[PK-2-3] 記憶障害によりトイレ動作自立に難渋した一例
【はじめに】右視床出血により記憶障害を主とした高次脳機能障害を呈し,トイレ動作の介助量が増加した症例を担当した.トイレ動作自立には,周辺動作も含めた一連の動作が自立する必要がある(坂田ら,2015).そこで,トイレ動作評価としてToileting Tasks Assessment From (浅田ら,2023)を参考に動作を15工程に分割し,記憶障害に対してErrorless learning(EL)と間隔伸張法を用いて介入したことで介助量軽減を図れたため報告する.今回の報告は,書面にて説明し同意を得ている.
【症例】90代男性.病前は独居でADL及びIADLは自立.X日に右視床出血を発症し保存的加療.発症から39日後,リハビリテーション目的で当院へ入院.
【入院時評価】認知機能評価は,Mini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J)18点,Frontal Assessment Battery(FAB)15点,Rivermead Behavioral Memory Test標準プロフィール得点1点,スクリーニング点0点の結果で,記憶障害が重度に認められた.身体機能評価はFunctional Balance Scale(FBS) 36点でバランス機能低下が認められた.日常生活動作は, Functional Independence Measure(FIM)運動項目合計46点(トイレ動作4点),認知項目合計19点であった.
【介入方法・経過】まずトイレ動作を15の工程に分割し動作確認を行った.工程は,1:ベッドから起居,2:ナースコールを押す,3:靴を履く,4:移動,5:トイレに入り,ドアを閉める,6:下衣を下げる,7:着座,8:排泄(拭く),9:流す,10:起立,11:下衣を上げる,12:手を洗う,13:手を拭く,14:トイレから出る,ドアを閉める,15:ベッドへ戻るとした.15工程のうち3:靴を履く,8:流すの2工程は記憶障害により,指示がなければ実施できなかった.動作時にはふらつきがあるため触れる程度の介助が必要であった.靴を履くに対し,靴を置く位置をマーキングし,机に「靴を履く」,トイレ内に「流す」と記載した張り紙を設置した.靴を履くの部分練習は,張り紙の確認(音読)後,臥床から靴を履く動作を実施した.流すも張り紙を確認後,トイレ内で動作を実施した.ふらつきに対しては理学療法士と協働しバランス訓練を実施した.介入第5日後,部分練習直後は,張り紙を用いず靴を履く,流すことができた.しかし,病棟生活では実施困難であった.そこで間隔伸張法を用いて部分練習内容の記憶保持時間の延長を図った.部分練習の保持は,5秒から開始し,介入第28日後には最大30分間保持可能となった.日常場面でも記憶の保持が定着するよう病棟看護師と連携を行い,病棟生活で靴の履き忘れは減少した.
【結果】介入第39日,認知機能評価はMMSE19点,FAB16点,運動機能評価はFBS47点,日常生活動作は,FIM運動項目64点(トイレ動作6点),認知項目19点(記憶1点)となり,靴の履き忘れは減少し,バランス機能も向上したため,自室内トイレ動作自立となった.流すは実施困難であり,他者による確認が必要となった.
【考察】トイレ動作を15工程に分割し評価したことで,トイレ動作の問題は,記憶障害による実施手順の健忘とバランス機能低下であることが明確となった.記憶障害に対してEL,間隔伸張法を用いて動作を反復したことで,手続き記憶として学習が進み,靴を履くことが可能となったと考える. 流すが定着しなかった要因は,自宅のノズルを引いて流す方法と,病棟トイレがボタン式で方法が異なっていた点が挙げられる.また,訓練の中で実際に排尿してから流す機会が少なく,部分練習のフィードバック機会が少なかったことも一因であったと考える.
【症例】90代男性.病前は独居でADL及びIADLは自立.X日に右視床出血を発症し保存的加療.発症から39日後,リハビリテーション目的で当院へ入院.
【入院時評価】認知機能評価は,Mini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J)18点,Frontal Assessment Battery(FAB)15点,Rivermead Behavioral Memory Test標準プロフィール得点1点,スクリーニング点0点の結果で,記憶障害が重度に認められた.身体機能評価はFunctional Balance Scale(FBS) 36点でバランス機能低下が認められた.日常生活動作は, Functional Independence Measure(FIM)運動項目合計46点(トイレ動作4点),認知項目合計19点であった.
【介入方法・経過】まずトイレ動作を15の工程に分割し動作確認を行った.工程は,1:ベッドから起居,2:ナースコールを押す,3:靴を履く,4:移動,5:トイレに入り,ドアを閉める,6:下衣を下げる,7:着座,8:排泄(拭く),9:流す,10:起立,11:下衣を上げる,12:手を洗う,13:手を拭く,14:トイレから出る,ドアを閉める,15:ベッドへ戻るとした.15工程のうち3:靴を履く,8:流すの2工程は記憶障害により,指示がなければ実施できなかった.動作時にはふらつきがあるため触れる程度の介助が必要であった.靴を履くに対し,靴を置く位置をマーキングし,机に「靴を履く」,トイレ内に「流す」と記載した張り紙を設置した.靴を履くの部分練習は,張り紙の確認(音読)後,臥床から靴を履く動作を実施した.流すも張り紙を確認後,トイレ内で動作を実施した.ふらつきに対しては理学療法士と協働しバランス訓練を実施した.介入第5日後,部分練習直後は,張り紙を用いず靴を履く,流すことができた.しかし,病棟生活では実施困難であった.そこで間隔伸張法を用いて部分練習内容の記憶保持時間の延長を図った.部分練習の保持は,5秒から開始し,介入第28日後には最大30分間保持可能となった.日常場面でも記憶の保持が定着するよう病棟看護師と連携を行い,病棟生活で靴の履き忘れは減少した.
【結果】介入第39日,認知機能評価はMMSE19点,FAB16点,運動機能評価はFBS47点,日常生活動作は,FIM運動項目64点(トイレ動作6点),認知項目19点(記憶1点)となり,靴の履き忘れは減少し,バランス機能も向上したため,自室内トイレ動作自立となった.流すは実施困難であり,他者による確認が必要となった.
【考察】トイレ動作を15工程に分割し評価したことで,トイレ動作の問題は,記憶障害による実施手順の健忘とバランス機能低下であることが明確となった.記憶障害に対してEL,間隔伸張法を用いて動作を反復したことで,手続き記憶として学習が進み,靴を履くことが可能となったと考える. 流すが定着しなかった要因は,自宅のノズルを引いて流す方法と,病棟トイレがボタン式で方法が異なっていた点が挙げられる.また,訓練の中で実際に排尿してから流す機会が少なく,部分練習のフィードバック機会が少なかったことも一因であったと考える.