第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-6] ポスター:高齢期 6

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-6-4] 我が国における転倒予防の心理的アプローチの現状と課題

研究および事例研究のスコーピングレビュー

石塚 匠海1,2, 會田 玉美2, 山田 孝3,4 (1.医療法人社団松寿会 丘整形外科病院, 2.目白大学大学院リハビリテーション学研究科, 3.一般社団法人人間作業モデル研究所, 4.東京都立大学名誉教授)

【はじめに】我が国における高齢者の転倒発生率は過去10年間増加傾向を示している.日本転倒予防学会では,転倒予防のリハビリテーションとして,代償的,治療的,環境改善的,心理的の4つのアプローチを挙げている.心理的アプローチでは,Banduraが提唱したself-efficacy理論をもとに転倒自己効力感尺度(the Falls Efficacy Scale: FES)や項目を追加した(Modified Falls Efficacy Scale:MFES)尺度が開発されている.しかし,心理的アプローチは具体的なアプローチや明確な治療方法は示されていない.
【目的】本研究の目的は,転倒予防における転倒恐怖心と,転倒自己効力感に対する心理的アプローチの研究動向を国内の原著論文から探り,転倒予防の心理的アプローチを把握することである.
【方法】本研究は,Preferred Reporting Items for Systematic reviews and MetaAnalyses extension for Scoping Reviewsに準拠して論文を選択した.適格基準は全国紙発行の原著論文,転倒恐怖や転倒自己効力感の評価を用い,その研究や介入が転倒恐怖や転倒自己効力感に影響や関連を示したものとした.アブストラクトフォームを作成し,方法及び結果の記述から効果判定に使用された評価を心理的側面,身体的側面に分類した.次に転倒恐怖心や転倒自己効力感に対する心理的アプローチのため, Banduraのself-efficacy理論の①制御体験,②代理体験,③言語的説得,④生理的・情動的喚起をもとに方法や結果を分類した.さらに転倒恐怖心や転倒自己効力感等の心理的要因に関連するプログラムを抽出し,ICF(国際生活機能分類)で分類した.
【結果】2023年10月14日に医中誌WEBおよびCiNiiにて検索した.キーワート゛は[高齢者,転倒恐怖心,介入]と[高齢者,転倒自己効力感,介入]とした.180件が抽出され,適格基準を満たした論文は31件であった.効果判定に使用された評価は,心理面は,転倒恐怖関連評価が29件,精神評価7件,認知機能/知的機能10件,QOL評価6件,高次脳機能評価5件の総計57件であった.身体面の評価は,バランス評価39件,歩行関連評価21件,筋力・関節可動域評価15件, ADL・IADL評価15件,身体活動量評価5件, ,疼痛評価6件,その他8件,総計109件であった. 31論文のうち, Self-efficacy理論の要素は①制御体験8論文,②代理体験2論文,③言語的説得4論文,④生理的情動的喚起2論文,記載なしが21論文であった. 対象論文に記載された心理的要因に関連するプログラムを抽出し,ICFで分類した結果,機能訓練15論文,歩行関連5論文,痛み関連は2論文であった.活動性に関連するものは10論文,体操6論文,ADL /IADL関連4論文であった.教育・指導は5論文,健康状態4論文,環境設定は2論文となり,プログラムの種類は全43種類の報告がみられた.プログラムのICFの分類は,心身機能・身体構造,活動・参加ともに26論文となった.活動・参加の内訳は運動・移動6論文,セルフケア5論文,家庭生活4論文,環境因子3論文,個人因子4論文,そして健康状態2論文であった.
【考察】対象論文では身体機能面の評価が多く,機能訓練に伴う転倒恐怖心や転倒自己効力感の変化が示されていた.また全論文でFESやMFESを用いていたが運動療法による心理面の変化の測定やSelf-efficacy理論に基づく結果や考察が不十分と考えられる.転倒恐怖心や転倒自己効力感に影響を与える因子として活動・参加に焦点を当て,単に身体機能やADL面が低下すると転倒自己効力感が低下すると考えるのではなく,生活背景や社会とのつながりを考慮した評価や視点が重要であることが示唆された.