第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-2-2] 認知行動アセスメントを用いて病棟スタッフと連携したがFIM利得が得られにくかった回復期重度左半側空間無視症例

篠崎 大護1, 市村 将家1, 國府田 剛2,3 (1.医療法人社団 巨樹の会 赤羽リハビリテーション病院 リハビリテーション科, 2.埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーションセンター, 3.埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科)

【はじめに】脳卒中患者における半側空間無視症状は慢性化しやすく,ADL再獲得に時間を要するため,入院期間の延長や自宅退院に難渋する(海部ら,2006).半側空間無視症状の改善には,基礎的認知能力に含まれる意識・注意機能・記憶・感情を改善することが求められる.認知行動アセスメント(Cognitive-related Behavioral Assessment:CBA)は,基礎的認知能力を網羅的かつ,端的に評価する指標として知られており,CBA導入を通した多職種間での情報共有は質の高いリハビリテーションケアを提供することに有用である(Maki, Y. et al., 2023).心身機能が重症な症例への介入に,CBAを用いて病棟スタッフと統一した介助方法の提案は,重症患者の病棟内ADL拡大の糸口になるかもしれない.
【目的】回復期リハビリテーション病院に入院した重度左半側空間無視を呈した症例に,CBAを用いて病棟と基礎的認知能力を共有し,統一した介助方法や介入を提供することはFIM利得に寄与するのか後方視的に検証すること.
【倫理的配慮】本研究は,症例が重度高次脳機能障害のため,家族より口頭同意を得た.当院研究倫理審査委員会の承認を得ている(承認番号2023-B-006).
【症例】60歳代,女性.診断名:右被殻,視床出血.現病歴:構音障害と左半身麻痺を主訴に救急要請し,発症から61病日目に当院へ入院された.既往歴:関節リウマチ,前交通動脈破裂によるくも膜下出血,二次性水頭症.神経学的所見:JCSⅠ-2.Brunnstrom Recovery Stage(左):上肢Ⅱ-手指Ⅱ-下肢Ⅱ.神経心理学的所見:MMSE:25/30点.Behavioural Inattention Test(BIT):45/146点.CBA:13/30点(重度:11-16点).ADL:Functional Independence Measure(FIM):41/126点(運動項目16/91点,認知項目25/35点).
【方法】New York大学Rusk Instituteで報告されている神経心理ピラミッド(立神2006)を参考に,基礎レベルである覚醒・発動性・注意機能に焦点をあてた作業療法プログラムを立案した.介入初期(初回-10週間)の主なプログラムは,視覚を用いた座位保持練習や整容練習を中心に実施した.介入後期(11週-20週間)の作業療法介入では立位保持練習,トイレ練習を中心に実施した.また,日中の車椅子乗車時間が安定したことから,余暇時間に車椅子上で家族への電話を実施した.院内で行われたCBAカンファレンスでは,左半側空間無視や注意障害に配慮した環境設定と介助方法,介助量を病棟看護師や介護福祉士と検討,共有した.介入期間中の作業療法は,1日60分,週7日とし,20週介入した.
【結果】(初回→最終と記載した)BIT:45→72/146点.左側からの声掛けへの反応や座位保持が安定し,食事場面における左側の食べ残しがなくなった.FIM:41→56/126点(運動項目16→28/91点,認知項目25→28/35点).食事1→3点,整容2→4点,トイレ移乗1→3点へと改善を認めた.CBA:13→18/30点(重度→中等度:17-22点).主に,感情・注意・判断において2→3点へと変化を認めた.
【考察】本研究では,重度左半側空間無視症例にCBAを用いて病棟と基礎的認知能力を共有した結果,FIM運動項目は12点,認知項目は3点の改善を認めた.右半球損傷に伴う半側空間無視を有するものはFIMスコア改善が乏しい(Katz, N. et al., 1999).FIMにおけるMCIDでは運動項目が15点,認知項目は3点の変化とされている(Koyama, T. et al., 2006).本症例にCBAを導入し,病棟と連携したが,重度左半側空間無視症例のADL拡大にはMCIDを超える改善には至らなかった.今後は,病棟と連携したCBA導入効果が得られやすい重症度の選定や,導入方法を検証する.