[PJ-7-1] 認知症機能低下を呈する患者に対する小集団での作業療法の試み
【はじめに】
当院では,回復期リハビリテーション病棟入院中の認知症機能低下を呈する患者を対象として,行動心理症状の改善や,対人交流の促進を目的とした集団での創作活動(以下,活動)を実施している.今回は対象者を認知機能の重症度に基づいて3群に分け,活動前後の比較を行った結果を報告する.
【対象】
対象は,2016年4月1日から2019年3月31日までに活動に参加した者とした.性別は女性66名,男性3名の合計69名,Mini-Mental-State Examination(以下,MMSE)は平均15.85±5.0点,平均年齢85.3±5.5歳であった.活動への参加基準は,既に認知症と診断されている,または何かしらの認知機能低下が疑われる者とした.主病名は運動器疾患及び廃用症候群とし,脳血管障害等による高次脳機能障害が活動や帰結評価に著しく影響する者は除外した.対象者および家族には,同意を得ている.
【活動の方法と評価】
活動は,1回40分とし,週1回の頻度で,1人の対象者あたり8週間実施した.活動内容はカレンダー作りとし,創作の前後で,自己紹介や季節の話題の提供,その日の感想や成果報告を行った.1回の活動には約6名の対象者が参加した.作業療法士は,対象者の能力に応じて取り組む課題を設定し,全ての対象者が活動に参加できるよう配慮を行った.帰結評価は,全般的な認知機能としてMMSE,交流技能としてAssessment of Communication and Interaction Skills(以下,ACIS),行動心理症に対する介護負担度として,Neuropsychiatric inventoryの介護負担度(以下,NPI)を用いた.統計解析は,MMSEの点数が1点から10点を重度群(11名),11点から20点を中等度群(43名),21点以上を軽度群(15名)に分類し,各群の活動前後の結果はWilcoxon符号付順位検定を用いて解析を行い,有意水準は5%とした.
【結果】
結果を中央値(四分位範囲)で示す.重度群では,MMSEは,9.0(7.5‐10.0)点から11.0(10.0‐14.5)点(p<0.05)に有意な改善を認めた.ACISでは,65.0(61.0‐73.5)点から69.0(57.5‐76.5)点,NPIでは,3.0(2.0‐4.7)点から3.0(1.0‐4.7)点で有意な変化はなかった.重度群の対象者には,帰結評価に変化はないが,参加を重ねるごとに笑顔が増える等が散見された.中等度群では,MMSEは,16.0(13.5‐18.0)点から18.0(14.0‐20.0)点(p<0.05),ACISでは,74.0(65.0‐76.5)点から75.0(68.0‐78.0)点(p<0.05),NPIでは,4.0(1.0‐7.0)点から2.0(0.0‐4.0)点(p<0.01)と全項目で有意な改善を認めた.軽度群では,MMSEは,22.0(21.0‐23.0)点から25.0(23.5‐27.5)点(p<0.05),ACISでは,74.0(69.5‐76.5)点から78.0(71.5‐78.5)点(p<0.01),NPIでは,2.0(0.5‐3.5)点から1.0(0.0‐2.5)点(p<0.05)と全項目で有意な改善を認めた.
【考察】
軽度群と中等度群の対象者は,参加前後でMMSE,NPI ,ACISが改善しており,これらの群は,集団の中で役割を持つことや社会的相互作用によって交流技能や精神機能が改善した可能性がある.重度群は,ACIS,NPIに有意差はなかった.重度群の対象者は,活動中も対人交流が行い難く,小集団ならではの効果が反映されなかった可能性がある.重度群は,活動による効果が,気分の変化などの微細な変化として現れることも少なくないと感じており,他の群と同じ評価では変化を捉え難かった可能性がある.また,対象者は通常のリハビリテーション介入も併行して実施しており,本活動単独の効果とは言えず,今後は比較対照群を設ける必要もあると考えている.
当院では,回復期リハビリテーション病棟入院中の認知症機能低下を呈する患者を対象として,行動心理症状の改善や,対人交流の促進を目的とした集団での創作活動(以下,活動)を実施している.今回は対象者を認知機能の重症度に基づいて3群に分け,活動前後の比較を行った結果を報告する.
【対象】
対象は,2016年4月1日から2019年3月31日までに活動に参加した者とした.性別は女性66名,男性3名の合計69名,Mini-Mental-State Examination(以下,MMSE)は平均15.85±5.0点,平均年齢85.3±5.5歳であった.活動への参加基準は,既に認知症と診断されている,または何かしらの認知機能低下が疑われる者とした.主病名は運動器疾患及び廃用症候群とし,脳血管障害等による高次脳機能障害が活動や帰結評価に著しく影響する者は除外した.対象者および家族には,同意を得ている.
【活動の方法と評価】
活動は,1回40分とし,週1回の頻度で,1人の対象者あたり8週間実施した.活動内容はカレンダー作りとし,創作の前後で,自己紹介や季節の話題の提供,その日の感想や成果報告を行った.1回の活動には約6名の対象者が参加した.作業療法士は,対象者の能力に応じて取り組む課題を設定し,全ての対象者が活動に参加できるよう配慮を行った.帰結評価は,全般的な認知機能としてMMSE,交流技能としてAssessment of Communication and Interaction Skills(以下,ACIS),行動心理症に対する介護負担度として,Neuropsychiatric inventoryの介護負担度(以下,NPI)を用いた.統計解析は,MMSEの点数が1点から10点を重度群(11名),11点から20点を中等度群(43名),21点以上を軽度群(15名)に分類し,各群の活動前後の結果はWilcoxon符号付順位検定を用いて解析を行い,有意水準は5%とした.
【結果】
結果を中央値(四分位範囲)で示す.重度群では,MMSEは,9.0(7.5‐10.0)点から11.0(10.0‐14.5)点(p<0.05)に有意な改善を認めた.ACISでは,65.0(61.0‐73.5)点から69.0(57.5‐76.5)点,NPIでは,3.0(2.0‐4.7)点から3.0(1.0‐4.7)点で有意な変化はなかった.重度群の対象者には,帰結評価に変化はないが,参加を重ねるごとに笑顔が増える等が散見された.中等度群では,MMSEは,16.0(13.5‐18.0)点から18.0(14.0‐20.0)点(p<0.05),ACISでは,74.0(65.0‐76.5)点から75.0(68.0‐78.0)点(p<0.05),NPIでは,4.0(1.0‐7.0)点から2.0(0.0‐4.0)点(p<0.01)と全項目で有意な改善を認めた.軽度群では,MMSEは,22.0(21.0‐23.0)点から25.0(23.5‐27.5)点(p<0.05),ACISでは,74.0(69.5‐76.5)点から78.0(71.5‐78.5)点(p<0.01),NPIでは,2.0(0.5‐3.5)点から1.0(0.0‐2.5)点(p<0.05)と全項目で有意な改善を認めた.
【考察】
軽度群と中等度群の対象者は,参加前後でMMSE,NPI ,ACISが改善しており,これらの群は,集団の中で役割を持つことや社会的相互作用によって交流技能や精神機能が改善した可能性がある.重度群は,ACIS,NPIに有意差はなかった.重度群の対象者は,活動中も対人交流が行い難く,小集団ならではの効果が反映されなかった可能性がある.重度群は,活動による効果が,気分の変化などの微細な変化として現れることも少なくないと感じており,他の群と同じ評価では変化を捉え難かった可能性がある.また,対象者は通常のリハビリテーション介入も併行して実施しており,本活動単独の効果とは言えず,今後は比較対照群を設ける必要もあると考えている.