[PK-4-3] 両側頭頂−後頭葉領域の病変によりBalint症候群を呈した一例
家事動作の再開,復職に向けた生活期の作業療法介入
【はじめに】Balint症候群は日常生活全般に様々な影響を及ぼし,長期的な支援が必要となる.しかし,効果的かつ特異的な介入方法はまだ確立されておらず,生活期の支援については報告も少ない.今回,Balint症候群を呈した症例の家事動作の再開と復職に向けた生活期の作業療法(以下,OT)について報告する.
【倫理的配慮】本発表について本人に説明し,書面にて同意を得た.
【症例紹介】両側頭頂−後頭葉領域の脳梗塞によりBalint症候群を呈した50歳代女性.病前のADL・IADLは自立し,公共職業安定所に勤務していた.OTは入院直後より開始し,ADL自立,家事動作見守りの状態で第185病日に自宅退院となった.第189病日に訪問OT(週1回),第388病日に外来OT(週2回)を開始した.
【介入経過】訪問OT開始時の評価では,右下1/4盲とBalint症候群(視覚性注意障害,視覚性運動失調)は残存し,退院時に可能であると想定していた家事動作が実施困難であった.また,早期の復職希望があり,OTは家事動作と復職に焦点を当て介入することとした.入院中の家事動作練習では,よく使う物品の位置を決め,手がかりとして赤い目印や身体感覚を利用し,反復練習することが有効であったが,自宅では実践できていなかった.そのため,まずは必要な箇所を赤くマーキングしながら自宅環境を整理し,動作練習を反復した.また,可能となった家事を役割として実践できるよう家族と連携し,家事動作の定着を図った.復職支援に関しては通勤練習から開始し,屋外歩行とバスの利用練習を実施した.屋外歩行では,白線や交差点での信号機の探索が困難で,車道にはみ出ることや横断可否の判断が困難であったため,縁石のある歩道を通ることや進行方向に足先を向け身体感覚を手がかりに信号機を探索することを練習した.また,バス利用時はICカードリーダーの利用が困難であり,身体感覚を用いてリーチ練習を反復した.通勤手段が確立した後には,業務を把握するために職場面談を行った.復職に必要な業務は相談業務(求人票の説明,PC操作,予約票の記入)であり,OTでは実際の求人票の読み上げ,職場のシステムに近いPCフォーマットを使用した文字入力と項目選択練習を反復し,模擬的な面談練習を実施した.また,症例の業務中に想定される問題と対策を職場と共有できるよう,医師と共に連携を図った.第260病日にはリハビリ出勤を開始し,実務で生じた問題の解決策を検討するため,外来OTを開始した.具体的には予約票の確認や記入,押印作業など,視覚対象が多い環境下の作業が困難であり,視覚情報を制限するための自助具を作成した.作成した自助具は実際に職場で使用してもらい,症例や職場スタッフの意見を取り入れながら改良を行い,フォローアップした.
【結果】Balint症候群(視覚性注意障害,視覚性運動失調)は残存したものの,発症7ヵ月後に家族のサポート受けながら家事動作再開,発症9ヶ月後に職場のサポートを受けながら復職となった.相談業務やPC操作には時間を要するものの職場に定着できている.
【考察】入院時に有効であった感覚モダリティ(色覚,身体感覚)の利用や反復練習を生活期でも導入することで,家事動作の再開や復職支援におけるアプローチの起点になったと考える.また,復職支援に関して,職場訪問を通して必要な業務を把握し,想定される問題と対策を職場と共有できたことが,実践的な復職前訓練の導入や職場の理解につながり,復職に至ったと考える.生活期のBalint症候群において,残存している感覚モダリティの利用や周囲への働きかけを通し,生活環境への再適応を図る支援が必要であると考える.
【倫理的配慮】本発表について本人に説明し,書面にて同意を得た.
【症例紹介】両側頭頂−後頭葉領域の脳梗塞によりBalint症候群を呈した50歳代女性.病前のADL・IADLは自立し,公共職業安定所に勤務していた.OTは入院直後より開始し,ADL自立,家事動作見守りの状態で第185病日に自宅退院となった.第189病日に訪問OT(週1回),第388病日に外来OT(週2回)を開始した.
【介入経過】訪問OT開始時の評価では,右下1/4盲とBalint症候群(視覚性注意障害,視覚性運動失調)は残存し,退院時に可能であると想定していた家事動作が実施困難であった.また,早期の復職希望があり,OTは家事動作と復職に焦点を当て介入することとした.入院中の家事動作練習では,よく使う物品の位置を決め,手がかりとして赤い目印や身体感覚を利用し,反復練習することが有効であったが,自宅では実践できていなかった.そのため,まずは必要な箇所を赤くマーキングしながら自宅環境を整理し,動作練習を反復した.また,可能となった家事を役割として実践できるよう家族と連携し,家事動作の定着を図った.復職支援に関しては通勤練習から開始し,屋外歩行とバスの利用練習を実施した.屋外歩行では,白線や交差点での信号機の探索が困難で,車道にはみ出ることや横断可否の判断が困難であったため,縁石のある歩道を通ることや進行方向に足先を向け身体感覚を手がかりに信号機を探索することを練習した.また,バス利用時はICカードリーダーの利用が困難であり,身体感覚を用いてリーチ練習を反復した.通勤手段が確立した後には,業務を把握するために職場面談を行った.復職に必要な業務は相談業務(求人票の説明,PC操作,予約票の記入)であり,OTでは実際の求人票の読み上げ,職場のシステムに近いPCフォーマットを使用した文字入力と項目選択練習を反復し,模擬的な面談練習を実施した.また,症例の業務中に想定される問題と対策を職場と共有できるよう,医師と共に連携を図った.第260病日にはリハビリ出勤を開始し,実務で生じた問題の解決策を検討するため,外来OTを開始した.具体的には予約票の確認や記入,押印作業など,視覚対象が多い環境下の作業が困難であり,視覚情報を制限するための自助具を作成した.作成した自助具は実際に職場で使用してもらい,症例や職場スタッフの意見を取り入れながら改良を行い,フォローアップした.
【結果】Balint症候群(視覚性注意障害,視覚性運動失調)は残存したものの,発症7ヵ月後に家族のサポート受けながら家事動作再開,発症9ヶ月後に職場のサポートを受けながら復職となった.相談業務やPC操作には時間を要するものの職場に定着できている.
【考察】入院時に有効であった感覚モダリティ(色覚,身体感覚)の利用や反復練習を生活期でも導入することで,家事動作の再開や復職支援におけるアプローチの起点になったと考える.また,復職支援に関して,職場訪問を通して必要な業務を把握し,想定される問題と対策を職場と共有できたことが,実践的な復職前訓練の導入や職場の理解につながり,復職に至ったと考える.生活期のBalint症候群において,残存している感覚モダリティの利用や周囲への働きかけを通し,生活環境への再適応を図る支援が必要であると考える.