[PJ-8-4] 認知症高齢者に対する大工玩具を使った組み立て作業の満足感
マルチプルベースラインデザインを用いて
【序論】認知症高齢者は塗り絵のような創作活動が提供されやすいが,当院の認知症治療病棟では,表情がさえず手が止まる患者が複数いた.患者らの多くは大工や農作業,工場勤務経験者であった.遊び的作業より仕事的作業を好む認知症高齢者がいる(土屋他,2010)との報告から,生活史を活かし,大工玩具を使った単純作業の繰り返しや組み立て作業の提供を考えた.認知症高齢者の感情は「表情」と「身体と声の表現」の観察により評価が可能(土屋他,2002)であった為,作業中の表情を観察し,満足感を検証した.これまで,生活史を基に提供した作業の効果については,園芸の作業遂行能力の報告(江口,2014)はあるが,大工玩具や組み立て作業についての報告はない.
【目的】大工や農作業,工場勤務をしていた認知症高齢者が大工玩具の組み立て作業により肯定的な感情が増え,満足感に繋がるかをマルチプルベースラインデザインにて検証する.
【方法】本研究はマルチプルベースラインデザインを採用し,A期は6回以上,B期は8回以上とし,B期開始時期を2回以上ずらし実施した.また,当院の倫理審査委員会の承認を得ており,本人および代諾者に口頭と書面にて説明し,同意を得て実施した.
対象は,大工や農作業,工場勤務などの職歴があり,認知症と診断された当病棟の入院患者6名であった.身体不調や退院により参加困難となった者は除外した.方法は,週2回・30分,対象者で構成したセミクローズドの小集団で作業活動を実施し,作業活動中の表情をビデオカメラにて撮影した.作業活動は,A期は塗り絵,B期は大工玩具の介入とした.B期では見本や声掛けにて,釘を打つ,ねじをまわす,木片や板をつなぐ等を行った.対象者が集中できるように見守り,完成したら次の活動を提供し,途中で手が止まった場合は開始10分後に再度促した.評価は,土屋らの改変したAffect Rating Scale(以下改変ARS)(土屋他,2010)を使用した.これは認知症高齢者の感情評価尺度で,合計得点が高いほど主観的QOLが高いとされる.楽しみ,関心,満足の3つの肯定的な感情を(+),怒り,不安・恐れ,抑うつ・悲哀の3つの否定的な感情を(−)として,各感情の持続時間を20分間観察し,5段階評価で点数化をしている.
統計は,各期の改変ARSの点数を目視法とMann-Whiteny検定にて効果判定をした.統計ソフトはRを用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】継続して参加できた対象者は4名(年齢87.5±6.5歳,男性2名,女性2名)であった.目視法,Mann-Whiteny検定において,対象者1(p=0.003)対象者2(=.0007)対象者3(p=0.001)は,改変ARSの点数がB期で有意に高かった.対象者4(p=0.16)は,有意差はなかった.
各感情については,対象者1は楽しみ(p=0.009)満足(p=0.005),対象者2は関心(p=0.0001)満足(p=0.001)怒り(p=0.003)抑うつ(p=0.001),対象者3は満足(p=0.03)抑うつ(p=0.0001),対象者4は満足(p=0.03)に有意な差を認めた.
【考察】4名中3名の大工玩具介入期の表情において有意な差が見られ,主観的QOLが向上した.満足感は全員に有意差がみられ,完成すると表情が緩みくつろぐ様子があった.つまり,大工や農作業,工場勤務をしていた認知症高齢者に大工玩具作業を行うことで,肯定的な感情が増えやすく満足感が向上していた.このことは,認知症が進行しても保持されやすい手続き記憶を活かした活動であった為,塗り絵に比べて取り組みやすく,さらに取り組み方の違いがその後のほっとした表情に結びついたと考えられる.本研究は手続き記憶を活かした仕事的な作業が満足感を示す結果となった.
【目的】大工や農作業,工場勤務をしていた認知症高齢者が大工玩具の組み立て作業により肯定的な感情が増え,満足感に繋がるかをマルチプルベースラインデザインにて検証する.
【方法】本研究はマルチプルベースラインデザインを採用し,A期は6回以上,B期は8回以上とし,B期開始時期を2回以上ずらし実施した.また,当院の倫理審査委員会の承認を得ており,本人および代諾者に口頭と書面にて説明し,同意を得て実施した.
対象は,大工や農作業,工場勤務などの職歴があり,認知症と診断された当病棟の入院患者6名であった.身体不調や退院により参加困難となった者は除外した.方法は,週2回・30分,対象者で構成したセミクローズドの小集団で作業活動を実施し,作業活動中の表情をビデオカメラにて撮影した.作業活動は,A期は塗り絵,B期は大工玩具の介入とした.B期では見本や声掛けにて,釘を打つ,ねじをまわす,木片や板をつなぐ等を行った.対象者が集中できるように見守り,完成したら次の活動を提供し,途中で手が止まった場合は開始10分後に再度促した.評価は,土屋らの改変したAffect Rating Scale(以下改変ARS)(土屋他,2010)を使用した.これは認知症高齢者の感情評価尺度で,合計得点が高いほど主観的QOLが高いとされる.楽しみ,関心,満足の3つの肯定的な感情を(+),怒り,不安・恐れ,抑うつ・悲哀の3つの否定的な感情を(−)として,各感情の持続時間を20分間観察し,5段階評価で点数化をしている.
統計は,各期の改変ARSの点数を目視法とMann-Whiteny検定にて効果判定をした.統計ソフトはRを用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】継続して参加できた対象者は4名(年齢87.5±6.5歳,男性2名,女性2名)であった.目視法,Mann-Whiteny検定において,対象者1(p=0.003)対象者2(=.0007)対象者3(p=0.001)は,改変ARSの点数がB期で有意に高かった.対象者4(p=0.16)は,有意差はなかった.
各感情については,対象者1は楽しみ(p=0.009)満足(p=0.005),対象者2は関心(p=0.0001)満足(p=0.001)怒り(p=0.003)抑うつ(p=0.001),対象者3は満足(p=0.03)抑うつ(p=0.0001),対象者4は満足(p=0.03)に有意な差を認めた.
【考察】4名中3名の大工玩具介入期の表情において有意な差が見られ,主観的QOLが向上した.満足感は全員に有意差がみられ,完成すると表情が緩みくつろぐ様子があった.つまり,大工や農作業,工場勤務をしていた認知症高齢者に大工玩具作業を行うことで,肯定的な感情が増えやすく満足感が向上していた.このことは,認知症が進行しても保持されやすい手続き記憶を活かした活動であった為,塗り絵に比べて取り組みやすく,さらに取り組み方の違いがその後のほっとした表情に結びついたと考えられる.本研究は手続き記憶を活かした仕事的な作業が満足感を示す結果となった.