[PK-3-1] 対人関係を円滑に構築するための園芸を中心とした作業療法
OPHI-Ⅱを用いた叙述データの有用性
【はじめに】認知症の周辺症状では不安や誤認などの精神症状による行動症状として,攻撃や興奮,不穏などの問題が出現するとされている.(小川,2016)他方,山内ら(2005)自身の作業の問題を掲げることが難しいCLおいて,生活史を含む叙述データは目標となる作業がCLにとってどのような意味を持つのかを明らかにする点で有用とされている.今回,脳血管性認知症の周辺症状としての易怒性により入院中の作業療法に支障をきたしていたCLに生活史をもとにした作業療法実施したところ,作業を通して身体や生活のリズムの安定につながり,問題行動も減少する様子があったため以下に報告する.なお,発表には事例の承諾と所属先の倫理委員会の承認を得ている.
【事例紹介】肺炎後の廃用症候群で入院した70歳代の男性のA氏.既往に肺炎や糖尿病,心不全,陳旧性脳梗塞などがある.インフルエンザおよび気支炎増悪でA病院に入院後,誤嚥と咽頭反射の低下を認め44病日に療養病棟に転院した.要介護2.独居で身寄りなし,生活保護受給.Key Personは生保ワーカーだった.
【作業療法評価】MMSE23点,CDR1(軽度痴呆).自宅環境が劣悪で自宅退院は困難とみられているが,本人は自宅への退院と食事の訓練を希望している.一方で身体機能向上のための離床訓練やリハ室での歩行訓練などは拒否的で言語聴覚士による介入以外は受け付けない状況だった.作業療法ではCLと周囲の相互理解が難しいと考えられたため,CLの自己価値が現在の生活行為にどのように反映されているかを理解するためにOPHI-Ⅱを通して生活史を聞き取った.その結果,過去の作業経験から農作業などの作業が抽出され院内の人間関係の希薄さと環境に対するストレスの高さが示唆された(67/116点).
【介入の基本方針】面接結果を踏まえて入院環境における役割や対人交流などの意味を持つ作業環境の整備を目的として園芸を中心とした作業を行い,段階的に他者交流やそのほかの生活行為を取り入れていった.
【経過・結果】作業療法では,日常の作業場面ごとの評価を行ったところ,OTRがベランダで水やりをしている様子を見て興味を持つ様子があった.直接声をかけると自らじょうろをもってベランダで水やりを始めたため,肥料や土づくり,野菜の育て方などを段階的に依頼していった.その結果介入2週後以降は徐々に他患者も交えた作業に変わり,育った花を他患者が押し花にしてそれをプレゼントされる.といった作業に広がりも見られた.1か月後に再度実施したOPHI-Ⅱは78/116となった.語りからは現在も身体機能の低下による有能性の低下を感じてはいるものの環境へのストレスが軽減していることが分かった.院内担当スタッフと生保担当者で協議した結果,退院後は他県の有料老人ホームへ入所することとなったが,これまでの介入経過を踏まえて本人とのかかわり方や関係性の作り方を施設のスタッフへ直接面談や病棟生活のなかで段階的に引き継いでいった.
【考察】脳血管性認知症では,残された機能と失われた機能との乖離があり,それが対象者にとってのストレスや不安につながる.そのため,失われた機能(≒自己像)を守ろうと周囲の環境や人の刺激に過敏になり,ストレスや不安による易怒性が出現するとされる. Aさんの療養生活において,園芸通したかかわりは,OTRや院内・施設スタッフなどの他者との共有体験となり,入院により失っていた人や社会との関係といった役割を果たしていたと考える.また,このような対象者と円滑な作業療法支援を行う上では関係性を構築する上では,作業療法士が対象者の語りに耳を傾けていくことが重要であると考えられた.
【事例紹介】肺炎後の廃用症候群で入院した70歳代の男性のA氏.既往に肺炎や糖尿病,心不全,陳旧性脳梗塞などがある.インフルエンザおよび気支炎増悪でA病院に入院後,誤嚥と咽頭反射の低下を認め44病日に療養病棟に転院した.要介護2.独居で身寄りなし,生活保護受給.Key Personは生保ワーカーだった.
【作業療法評価】MMSE23点,CDR1(軽度痴呆).自宅環境が劣悪で自宅退院は困難とみられているが,本人は自宅への退院と食事の訓練を希望している.一方で身体機能向上のための離床訓練やリハ室での歩行訓練などは拒否的で言語聴覚士による介入以外は受け付けない状況だった.作業療法ではCLと周囲の相互理解が難しいと考えられたため,CLの自己価値が現在の生活行為にどのように反映されているかを理解するためにOPHI-Ⅱを通して生活史を聞き取った.その結果,過去の作業経験から農作業などの作業が抽出され院内の人間関係の希薄さと環境に対するストレスの高さが示唆された(67/116点).
【介入の基本方針】面接結果を踏まえて入院環境における役割や対人交流などの意味を持つ作業環境の整備を目的として園芸を中心とした作業を行い,段階的に他者交流やそのほかの生活行為を取り入れていった.
【経過・結果】作業療法では,日常の作業場面ごとの評価を行ったところ,OTRがベランダで水やりをしている様子を見て興味を持つ様子があった.直接声をかけると自らじょうろをもってベランダで水やりを始めたため,肥料や土づくり,野菜の育て方などを段階的に依頼していった.その結果介入2週後以降は徐々に他患者も交えた作業に変わり,育った花を他患者が押し花にしてそれをプレゼントされる.といった作業に広がりも見られた.1か月後に再度実施したOPHI-Ⅱは78/116となった.語りからは現在も身体機能の低下による有能性の低下を感じてはいるものの環境へのストレスが軽減していることが分かった.院内担当スタッフと生保担当者で協議した結果,退院後は他県の有料老人ホームへ入所することとなったが,これまでの介入経過を踏まえて本人とのかかわり方や関係性の作り方を施設のスタッフへ直接面談や病棟生活のなかで段階的に引き継いでいった.
【考察】脳血管性認知症では,残された機能と失われた機能との乖離があり,それが対象者にとってのストレスや不安につながる.そのため,失われた機能(≒自己像)を守ろうと周囲の環境や人の刺激に過敏になり,ストレスや不安による易怒性が出現するとされる. Aさんの療養生活において,園芸通したかかわりは,OTRや院内・施設スタッフなどの他者との共有体験となり,入院により失っていた人や社会との関係といった役割を果たしていたと考える.また,このような対象者と円滑な作業療法支援を行う上では関係性を構築する上では,作業療法士が対象者の語りに耳を傾けていくことが重要であると考えられた.