第58回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-1] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)1

Sat. Nov 9, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PK-1-4] 左皮質下出血によりGerstmann症候群を呈しADL・IADL障害が認められた症例

山川 敏史1, 玉那覇 迅1, 種村 留美2 (1.医療法人大平会 嶺井第一病院  リハビリテーション科, 2.関西医科大学リハビリテーション学部 作業療法学科)

【はじめに】今回,左皮質下出血により下頭頂小葉と脳梁膨大部の損傷を認めGerstmann症候群(以下GS)や両手協調動作障害によりADL・IADL障害を呈した症例を担当した.更衣では心的回転(mental rotation,以下MR)の低下が影響し,調理や洗濯では心的イメージの産出低下により困難が生じていた.回復期病棟で約6ケ月間介入を行った結果,改善が見られたので報告する.本報告の目的は現在,GSによるADL・IADL障害の国内報告は数少ない為,作業療法の一助となる事である.また,口頭にて本人より同意を得ている.
【症例紹介と作業療法評価】60歳代女性で右利き,病前は主婦.発症後,47病日目に当院回復期病棟に入院となり,身体機能は独歩軽介助,麻痺側機能はBrs.AllⅤ,感覚は表在,深部覚共に重度鈍麻であった.上肢機能はSTEF右43/左83で右手は規則通り行えず,簡単な両手交互運動も困難であった.神経心理学的検査ではHDS-R21/30,コースIQ64.1で全般性知的機能は特に問題なかったが,全般性注意障害や軽度失語症を呈し,複雑な内容の理解が難しく,表出では喚語困難や音韻性錯語を示した.身体認知では自己および他者身体の左右の誤りや身体部位と手指の呼称障害があり,ハサミ操作は把持形態の誤りが見られた.また,紙面のMR課題は4/5正答も困惑が見られ,約3分要し,1~2桁の加減算や文章の書き取り困難,写字は書き順に誤りが見られた.ADLでは上衣(被りシャツ)の着衣で衣服の形状変化に混乱し,右手を袖口から襟元へ通すなど何度も試行錯誤する様子が見られた.脱衣も右手の掴み損ねや手の方向付けが難しく,着脱に合計2分19秒と時間を要した.その他ADLも見守り~軽介助を要しFIMは56/126であった.IADLは洗濯干しの際に狭い空間に大きい衣類を干そうとし,直前に気づくことや,調理は動作可能も一連の手順に混乱し,声かけが必要であった.以上,本症例は失算,失書,左右,手指失認のGSを呈し,使用物品や環境から一連の動作を心的イメージとして産出できず,ADL・IADL障害をきたしていると考えられた.また,上衣更衣では衣服の形状変化に対する自己身体との照合がMR低下により困難となり,さらに,両手協調動作障害が助長していると考えられた.
【作業療法目標と介入計画】合意目標として,初めに両手協調動作とMRの改善を図り,上衣更衣が自立する事を挙げた.介入では上衣と自己身体の対応を口頭で確認を行い,相互の照合が確立した上で両手が円滑に動き着衣ができる様に徒手的誘導を行った.家事動作へは一連の動作イメージが想起できるように声かけを行った.
【介入経過と結果】57病日目,更衣への介入開始,介入18日目に両手の拙劣さを自覚し,動作中に修正可能となった.介入35日目,上衣の形状変化に自己身体を適合することが可能となり,介入66日目,着脱52秒と時間短縮し,上衣更衣自立となった.116病日目,洗濯干しへの介入開始,様々な衣類に対して適切な干し場を想起させながら練習を行い,介入3日目には円滑に動作可能となった.調理はCOVID-19の影響により介入不可で家族の見守りで行うことになった.163病日目,自宅退院となり,Brs.AllⅥ,感覚は表在,深部共に正常となり,STEF右76/左94と改善した.MR課題は約1分で全問正答となったがGSは残存した.ADLはほぼ自立となり,FIMは114/126と向上した.
【考察】今回,4徴は残存したもののADLやIADLの改善が認められた.その要因として本症例の障害の背景をGSの心的イメージの産出やMRの低下を中核症状として捉え,基本的な介入の中でもその変化を捉えながら実践できたことが考えられた.