第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-7] ポスター:高齢期 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-7-4] 高齢者認知症外来受診の契機と認知機能障害の関係

神谷 詠子1,2, 鈴木 めぐみ3, 武地 一2, 前田 晃子3, 鈴村 彰太3 (1.国際医学技術専門学校 作業療法学科, 2.藤田医科大学病院 認知症・高齢診療科, 3.藤田医科大学 保健衛生学部リハビリテーション学科)

【序論】認知症の早期診断のためには,当事者が医療機関を受診して検査につながる事が必要である.受診理由や診断時の認知機能を調査した先行研究は散見されるが,受診のきっかけとなる「誰に気づかれたのか」の違いによる症状の特徴や重症度を検討した先行研究はない.
【目的】受診を勧めた属性の違いによる,初診時の症状の特徴,認知機能,生活状況を明らかにし,今後注力すべき支援の対象と方法について考察することである.
【方法】2016年から2023年までに当院認知症高齢診療科に初回診察を受けた中で,受診を勧めたのが家族(家族G)231名,医師(医師G)83名,本人自ら来院(本人G)57名,自動車運転免許更新時不合格(免許G)41名の合計412名を本研究の対象とし,4群間で比較検討を行った.分析には,性別,年齢,教育歴,家族構成,受診理由,受診を勧めた人,診断名,臨床的認知症尺度(CDR),老年期うつ病評価尺度(GDS15)を用いた.神経心理学的検査にはMMSE,HDS-R,論理的記憶課題(LMT)の即時再生(LMT1)と遅延再生(LMT2),視覚的記憶課題(SPMT)の即時再生(Pict1)と遅延再生(Pict2),時計描画テスト,積木模様テスト,Trail Making Test(TMT),語の流暢性検査(動物や野菜の名前,「か」で始まる語)を用いた.生活機能評価は地域包括システムにおける認知症アセスメントシート(DASC-21)を用いた.統計解析には統計ソフトEZR.R(Version 1.55)を用い,教育歴,CDR,年齢,性別の調整因子で調整した基で神経心理学検査は重回帰分析を,生活機能(DASC-21下位尺度)は順序ロジスティク回帰分析を行った.有意水準は5%とした.所属大学医学研究倫理審査委員会において承認を得て,対象者から同意書を得て実施した.
【結果】本人Gは家族Gと医師Gより認知症重症度が軽度であった.神経心理学検査は全ての検査で本人Gの成績が最も良好であった(p<0.05: MMSE,HDS-R,LMT1,LMT2,Pict1,Pict2,積木模様テスト,動物の名前). 免許Gは近時記憶検査の遅延再生で低下が認められた(p<0.05: LMT2,Pict2)が, 生活機能は他のグループより良好で(p<0.05: 見当識,家庭外ADL,家庭内ADL),抑うつ度が低かった(GDS15: p<0.05,本人G>免許G).MMSE の得点によるDASC-21との関連では群間差は認められず,同じ認知機能レベルであっても本人Gと免許Gより家族Gと医師GのDASC-21の結果が不良であった.
【考察】家族Gや医師Gはより症状が進行した状態で受診したと考えられた.つまり第三者から認知機能の低下を疑われた時点では既に生活機能が低下していることが推察された.免許Gは,自動車の運転をすることで社会とつながりを持ち生活していたと推測され,この事が抑うつのリスクを低下させたと考えられた.本人Gは抑うつ傾向であった.MCIの時期で将来への不安を感じていたと推察された.認知症の診断を受けることは,本人も家族大きな心理的抵抗があり,早期受診を阻んでいると考えられた.認知機能検査の結果が診断補助に終わらず,本人支援の為に使用されることが望ましいと考えられた.IADLの機能低下が認知症の初期の症状として他覚的に気付かれやすい指標になる事を示唆した.一方で,家族がIADLの機能低下を気づくという事は日常の生活をどれほど観察しているかに影響を受けるため,家族が認知症に気づく上での限界といえるかもしれない.IADLの機能の低下をいかに拾い上げるか,その方法が今後の課題となる.