第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-8] ポスター:高齢期 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-8-2] 入院中の認知症高齢者に農作業がどのような影響を及ぼすか評価するためには

押川 真唯1, 高田橋 篤史2, 日髙 弘登1, 三山 吉夫1, 藤元 勇一郎2 (1.大悟病院 リハビリテーション室, 2.藤元メディカルシステム)

【はじめに】入院している認知症高齢者は,認知症の症状から大事な作業(QOL)を見失うことも多く,実際に行動ができていても,自信がない状態であることが多い.農業が盛んである土地柄からなじみのある農作業を題材として前回発表時(2019年度)に引き続き,入院中のQOLへの効果を検証するのが目的.導入方法の設定や効果を明確に示した研究が少ないため,計画・実施・評価を通して,農作業の運用・評価の検証を積み上げていく必要があると考え,前回研究の反省点を改善し実践した.
【対象】当院入院中の高齢者8名(男性:4名,女性:4名,平均年齢:80±7.17歳),診断名はアルツハイマー型認知症1名,脳血管性認知症1名,認知症疑い1名,アルコール性認知症3名,不安神経症1名,うつ病1名.プログラム前のMMSEは平均20.77±5.20点,10m歩行は平均0.95±0.19m/秒,FIMの平均は92.25±8.02点であった.尚,本研究は当院倫理委員会の承認を受け,文書による同意を得た.
【農作業プログラム内容】
実施期間は2023年9月25日~12月22日で,時間帯は9:30~11:30か13:30~15:30の2時間とし,①作業内容の確認と当日問診票②準備体操③移動・道具準備④農作業⑤片付け・移動⑥作業のフィードバックと当日問診票で実施した.
【方法】農作業プログラムの前後で認知機能検査:MMSE,認知症高齢者の健康関連QOL評価表:QOL-D,精神機能障害評価表:MENFIS,運動機能検査:握力(左右),10m歩行(m/秒)を実施し,①と⑥を実施し検定を用いて分析・比較した.
【結果】3か月間に49回実施,畑作業が35回,屋内活動が11回,その他の活動は3回だった.農作業を通常業務と合わせ,リスクを考慮し実施するには準備と人員が必要であり1回の参加人数が1~3人,参加頻度は週1回程度となった.農作業プログラム開始前後のMMSE,QOL-D,MENFIS,握力(左右),10m歩行では,有意差は認められなかった(P>0.05).当日問診票内での気分・自己効力感・期待感についての項目では,有意差が得られた(P<0.05).
【考察】候補者は10名を超えていたが,不参加を希望する人もおり,認知症ではない人も含まれた経緯もあるが,今回は入院中のQOLを評価する目的もあり,農作業への興味が高く本人が参加を希望した,小集団活動への適性が高く農作業が有用であると予想できた,畑作業を行える体力がある,の条件にあてはまる症例に参加してもらった.短期間の試行であったが,農作業プログラム開始前後のMMSE,QOL-D,MENFIS,握力(左右),10m歩行では,有意差は認められなかったことから,精神・身体機能の維持が可能であったと考えた.3か月間と前回研究時よりも長期間設定できたが,週1回の活動頻度では,精神・身体機能のさらなる改善への効果が判断できない可能性はある.今回から導入した当日問診票においては,気分の項目に有意差が得られ,農作業は対象者に仲間意識や役割意識,ポジティブな感情が生じたことが示唆された.自己効力感の項目で有意差が得られたことから,なじみである農作業を行う前は自信がない部分もあったが,実際に取り組み他者と交流する・称賛を受けることで自信がつき自己効力感が向上した可能性が示唆された.期待感の項目で有意差が得られたことは,自分への期待感が高まっていく可能性が示唆され,農作業がその人の生きがいにつながりやすく,生活意欲などに対する長期的な効果も期待できると考えた.