[PJ-6-6] 特別養護老人ホームにおける自己肯定感を引き出す商品販売の取り組み
【はじめに】
生きがいを感じる施設生活の実現のため,利用者の強みに着目し商品販売を行った.その経過で見えた利用者の変化や施設の役割について以下報告する.※ヘルシンキ宣言に基づき本人,家族へ同意を得た.
【目的】
高齢者は,健康問題により喪失感や生きる希望を失いやすい.その予防策となる自己肯定感の向上には,自分の行動が他者貢献に繋がる承認が重要である1).そこで当施設の現状調査と仕組み作りを図った.
【方法】
(1)承認される場の設定 (2)強みの評価/作業分析 (3)商品作り/販売(施設内無人販売所)
※自己肯定感の変化の分析(対応のあるt検定)
【評価】
1.心身機能評価:認知機能/手指の巧緻性/興味関心など
2.日本版RSES(RSES-J):得点(22.28±4.17):11名(男性1名,女性10名 年齢91.09±6.35歳)
3.商品選定:縫物(マスク),編物(エコたわし,マフラー),手工芸(コースター,髪ゴム,エコゴミ袋)など
【結果】
1.導入期:利用者達は口を揃えて「今更できんよ」と発言していた.しかしOTが蛇の目ミシンの操作に戸惑っていると針が違うと指摘する.それを見て「懐かしか,でも足が敵わんけん手が縫いやすか」とマスクを縫い始めた.その一人の行動を機に,他の利用者達も手を動かし始めた.
2.実行期:商品作りが軌道に乗った頃「誰も買わんよ」と自信のなさが認められた.そこでラッピングや値段設定をしてもらい商品への愛着形成を図った.また職員へ作業工程を公開(施設内blog)し注目度を高めた.結果,販売当日で4,900円を売り上げ.職員も「マスクの柄が素敵」等,業務の合間に利用者へ感謝を伝えた.1か月後,利用者へ2,000円ずつの給与を支払い,孫へのジュース代・利用者間での手土産代に使われた. 1年間で売上は51,500円となり,交友が深まったコミュニティで忘年会を開催した.
3.変革期:1年経過した頃,地域の保育園からレモングラスを頂いた.利用者とレモングラスティーへと加工すると風味も良く健康促進の効能もあり好評だった.多くの人に届けたいと商品化を目指し,管理栄養士と保健所へ申請し新商品として販売した.販売所に制作過程を示した看板を置き,家族や来客から「お土産に買います」と幅広い人へ届いた.今では主力商品として販売し,皆で作り上げる構図となった.本取組後の利用者の変化としてRSES-Jでは,(22.28±4.17)から(24.09±4.21)と変化し,対応のあるt検定を行った結果,有意差が得られ[t(10)=2.28,p = .045],自己肯定感の向上が示唆された.
【考察】
本取組では,内的動機付けの強化と自己肯定感の獲得が要となった.給与という外的動機付けによる自己肯定感の低下も懸念したが,結果には反映されず,反対に自己決定・自己選択の場が増え,その人らしい暮らしへと繋がった.鹿毛らは 2)「自己決定理論は,心の3大欲求(関係性,有能感,自律性)を満たし内発的動機づけが生起させ,ウェルビーングを促進される」と述べ,まさにそれが体現化できた.
また承認を後押しするマネジメントも重要だった.広告や制作過程の視覚化による内的動機付けの強化.また商品をレモングラスティーへ変更し, 繰り返し購入される商品に展望したことで自己肯定感が促通された. 構築したコミュニティの強みが各工程で発揮され.また施設のブランド商品を利用者がキャストとして商売する本取組により,他者貢献という自己肯定感を得ることが出来た.生活期である施設の機能とOTの専門性(強みの評価と仕組み化)が重なる取り組みとなった.
