[PK-2-5] 当院内科急性期病棟における軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)疑いの割合とその評価の意義
【はじめに】当院の内科急性期病棟(以下当病棟)では,認知機能のスクリーニングとして改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を実施している.さらにHDS-Rがカットオフ値の21点以上の者には,軽度認知障害(以下MCI)のスクリーニングとしてJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(以下MoCA-J)を実施している.本発表では,HDS-Rが21点以上であり,MoCA-Jがカットオフ値の26点未満であった者(以下MCI疑い)の割合とその特徴について集計し,考察を加えて報告する.なお本発表は,当院の倫理審査委員会の承認を得ている.【対象】令和2年4月1日から令和5年12月31日までの間に当病棟に入院し作業療法の処方があった者の内,65歳以上で,HDS-Rが21点以上,かつMoCA-Jの実施に同意と協力が得られた72名.内訳は男性31名,女性41名,平均年齢80.6±8.0歳であった.【方法】HDS-RとMoCA-Jの得点,性別,年齢,難聴の有無,介護保険の有無,介護度,自動車運転の有無,入院からリハ開始までの日数,リハ開始から退院,転院,転棟などの退棟までの日数を後方視的にカルテより情報収集した.【結果】72名中,MCI疑いは86.1%(62名)であった.平均得点はHDS-Rが26.0±2.4点,MoCA-Jが20.0±3.3点であった.内訳は男性28名,女性34名,平均年齢81.7±7.6歳,難聴を呈している者は31名,介護認定を受けている者は15名,平均介護度は要支援2,自動車を運転している者は22名,入院からリハ開始までの日数は4.3±4.4日,リハ開始から退棟までの日数は9.8±5.8日であった.MCI疑いの割合は多かったが,約8割の者が介護認定を受けておらず,また自動車を運転している者も多く,約10日で退棟することが分かった.【考察】国立長寿医療センター発行のMCIハンドブックには「MCIでは,1年で約5~15%の人が認知症に移行する一方で,1年で約16~41%の人は健常な状態になることがわかっています.」1)とされている.今回MoCA-Jを実施したことで, HDS-Rでは捉えきれなかった認知機能の特性を把握することができ,8割を超える者が経時的な評価や支援の対象としてスクリーニングできた意義は大きいと考える.しかしながら,朝田は「MCIの全国有病推定率は13%」2)としており,当病棟のMCI疑いの割合は,これまでの研究結果より高い傾向にあった.これには3つの要因があると考える.1つ目は疾患急性期による消耗や安静による軽微な廃用が疑われること.2つ目は6割以上が後期高齢者または超高齢者であること.3つ目は5割が難聴を呈していることが影響していると考える.またMoCA-Jのカットオフ値は後期高齢者以上にとっては高いのではないかとも感じている.【今後の課題】我々は対象者が認知症となる前に,その認知機能の特性や生活課題を評価によって把握し,できるだけ多くの方が年齢相応の状態に回復するための支援方法を検討すると共に,退院先や転院先への情報提供が課題であると考える.
1)国立研究開発法人 国立長寿医療センター.あたまとからだを元気にするMCIハンドブック.
2022.第1版.p.11
2)朝田 隆.厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業 都市部における認知症有病率と
認知症の生活機能障害への対応 平成23年度~平成24年度総合研究報告書.2013年3月.p.8.
1)国立研究開発法人 国立長寿医療センター.あたまとからだを元気にするMCIハンドブック.
2022.第1版.p.11
2)朝田 隆.厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業 都市部における認知症有病率と
認知症の生活機能障害への対応 平成23年度~平成24年度総合研究報告書.2013年3月.p.8.