第58回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)1

Sat. Nov 9, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PK-1-2] 行動障害収束を目的に入院環境を調整したAlzheimer型認知症患者への作業療法介入

柴田 直人1, 古賀 誠2 (1.東京足立病院 医療福祉部リカバリーユニット作業療法学科, 2.昭和大学 保健医療学部リハビリテーション学科作業療法専攻)

【はじめに】筆者は,家族の死をきっかけにAlzheimer型認知症を発症し,行動障害が顕著となった事例を担当した.作業療法(以下,OT)を通して,行動障害の収束に至ったので報告する.
【事例紹介】事例は80代の女性で,長男と二人暮らしを営んでいた.20代後半で結婚し息子2人をもうけた.70歳代まで家政婦の職に就いた.X年Y月に次男の自殺をきっかけに,気分が沈みがちとなり,物忘れが出現した.X+5年Y+9月から外出しては迷子になり,警察による保護を繰り返し,BPSD加療目的に同年Y+10月に当院に医療保護入院となった.
 本報告に際して,事例の家族に口頭と文書で説明を行い,許可を得ている.
【OT初期評価】OT導入面接では「あまり動きたくない」「どこ行くの?」と話し,能動的行動が億劫な様子(意欲低下)と,入院環境に困惑した様子がみられた.OT参加への声掛けを行うも臥床傾向が続いた.「(主治医から)退院と聞いた」等作話や易怒性が目立った.OTには「今日はいい.何もしたくない」と参加拒否を示し,すぐに自室へ戻るという不安定な参加が続いた.
HDS-Rは拒否が強く,評価できなかった.DBD13は14点/52点で,重度のアパシーや睡眠障害,易怒性,興奮が確認した.A-QOAは31点/84点(大集団OT),32点/84点(小集団OT) であり,特に活動の開始は,他者のサポートを必要としていた.大集団と比較して,小集団の方が参加に前向きであった.自発的交流は乏しく,他患者がOTに参加する様子を視線で追い,気にしていた.
【OT介入目的】事例の入院環境適応と孤立感を深めないように他患者との交流機会と活動時間の増加を目的とした.著者は他患者を介して小集団OT参加への声掛けを行い,事例が安心して過ごす環境設定を探索した.筆者が他患者交流の橋渡しになり,入院環境適応とOT参加の安定化を促進して行動障害の収束を図った.
【OT介入経過】易怒性については,主治医に処方薬変更を提案した.事例の20分程の短時間の参加を保障し,集団への適応を促進した.OT以外の時間に同室者と交流が生まれるように,事例が認識できる範囲で同室者に誘導を行い,OTでは同室者を隣に配置した.入院30日目までは渋々の参加だったが,入院35日目には参加の声掛けに「はーい!」と明るく回答し,終了後には「ありがとう」と筆者への感謝が聞かれた.徐々にOT参加の安定と入院環境へ適応して,同室者と仲間的交流場面が見られた.
【結果】処方薬変更の結果,易怒性は軽減した.同室者とつながり,意欲的にOTに参加して笑顔の機会が増えた. HDS-Rにも応じて15点/30点であった.妄想発言や易怒性が改善してDBD13は7点/52点であった.A-QOAは54点/86点(大集団OT),55点/86点(小集団OT)と改善し,臥床傾向の減少や同室者との交流が生まれたことで相手を思いやる場面が見られるようになった.大集団OTの参加時間は60分と拡大した.
【考察】認知症患者にとって,入院による急激な環境変化は不安や混乱を招き,更なる行動障害を促進する.処方薬変更の効果や小集団OT活用により,安心できる環境を提供できたことが事例の行動変化に繋がったと考えた.事例にとっての安心できる環境は,同質性の他者と適度に交流でき,他者と従事できる活動時間であった.認知症患者にとって,その人にとって安心できる環境の提供が行動障害の収束へ向かうと考えられた.