【引用・参考文献】
1)強みを教える高齢者は幸福感が高い 朝日大学 報道発表 Press Release No:175-19-9 2019.6
2)モチべーションの心理学「やる気」と「意欲」のメカニズム 鹿毛雅治 著 中央公論新社 2022.1
生きがいを感じる施設生活の実現のため,利用者の強みに着目し商品販売を行った.その経過で見えた利用者の変化や施設の役割について以下報告する.※ヘルシンキ宣言に基づき本人,家族へ同意を得た.
【目的】
高齢者は,健康問題により喪失感や生きる希望を失いやすい.その予防策となる自己肯定感の向上には,自分の行動が他者貢献に繋がる承認が重要である1).そこで当施設の現状調査と仕組み作りを図った.
【方法】
(1)承認される場の設定 (2)強みの評価/作業分析 (3)商品作り/販売(施設内無人販売所)
※自己肯定感の変化の分析(対応のあるt検定)
【評価】
1.心身機能評価:認知機能/手指の巧緻性/興味関心など
2.日本版RSES(RSES-J):得点(22.28±4.17):11名(男性1名,女性10名 年齢91.09±6.35歳)
3.商品選定:縫物(マスク),編物(エコたわし,マフラー),手工芸(コースター,髪ゴム,エコゴミ袋)など
【結果】
1.導入期:利用者達は口を揃えて「今更できんよ」と発言していた.しかしOTが蛇の目ミシンの操作に戸惑っていると針が違うと指摘する.それを見て「懐かしか,でも足が敵わんけん手が縫いやすか」とマスクを縫い始めた.その一人の行動を機に,他の利用者達も手を動かし始めた.
2.実行期:商品作りが軌道に乗った頃「誰も買わんよ」と自信のなさが認められた.そこでラッピングや値段設定をしてもらい商品への愛着形成を図った.また職員へ作業工程を公開(施設内blog)し注目度を高めた.結果,販売当日で4,900円を売り上げ.職員も「マスクの柄が素敵」等,業務の合間に利用者へ感謝を伝えた.1か月後,利用者へ2,000円ずつの給与を支払い,孫へのジュース代・利用者間での手土産代に使われた. 1年間で売上は51,500円となり,交友が深まったコミュニティで忘年会を開催した.
3.変革期:1年経過した頃,地域の保育園からレモングラスを頂いた.利用者とレモングラスティーへと加工すると風味も良く健康促進の効能もあり好評だった.多くの人に届けたいと商品化を目指し,管理栄養士と保健所へ申請し新商品として販売した.販売所に制作過程を示した看板を置き,家族や来客から「お土産に買います」と幅広い人へ届いた.今では主力商品として販売し,皆で作り上げる構図となった.本取組後の利用者の変化としてRSES-Jでは,(22.28±4.17)から(24.09±4.21)と変化し,対応のあるt検定を行った結果,有意差が得られ[t(10)=2.28,p = .045],自己肯定感の向上が示唆された.
【考察】
本取組では,内的動機付けの強化と自己肯定感の獲得が要となった.給与という外的動機付けによる自己肯定感の低下も懸念したが,結果には反映されず,反対に自己決定・自己選択の場が増え,その人らしい暮らしへと繋がった.鹿毛らは 2)「自己決定理論は,心の3大欲求(関係性,有能感,自律性)を満たし内発的動機づけが生起させ,ウェルビーングを促進される」と述べ,まさにそれが体現化できた.
また承認を後押しするマネジメントも重要だった.広告や制作過程の視覚化による内的動機付けの強化.また商品をレモングラスティーへ変更し, 繰り返し購入される商品に展望したことで自己肯定感が促通された. 構築したコミュニティの強みが各工程で発揮され.また施設のブランド商品を利用者がキャストとして商売する本取組により,他者貢献という自己肯定感を得ることが出来た.生活期である施設の機能とOTの専門性(強みの評価と仕組み化)が重なる取り組みとなった.
【引用・参考文献】
1)強みを教える高齢者は幸福感が高い 朝日大学 報道発表 Press Release No:175-19-9 2019.6
2)モチべーションの心理学「やる気」と「意欲」のメカニズム 鹿毛雅治 著 中央公論新社 2022.1