[PK-4-2] 高次脳機能障害を呈したMELAS患者に対する作業療法
【はじめに】MELAS(mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis,and stroke-like episodes)は,ミトコンドリア病の中で最も頻度の高い臨床病型である.脳卒中様発作を繰り返すたびに,階段状に認知機能が悪化する.また,運動能力低下や患者の日常生活動作(ADL),生活の質(QOL)を損なう脱力感と運動不耐性を生じ,多くは進行性で,しばしば重大な障害を引き起こす.しかし,これまでMELASの作業療法に関する報告は少ない.今回,MELASと診断され,高次脳機能障害を呈した患者の自宅退院に至るまでの経過を報告する.なお,本報告にあたり本人の同意を得ている.
【症例紹介】30歳代女性,夫と同居し,就業していた.元々右耳難聴,片頭痛があり,小柄であった.嘔吐を繰り返し救急搬送され,病歴と併せてMELASによる脳卒中様発作の疑いで入院となる.
【介入時評価】JCSⅠ-2.頭痛,倦怠感,易疲労あり.四肢麻痺なく,MMT4,握力低下をみとめた.MMSE19点,RCPM16点,KOHS IQ57,FAB10点,TMT-A70秒,B179秒であった.知的低下,注意障害,記憶障害,地誌的見当識障害,病識欠如が認められた.FIM101/126点.主訴は,早く家に帰りたいであった.短期目標を院内ADL自立,長期目標を自宅退院(自宅でADL・家事動作が行えるようになる)とした.
【経過と介入方法】
(3-8病日)OT介入,離床開始.帰宅願望強く,流涙していた.頭痛と倦怠感が強く,臥床傾向であった.軽い散歩などの運動を実施した.
(9-14病日)「いつ家に帰れる」と頻回に尋ね,口調が強くなることがあった.病棟地図を描き,繰り返し病棟内を確認しながら歩き,自室まで帰室可能となった.
(15-22病日)離床時間が延長し,自室では集中して塗り絵を行うことができるようになった.
(23-25病日)退院調整を開始した.生活の変化に戸惑いがみられ,解決できず混乱していた.ひとつづつ整理して話合った.また,家での過ごし方(1日の日課,家事・休憩のバランス),調理の工夫などを話合った.易疲労で,連続歩行可能距離は500m程度であった.
(26-27病日)自主的に簡単な料理を調べ,散歩を行うようになった.退院後の注意点や工夫点,体調不良時の対処方法を記載して配布した.
(28病日)自宅退院となった.
【退院時評価】JCSⅠ-1,身体機能は変化なし.MMSE23点,RCPM16点,KOHS IQ71,FAB14点,TMT-A42秒,B133秒.知的低下により複雑な場面では混乱しやすい状態は残存していた.院内では問題ないが記憶障害・注意障害があり,病態理解は不十分であった.距離と時間,体力など複合的に考えることは困難であった.家事の手順,夫の協力を確認した.FIM114/126点.
【考察】多彩な症状を示すMELASに対しては,現在生じている症状を把握したうえで,ADL・QOLを維持していくことが望まれる.今回,取り組みやすい課題から開始し,生活環境内の情報を整理して適応しやすくすることでADLの改善と高次脳機能の向上につながったと考える.また,介入当初より,帰宅願望が強く,不穏や混乱がある一方で病識が欠如しており,入院自体が心理的ストレスとなっていた.さらに入院前と生活方法を変える必要があることが障害への直面化を促すことになり,退院後の生活を考えることも心理的ストレスになっていた.これに対して,本人と解決方法について対話を繰り返したことで,部分的ではあるが現状を理解し,できる範囲で努力することができたと考える.MELASに対しては,一律的な作業療法を行うことはできない.本症例に生じていた,身体面・行動心理面・高次機能に対して運動や課題,対話などの作業療法を行ったことで,ADLが向上し,自宅退院へつながったと考える.
【症例紹介】30歳代女性,夫と同居し,就業していた.元々右耳難聴,片頭痛があり,小柄であった.嘔吐を繰り返し救急搬送され,病歴と併せてMELASによる脳卒中様発作の疑いで入院となる.
【介入時評価】JCSⅠ-2.頭痛,倦怠感,易疲労あり.四肢麻痺なく,MMT4,握力低下をみとめた.MMSE19点,RCPM16点,KOHS IQ57,FAB10点,TMT-A70秒,B179秒であった.知的低下,注意障害,記憶障害,地誌的見当識障害,病識欠如が認められた.FIM101/126点.主訴は,早く家に帰りたいであった.短期目標を院内ADL自立,長期目標を自宅退院(自宅でADL・家事動作が行えるようになる)とした.
【経過と介入方法】
(3-8病日)OT介入,離床開始.帰宅願望強く,流涙していた.頭痛と倦怠感が強く,臥床傾向であった.軽い散歩などの運動を実施した.
(9-14病日)「いつ家に帰れる」と頻回に尋ね,口調が強くなることがあった.病棟地図を描き,繰り返し病棟内を確認しながら歩き,自室まで帰室可能となった.
(15-22病日)離床時間が延長し,自室では集中して塗り絵を行うことができるようになった.
(23-25病日)退院調整を開始した.生活の変化に戸惑いがみられ,解決できず混乱していた.ひとつづつ整理して話合った.また,家での過ごし方(1日の日課,家事・休憩のバランス),調理の工夫などを話合った.易疲労で,連続歩行可能距離は500m程度であった.
(26-27病日)自主的に簡単な料理を調べ,散歩を行うようになった.退院後の注意点や工夫点,体調不良時の対処方法を記載して配布した.
(28病日)自宅退院となった.
【退院時評価】JCSⅠ-1,身体機能は変化なし.MMSE23点,RCPM16点,KOHS IQ71,FAB14点,TMT-A42秒,B133秒.知的低下により複雑な場面では混乱しやすい状態は残存していた.院内では問題ないが記憶障害・注意障害があり,病態理解は不十分であった.距離と時間,体力など複合的に考えることは困難であった.家事の手順,夫の協力を確認した.FIM114/126点.
【考察】多彩な症状を示すMELASに対しては,現在生じている症状を把握したうえで,ADL・QOLを維持していくことが望まれる.今回,取り組みやすい課題から開始し,生活環境内の情報を整理して適応しやすくすることでADLの改善と高次脳機能の向上につながったと考える.また,介入当初より,帰宅願望が強く,不穏や混乱がある一方で病識が欠如しており,入院自体が心理的ストレスとなっていた.さらに入院前と生活方法を変える必要があることが障害への直面化を促すことになり,退院後の生活を考えることも心理的ストレスになっていた.これに対して,本人と解決方法について対話を繰り返したことで,部分的ではあるが現状を理解し,できる範囲で努力することができたと考える.MELASに対しては,一律的な作業療法を行うことはできない.本症例に生じていた,身体面・行動心理面・高次機能に対して運動や課題,対話などの作業療法を行ったことで,ADLが向上し,自宅退院へつながったと考える.