第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-8] ポスター:高齢期 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-8-5] 国内外における認知症高齢者に対する作業療法の質的研究に関する文献研究

野村 真弓1,2, 笹田 哲3 (1.神奈川県立保健福祉大学大学院 保健福祉学研究科博士前期課程, 2.独立行政法人労働者健康安全機構関東労災病院 中央リハビリテーション病院, 3.神奈川県立保健福祉大学大学院 保健福祉学研究科)

【はじめに】
 認知症患者数は2012 年には462 万人と,65 歳以上の高齢者の7 人に1 人であったが,2025 年には約700万人,5 人に1 人になると見込まれている(内閣府,2016).認知症高齢者(以下認知症者)の増加に伴い,急性期病棟に入院している患者の約2割が認知症を有する(厚生労働省,2015).認知症者が地域で安心して療養生活を過ごすためには,急性期病院入院時から身体機能を落とさず地域の医療介護に確実につなげることが重要である(小川,2015).しかし,急性期病院において認知症者や介護者のニーズ聴取は難しく,作業療法士(以下OTR)の果たす役割も明らかにされていない.本研究の目的は,作業療法(以下OT)分野の認知症者に関する国内外における質的研究の目的と内容を調査し,OTRの役割や認知症者および介護者のニーズを明らかにし,急性期病院における課題を検討する. OT協会倫理指針に基づき実施している.
【方法】
文献検索は,医中誌web Ver.5,PubMedを用いた.検索式は,医中誌では,「認知症」and「作業療法」and「質的研究orインタビュー」,PubMedでは,「Occupational Therapy」 and「Dementia」 and「Qualitative study or Interview」とした.(最終検索2023年11月20日).包含基準は,認知症者を対象としていること,OTRが執筆した論文とした.除外基準は,解説,総説,会議録とした.適合論文について,目的,研究対象者,領域,研究手法,考察について分析した.さらに,考察の箇所からOTへの示唆となる記述を抜き出しコード化,カテゴリ化を行った.
【結果】
適合論文は医中誌15/61編,PubMed 9/32編であった.研究目的は,「認知症プログラムの参加者の考え」7件,「認知症者の行動・ニーズ」7件,「OTRの視点,介入,効果」6件,「介護者(家族)の考え」3件であった.研究調査対象は,認知症者8件,介護者2件,OTR6件,認知症者・介護者とスタッフ7件であった.領域は,回復期病院3件,認知症専用病棟2件,地域16件,その他5件であった.研究方法は,インタビュー17件,観察評価7件であった.考察は,4カテゴリ,9サブカテゴリにまとめられた.カテゴリは,「認知症者への理解」「介護者への理解」「OTの評価」「OTプログラムに求められること」であった.サブカテゴリは「認知症者の行動・背景の理解」「交流や作業従事の特徴の理解」「個別性やニーズの理解」「介護者ニーズの理解」「介護を受け入れる背景」「介護支援方法の検討」「個別性を尊重した関わり」「心理的介入の効果」「集団プログラムの効果」「OTの新たな介入視点」「環境」「業務量とOT制限」「多職種連携による作業参加促進」であった.海外ではプログラムに参加する認知症者や介護者のニーズやその成果を検証する研究が,国内では個別の認知症者の行動,介護者のニーズ,OT評価や介入に関する研究が多かった.
【考察】
本研究の結果から,地域において,認知症者と支援者の個別ニーズを尊重するかかわりが求められることが明らかになった.OTRは,認知症者の行動特性の理解,個別性の尊重とともに,環境調整,心理的介入含めた介入の検討の必要性も示唆された.また,業務量の調整や多職種連携を通してOTRが働きやすい環境を整えることも必要である.
【結論】
急性期の認知症者に対するOTでは,行動・認知症状を予防し,認知症者の個別性を尊重した関わりを進めるために,ニーズや情報収集を図り,環境を調整することが重要であることが示唆された.