第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-2-1] 意欲の低いアルツハイマー型認知症事例に対する音楽を用いた介入効果について

鍋田 一騎, 成田 雄一, 小沼 裕紀 (関東病院 リハビリテーション科)

【はじめに】今回,意欲の低いアルツハイマー型認知症(以下AD)事例に対して音楽を用いた介入の結果,意欲の向上が得られた事例を報告する.本演題で発表する内容は,本人及び家族への説明,同意を得ている.また,当院の倫理審査の承認を得た.
【事例情報・評価】80代男性.元々,ADの影響があり,ご家族の介護にて在宅生活されていた.X年Y月Z日にご家族の介護休暇目的で地域包括ケア病棟にレスパイト入院となった.入院当初は,基本動作やADL動作に中等度介助を要していたが,協力動作や会話による意思疎通は流暢であった.Y月+1ヵ月に誤嚥性肺炎を発症し,加療に伴う廃用症候群によって次第に体動困難となった.また,ADの悪化により覚醒レベルが不安定となり,自発性も低下,発語も殆どみられない状態となった.Y月+2ヵ月時に療養病棟へ転棟となったが,基本動作やADLは全介助であった.介入当初のNMスケールは0点であり,JCSはⅡ-30程度であり覚醒は限定的であった. BIは全項目において0点であった.Vitality index(以下VI)においても自発的な意思表示が得られず全項目において0点であった.
【問題点・目標】事例の問題点は, 日差により覚醒レベルに変動が大きいこと,意欲低下により活動性が低下し,ADLが全介助であることが挙げられる.そのため,介入目標として覚醒レベルの改善,意欲向上によりADLや活動と参加の改善を目的とした.
【作業療法介入】オカリナによる演奏と,作曲された時代に関するエピソードを含めた振り返りを含めて発語を促した.選曲は,事例の年代に合わせた童謡・歌謡曲を中心に選局し,反応が強く得られた曲目を中心に選択した.
【経過】開始当初は車椅子上で無反応であったが,介入終了時は頸部を回旋してセラピストを目で追う様子が見られた.その後,音楽に合わせた運動を伴う演奏を実施した.導入時はセラピストによるリズム動作の誘導が必要であったが,回数を重ねると自発的な拍手による動作が得られるようになり,発語も聞かれるようになった.また病棟に戻った後も看護師の声かけに対して返答されることや自分の好きな歌手の名前を答えるなどの反応が得られた.
【結果】JCSはⅠ-3程度へと改善し,NMスケールは5項目で14点相当に向上した.また,介入当初は全介助であった移乗も下肢の支持による協力動作が得られ,BIにおける移乗は0点から5点へ改善した.日差はみられるものの, VIの意思疎通,食事,リハビリにおいて1点に向上した.覚醒レベルの改善により車椅子座位姿勢が安定しており,介助歩行や介助下でのエルゴメーターの使用といった内容に変化した.
【考察】適切な音楽を用いた介入は,意欲や覚醒レベルの向上に繋がる可能性があり,それによって残存能力向上の手がかりとなる事が考えられる.作業療法ガイドラインにおいても,聴覚刺激などの外部刺激を併用した研究報告を多く認めたとの記述がある.今回はリズミカルな聴覚刺激を用いた動作の促しという介入ではなかったものの,意欲に乏しかった事例に対して音楽という快刺激を用いたことで症状の緩和が図れたと考えられる.
【おわりに】意味のある作業として音楽を通して介入することで喪失された自信を取り戻し,活動と参加に繋がる事例は報告されている.今後も対象者に合わせた音楽を用いた評価や介入プログラムを実践出来るようにする必要があると考える.