(7)Activity参加を行った.
【経過と結果】
訓練(1)〜(4)を開始し,摂取量が増加したため,3食経口摂取(朝/夕経管栄養)となった.しかし,おかずしか食べないなどの偏りが生じたため,訓練(5)を実施し,BMIが19.5まで改善した.栄養状態が改善したことで訓練(6),(7)が実施でき,前向きな発言も聞かれた.本人希望により自室カーテンを10cm程度開ける・食事時間の管理といった院内生活への関心も高まり,FIMは43/126点(運動項目27点・認知項目16点)へと改善した.
【考察】
今回,こだわりの強い本症例に対して,ユマニチュードを意識した関わりを行った.介入の中で『食べること』に意味や楽しさを感じていないと判断し,『誰かと食べる』といった環境設定を行った.本症例の「(食事は)いらん」という言葉を単なる拒否と捉えるのではなく,どういった思いでの発言なのか,根底にある背景の把握も追求したことで,食事摂取量の増加が得られたと考える.「ユマニチュードを実践することにより複数の感覚器からの刺激が視床を経て扁桃体に送られ,感情を『快』にした状態で,複製された情報が大脳皮質に送られ,高次の処理などが行われ,その結果,脳の様々な部分が活性化され,視床下部を介して,ホルモンの分泌(オキシトシンなど)を促し,自律神経を整え,表情・行動をポジティブにし,新たな思考・行動を誘発し,これらを繰り返して心も身体も良好な状態にすることが可能となる」(竹林,2015)とされており,性格傾向を加味し,ケア技法を取り入れた関わりが効果的であったと考えた.