[PJ-7-5] 認知症高齢者の嗅覚機能及び生活機能に関する一考察
【目的】
本研究の目的は,認知症を呈した高齢患者を対象とし,嗅覚機能及び生活機能に関する調査を行い,認知症の重症度別の特徴を明らかにすることである.
【方法】
1.対象
対象は,精神科病院に入院中のアルツハイマー型認知症を呈した患者のうち,本調査の趣旨に同意の得られた者とした.なお,重篤な身体症状や隔離を必要とする精神症状を有する者は本研究の対象から除外した.
2.評価項目
1)嗅覚機能の評価:①嗅覚同定検査としてOpen Essence(以下,OE),②においの自覚検査としてVAS,日常のにおいアンケート(都築ら 2009)を用いた.OEの合計点は11点,カットオフ値は7/8点であり,7点以下は嗅覚機能の低下があると判定される.また,家族介護者に対して嗅覚障害に関するアンケートを行なった.
2)精神機能の評価:①認知症重症度としてCDR,②認知機能としてMMSE,③認知症の行動・心理症状(以下,BPSD)としてDBDを用いた.
3)生活機能の評価:ADLとしてFIMを用いた.
3.倫理的配慮
対象者に研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,個人情報の漏洩に注意すること,研究への参加は自由意志であり不参加であっても今後の治療に不利益がないこと,研究のどの時点においても同意撤回ができることについて口頭と書面で説明し,研究の同意が得られたものを対象とした.また,本報告は当院の個人情報保護規則に準じた倫理審査を受け承認されている(倫理審査番号21-5).
【結果】
対象者はアルツハイマー型認知症患者3名であった.結果,認知症の重度化に伴う嗅覚機能の低下(軽度者3点・中等度者2点・重度者2点)及びにおいの自覚における高い自己評価(軽度者83%・中等度者93%・重度者100%)があることが確認された.また,3事例共に嗅覚同定できなかったにおいは,「メントール」「家庭用ガス」「ばら」「蒸れた靴下・汗臭い」「練乳」「炒めたにんにく」であった.BPSDでは,軽度者は「食事に興味を示さない」,中等度者は「更衣・食事を拒否する」,重度者は「尿・便失禁に気付かない」が観察された.一方,家族介護者に対する調査では,軽度・中等度者については「嗅覚低下は気づかなかった」と,重度者については「においがわかっていないようだ」との回答が得られた.
【考察】
今回,重症度の異なる3名のアルツハイマー型認知症患者の嗅覚機能及び生活機能に関する調査を実施した.本調査においても重症度が高くなるにつれて,嗅覚機能の低下を示すことが確認された.また,客観的評価による嗅覚機能の低下と嗅覚同定の自己評価に大きな乖離が認められた.これまで認知症高齢者の嗅覚機能は重症化に伴い悪化すること(Jimbo 2011),地域在住において嗅覚機能と嗅覚低下の自覚に乖離があること(三國谷2021)が報告されている.本研究においては,精神科病棟の入院患者においても同様の結果であることが確認されたため,嗅覚機能を含めた五感の低下を考慮したBPSD対策が必要であることが示唆された.また今後は,嗅覚機能の低下に関する重度化予防プログラムの立案が必要であると考える.
本研究の目的は,認知症を呈した高齢患者を対象とし,嗅覚機能及び生活機能に関する調査を行い,認知症の重症度別の特徴を明らかにすることである.
【方法】
1.対象
対象は,精神科病院に入院中のアルツハイマー型認知症を呈した患者のうち,本調査の趣旨に同意の得られた者とした.なお,重篤な身体症状や隔離を必要とする精神症状を有する者は本研究の対象から除外した.
2.評価項目
1)嗅覚機能の評価:①嗅覚同定検査としてOpen Essence(以下,OE),②においの自覚検査としてVAS,日常のにおいアンケート(都築ら 2009)を用いた.OEの合計点は11点,カットオフ値は7/8点であり,7点以下は嗅覚機能の低下があると判定される.また,家族介護者に対して嗅覚障害に関するアンケートを行なった.
2)精神機能の評価:①認知症重症度としてCDR,②認知機能としてMMSE,③認知症の行動・心理症状(以下,BPSD)としてDBDを用いた.
3)生活機能の評価:ADLとしてFIMを用いた.
3.倫理的配慮
対象者に研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,個人情報の漏洩に注意すること,研究への参加は自由意志であり不参加であっても今後の治療に不利益がないこと,研究のどの時点においても同意撤回ができることについて口頭と書面で説明し,研究の同意が得られたものを対象とした.また,本報告は当院の個人情報保護規則に準じた倫理審査を受け承認されている(倫理審査番号21-5).
【結果】
対象者はアルツハイマー型認知症患者3名であった.結果,認知症の重度化に伴う嗅覚機能の低下(軽度者3点・中等度者2点・重度者2点)及びにおいの自覚における高い自己評価(軽度者83%・中等度者93%・重度者100%)があることが確認された.また,3事例共に嗅覚同定できなかったにおいは,「メントール」「家庭用ガス」「ばら」「蒸れた靴下・汗臭い」「練乳」「炒めたにんにく」であった.BPSDでは,軽度者は「食事に興味を示さない」,中等度者は「更衣・食事を拒否する」,重度者は「尿・便失禁に気付かない」が観察された.一方,家族介護者に対する調査では,軽度・中等度者については「嗅覚低下は気づかなかった」と,重度者については「においがわかっていないようだ」との回答が得られた.
【考察】
今回,重症度の異なる3名のアルツハイマー型認知症患者の嗅覚機能及び生活機能に関する調査を実施した.本調査においても重症度が高くなるにつれて,嗅覚機能の低下を示すことが確認された.また,客観的評価による嗅覚機能の低下と嗅覚同定の自己評価に大きな乖離が認められた.これまで認知症高齢者の嗅覚機能は重症化に伴い悪化すること(Jimbo 2011),地域在住において嗅覚機能と嗅覚低下の自覚に乖離があること(三國谷2021)が報告されている.本研究においては,精神科病棟の入院患者においても同様の結果であることが確認されたため,嗅覚機能を含めた五感の低下を考慮したBPSD対策が必要であることが示唆された.また今後は,嗅覚機能の低下に関する重度化予防プログラムの立案が必要であると考える.