[PJ-9-4] 物語的・相互交流的リーズニングに焦点を当てた事で,母としての役割の再獲得に繋がった事例
CROT-Rを用いた実践報告
【はじめに】作業療法リーズニングは, 「物語的, 科学的, 実際的, 倫理的, および相互交流的リーズニング」の5つが示されている. 今回5つのリーズニングを踏まえたレジュメ様式CROT-R(Clinical Reasoning OT Tool-Resume)を用いて, 物語的・相互交流的リーズニングに焦点を当てた事で, 母としての役割の再獲得に繋がった事例を経験したため, CROT-Rの使用感の考察とともに報告する. 本報告に際し対象者より書面にて同意を得ている.
【目的】病前から不活発で役割の喪失を体験していたが, 対象者が長期入院中に作業療法を経験する中で母としての役割を再獲得していった過程をCROT-Rを用いてまとめ, 変化の要因を明らかにする事を目的とした.
【方法】CROT-Rの項目に沿って事例をまとめる事で, 自己の評価不足を補い十分な考察ができるのか検討を行う.
【事例紹介】基本情報:90歳代女性, 娘2人と同居. 心窩部から左上腹部にかけての疼痛が出現し, 鎮痛剤で経過観察を行っていたが, 疼痛が増強し当院へ搬送され緊急手術となった. 物語的リーズニング:結婚後, 夫がギャンブルに依存した事で生活は厳しくなり子供に食事を与える事に苦労したが, 料理にはこだわってきた. 大腿骨骨折後, 外出頻度が減少し自宅内で過ごす事が多かった. 対象者は家に帰りたいと語り, ご家族は日中仕事で不在のためトイレ自立を希望されていた. 科学的リーズニング:FIM58/126点(トイレ・歩行2点), STOD69/84点(不均衡20点, 剥奪16点, 疎外22点, 周縁化11点). 医師の「胃癌であるが, 年齢等を考慮し3カ月間は経過観察」という治療方針に基づき, リハ経過を見て退院する方針となった. 実際的リーズニング:トイレ動作獲得に向け, 起立・歩行練習を主として実施. 内発的動機付けを促進し, 理想的な生活構築の支援として俳句作成や調理訓練を実施. 倫理的リーズニング:対象者のこだわりの強さ等のパーソナリティに配慮し環境設定を行った. 相互交流的リーズニング:トイレ動作を獲得し自宅退院を目標に作業療法が開始されたが, 2度の手術を経て意欲低下が顕著であった. パーソナリティを考慮し, 即興的に内発的動機付けの促進となる作業の提供を行う事で目標に向かい続ける事が可能であった. 介入結果:FIM82/126点(トイレ6点, 歩行5点), STOD49/84点(不均衡16点, 剥奪13点, 疎外11点, 周縁化9点). COPMでは「トイレ」の項目で重要度10, 遂行度1→6, 満足度4→5, また「料理」の項目で重要度8→10, 遂行度3→5, 満足度2→6と向上を認めた. 自宅退院後, 対象者が新たな目標としておでん作りを挙げ, 実際に当院スタッフに振舞ってくれた.
【結果】CROT-Rを用いる事で, 場面ごとに各種リーズニングのバランスを意識し対象者にとっての最善を選択するといった包括的視点を介入に取り入れる事ができた.
【考察】老化や疾病による作業変化に伴い, 役割の喪失を体験しありたい姿を認識する事が困難となる事例を認める. 物語を詳細に評価する事で価値観を尊重し, 作業遂行に繋げた事で対象者らしさの認識が可能となり, 役割の再獲得に繋がったと考える. CROT-Rは自然とOTの専門性を表現する形となっており, 自己の作業療法での不足点を考察させる働きがあり思考の整理においても有効であると感じた.
【目的】病前から不活発で役割の喪失を体験していたが, 対象者が長期入院中に作業療法を経験する中で母としての役割を再獲得していった過程をCROT-Rを用いてまとめ, 変化の要因を明らかにする事を目的とした.
【方法】CROT-Rの項目に沿って事例をまとめる事で, 自己の評価不足を補い十分な考察ができるのか検討を行う.
【事例紹介】基本情報:90歳代女性, 娘2人と同居. 心窩部から左上腹部にかけての疼痛が出現し, 鎮痛剤で経過観察を行っていたが, 疼痛が増強し当院へ搬送され緊急手術となった. 物語的リーズニング:結婚後, 夫がギャンブルに依存した事で生活は厳しくなり子供に食事を与える事に苦労したが, 料理にはこだわってきた. 大腿骨骨折後, 外出頻度が減少し自宅内で過ごす事が多かった. 対象者は家に帰りたいと語り, ご家族は日中仕事で不在のためトイレ自立を希望されていた. 科学的リーズニング:FIM58/126点(トイレ・歩行2点), STOD69/84点(不均衡20点, 剥奪16点, 疎外22点, 周縁化11点). 医師の「胃癌であるが, 年齢等を考慮し3カ月間は経過観察」という治療方針に基づき, リハ経過を見て退院する方針となった. 実際的リーズニング:トイレ動作獲得に向け, 起立・歩行練習を主として実施. 内発的動機付けを促進し, 理想的な生活構築の支援として俳句作成や調理訓練を実施. 倫理的リーズニング:対象者のこだわりの強さ等のパーソナリティに配慮し環境設定を行った. 相互交流的リーズニング:トイレ動作を獲得し自宅退院を目標に作業療法が開始されたが, 2度の手術を経て意欲低下が顕著であった. パーソナリティを考慮し, 即興的に内発的動機付けの促進となる作業の提供を行う事で目標に向かい続ける事が可能であった. 介入結果:FIM82/126点(トイレ6点, 歩行5点), STOD49/84点(不均衡16点, 剥奪13点, 疎外11点, 周縁化9点). COPMでは「トイレ」の項目で重要度10, 遂行度1→6, 満足度4→5, また「料理」の項目で重要度8→10, 遂行度3→5, 満足度2→6と向上を認めた. 自宅退院後, 対象者が新たな目標としておでん作りを挙げ, 実際に当院スタッフに振舞ってくれた.
【結果】CROT-Rを用いる事で, 場面ごとに各種リーズニングのバランスを意識し対象者にとっての最善を選択するといった包括的視点を介入に取り入れる事ができた.
【考察】老化や疾病による作業変化に伴い, 役割の喪失を体験しありたい姿を認識する事が困難となる事例を認める. 物語を詳細に評価する事で価値観を尊重し, 作業遂行に繋げた事で対象者らしさの認識が可能となり, 役割の再獲得に繋がったと考える. CROT-Rは自然とOTの専門性を表現する形となっており, 自己の作業療法での不足点を考察させる働きがあり思考の整理においても有効であると感じた.