第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-7] ポスター:高齢期 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-7-2] 重度認知症デイケア「にじの郷」を開設して

当該圏域における役割を考える

松岡 明子, 三木 聡之, 石井 富美代, 石川 智久, 王丸 道夫 (医療法人洗心会 荒尾こころの郷病院)

【はじめに】当院では令和5年5月,当該圏域で初めてとなる重度認知症デイケア「にじの郷」(以下,「にじの郷」)を開設した.現在の利用実態は,従来の報告と比較して認知症の程度は軽度の傾向にある.本研究は,「にじの郷」の利用実態を明らかにし,当該圏域で果たす役割について検討することを目的としている.
【方法】対象は「にじの郷」の利用者とその家族.方法は,①利用者の基礎データのまとめ,②利用開始時に家族から聴取した希望の類型化,③「にじの郷」利用前後の介護負担度の変化とその理由について聞き取り調査を実施した.なお,本研究は荒尾こころの郷病院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】①利用者の基礎データ:開設以降40名が「にじの郷」を利用している.男性15名,女性25名.平均年齢79.4±6.51歳.アルツハイマー型認知症が29名(72.5%)と最も多く,レビー小体型認知症3名(7.5%),血管性認知症,混合型認知症が3名(7.5%),その他2名(5%).要介護度認定は未申請が16名(40.0%)と最も多く,要介護1が14名(35.0%),要介護2が3名(7.5%),要介護4が1名(2.5%),要支援5名(12.5%)であった.Mini-Mental State Examinationは19.6±5.5点,改訂長谷川式簡易知能評価スケールは16.3±6.4点.Neuropsychiatric Inventoryでは87.5%の利用者にBPSDが認められ,無為・無関心が27名(67.5%)と最も多く,次いで興奮,睡眠が13名(32.5%)に,妄想,不安,食欲あるいは食行動の異常が9名(22.5%)に認められた.②利用開始時の家族の希望:利用開始時に聴取できた利用者家族39名の利用希望について類型化を行ったところ,11項目に分類できた.「QOLの維持・向上」を希望する家族が最も多く17名(43.6%),次いで「他者との交流」15名(38.5%),「心身機能の活性化」9名(21.1%)となっていた.③「にじの郷」利用前後の介護負担度調査:対象は「にじの郷」を3カ月以上継続利用し,聞き取り調査が実施できた利用者家族16名.介護負担は「減少した」13名(81.3%),「変わらない」1名(6.3%),「増えた」2名(12.5%)となっていた.介護負担が減少した13名の負担感は,利用前の10に対し1~8(平均4.6)に減少していた.減少した理由について類型化を行ったところ5項目に分類でき,「介護者の心理的負担感の減少」が最も多く12名(92.3%),次いで「心身機能の活性化」,「認知症の進行予防」が5名(38.5%)となっていた.介護負担が増えたと回答した2名は,いずれも「認知症の進行」を理由として挙げていた.
【考察】重度認知症デイケアは,その名称や利用者を認知症高齢者の日常生活自立度「ランクMに限定」とする施設機能から,対象として幻覚・妄想や暴言・暴力などのBPSDを有する認知症者がイメージされやすい.しかし在宅生活において,軽度認知症者が無為や不安などのBPSDを抱えながらも介護保険などの適切なサービスにつながりにくい実態は,認知症者とその家族の孤立を生じ,認知症が重症化していくことが課題となる.「にじの郷」がそのような軽度認知症者の居場所となり,心身機能の活性化,QOLを維持・向上し重症化を予防すること,家族にとっても早期より専門職とつながり相談・指導が受けられる安心感を含めた介護負担の軽減を図ることは,当該圏域における「にじの郷」の重要な役割のひとつと考える.