[PJ-7-6] スヌーズレンを用いて音楽と会話が楽しめるようになった認知症高齢者の1事例
【はじめに】認知症の人には脳内の感覚処理能力の低下があると言われている.加えて,施設環境による感覚刺激の過剰さや少なさなどの影響からうまく作業ができず.そのことが認知症の行動心理症状(BPSD)の原因の一つとされる.先行研究(新岡ら2022)では,重度認知症でBPSDがあっても五感をやさしく刺激するスヌーズレン(多重感覚環境)のように適切な環境づくりで,作業従事が可能になることが明らかとなった.そこで,物盗られ妄想,帰宅願望から歩き回り,介護拒否などのBPSDがあり,居住空間で落ち着いて作業に取り組めない利用者に対して,スヌーズレンを行った.その結果,スヌーズレンルーム(ルーム)では落ち着いて意味のある作業に作業療法士とともに取りくみ,場面での記憶も呼び起こし,会話量も増えた.居住空間での活動につながる効果があったので報告する.
【事例紹介】A氏90歳代女性,要介護4,認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲb.
夫の死去後,X-1年7月認知症の診断あり.同年8月当施設ショートステイ開始したが独居生活困難となり,X年3月当施設へ入居となる.物盗られ妄想や帰宅願望があり日中は落ち着かず歩き回っていた.
【作業療法評価】HDS-R8点,BI70点,日本版感覚プロファイル短縮版63点(触覚過敏性,低反応,感覚探求が高い),DBD13は34点,認知症高齢者の絵カード評価法は,テレビで歌番組を見る,友人との会話などが大切な作業であった.生活状況は,午後から帰宅願望があり,衣服を詰めた鞄を足元に置く,貴重品を常に携帯,外へ出る方法を職員に聞いて回っていた.また,物盗られ妄想からフロア内で衣服を探し歩いていた.時々興奮し拒薬や介護拒否もあった.しかし,それ以外の時間は好きなテレビや音楽が流れていてもテーブルに顔を伏せることが多かった.
【作業療法計画】A氏が大切にしている作業に集中できるよう環境を調整し,自分らしく生活できることを目標にスヌーズレンを用いることとした.A氏の意味のある作業として,ルームで歌番組を見ながら,作業療法士と会話を楽しむようにした.介入頻度は週1回30分程度で過活動になりやすい15~16時とした.尚,本研究発表に際し,家族に説明し同意を得ている.
【介入と結果】開始時はルームへの出入りを躊躇していた.昔の歌番組を見て懐かしいと感動するも,歌には集中できず,本人の過去の話に終始した.意志質問紙(VQ)は28点.徐々にルームに来たことや会話などを記憶し,いつもの椅子に自ら座るようになった.歌が始まると口ずさみ,手拍子や拍手をするようになった.歌手の名前やエピソードも想起し,会話内容も広がり,ルームで45分程度落ち着いて過ごした.VQ40点に変化した.居住空間でも職員の真似をして体操や活動に参加したが,テレビには反応せず,テーブルに顔を伏せていた.X+1年10月白内障の手術後,歌手の顔が見えるようになり,歌詞を見ながら新たな曲にも挑戦し,VQ46点となった.その後,居住空間でもテレビの歌番組では好きな曲だと手拍子をしながら歌い,テレビ画面を見て体操もできるようになった.DBD13は32点で歩き回る頻度は減少した.
【考察】ルームではA氏にとって意味のある作業である歌や会話を楽しめるようになった.スヌーズレンは過活動のケースにはリラックスを,活動低下のケースには集中力向上をもたらす効果が指摘されている.この効果は居住空間のテレビでも歌番組をみて歌う,体操するなどにも波及した.ルームの活用は適切な感覚刺激へのニーズを満たし,認知症の人の施設生活におけるwell-beingにもつながったと考えられる.
【事例紹介】A氏90歳代女性,要介護4,認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲb.
夫の死去後,X-1年7月認知症の診断あり.同年8月当施設ショートステイ開始したが独居生活困難となり,X年3月当施設へ入居となる.物盗られ妄想や帰宅願望があり日中は落ち着かず歩き回っていた.
【作業療法評価】HDS-R8点,BI70点,日本版感覚プロファイル短縮版63点(触覚過敏性,低反応,感覚探求が高い),DBD13は34点,認知症高齢者の絵カード評価法は,テレビで歌番組を見る,友人との会話などが大切な作業であった.生活状況は,午後から帰宅願望があり,衣服を詰めた鞄を足元に置く,貴重品を常に携帯,外へ出る方法を職員に聞いて回っていた.また,物盗られ妄想からフロア内で衣服を探し歩いていた.時々興奮し拒薬や介護拒否もあった.しかし,それ以外の時間は好きなテレビや音楽が流れていてもテーブルに顔を伏せることが多かった.
【作業療法計画】A氏が大切にしている作業に集中できるよう環境を調整し,自分らしく生活できることを目標にスヌーズレンを用いることとした.A氏の意味のある作業として,ルームで歌番組を見ながら,作業療法士と会話を楽しむようにした.介入頻度は週1回30分程度で過活動になりやすい15~16時とした.尚,本研究発表に際し,家族に説明し同意を得ている.
【介入と結果】開始時はルームへの出入りを躊躇していた.昔の歌番組を見て懐かしいと感動するも,歌には集中できず,本人の過去の話に終始した.意志質問紙(VQ)は28点.徐々にルームに来たことや会話などを記憶し,いつもの椅子に自ら座るようになった.歌が始まると口ずさみ,手拍子や拍手をするようになった.歌手の名前やエピソードも想起し,会話内容も広がり,ルームで45分程度落ち着いて過ごした.VQ40点に変化した.居住空間でも職員の真似をして体操や活動に参加したが,テレビには反応せず,テーブルに顔を伏せていた.X+1年10月白内障の手術後,歌手の顔が見えるようになり,歌詞を見ながら新たな曲にも挑戦し,VQ46点となった.その後,居住空間でもテレビの歌番組では好きな曲だと手拍子をしながら歌い,テレビ画面を見て体操もできるようになった.DBD13は32点で歩き回る頻度は減少した.
【考察】ルームではA氏にとって意味のある作業である歌や会話を楽しめるようになった.スヌーズレンは過活動のケースにはリラックスを,活動低下のケースには集中力向上をもたらす効果が指摘されている.この効果は居住空間のテレビでも歌番組をみて歌う,体操するなどにも波及した.ルームの活用は適切な感覚刺激へのニーズを満たし,認知症の人の施設生活におけるwell-beingにもつながったと考えられる.