[PK-4-5] 脳卒中後に視覚失認を呈した患者における病態解釈と作業療法の工夫:症例報告
【はじめに】視覚失認を呈した患者は,視力障害や失語症がないにも関わらず,物体や文字,顔や風景などの認知が困難となり,更衣困難・道に迷う等の生活障害は日常生活を著しく制限し,家族や介護者の生活に大きな影響を与えるとされる.今回,脳卒中後に相貌と風景の認知に障害を呈した症例における視覚認知の症状の経過について報告する.
【症例紹介】右利きの90代前半の女性.両側の後頭葉から側頭葉の脳塞栓症の診断で,第14病日に回復期病棟に入院した.MMSE20点,Behavioural inattention test(BIT)128点で机上検査で左右空間の著明な無視症状は認めなかった.眼球運動は正常,視野は上方盲を呈した.日常生活ではトイレットペーパーが分からず排泄に声掛けを要した.食事では,野菜の呼称は可能だがカットされた野菜は同定できず,嗅覚や味覚で認知した.また,家族を見ても誰か分からないが会話すれば認識し,自宅写真を見て家具の同定は可能も既知感は無く,自宅と分からなかった.本発表はヘルシンキ宣言を遵守して対象者保護に留意し,書面にて家族から同意を得た.
【介入と結果】第40病日に家族の顔は認知可能となった.排泄時の声掛けは要さず,生活での物体失認症状は軽減した.第81病日時点でMMSE23点,BIT142点となった.高次視知覚機能検査(VPTA)では有名人の認知16/16点,指示は15/16点と熟知相貌項目に重度障害を認めたが,氏名を口頭で伝えると職業や相貌の特徴を正確に言語的に表出した.風景認知は「部屋にベッドと仏壇がある」と正確に説明したが,自宅訪問時に近隣の街並や自宅,自身の部屋を見ても認識できなかった.以上より,相貌や街並の認知において,聴覚呈示では特徴を説明でき記憶は保たれていると推測された.また,野菜や家具など個々の物体の認知は改善したが,相貌や部屋などの全体認知や視覚情報から記憶を想起する認知過程に障害があると考えた.そこで,聴覚情報から想起した記憶を活用して視覚情報を同定する代償的な視覚認知訓練として,口頭で氏名を呈示された有名人の相貌の特徴を言語化した後に,顔写真から視覚的に人物を同定する練習を実施した.全体認知の練習として,写真の状況説明や図形模写,見本通りにピースを並べ立方体を作る課題などを実施した.
第154病日,VPTAでは,有名人の認知は10/16点(正答3/8),指示は7/16点(正答6/8)と改善を認めた.自宅写真を見た際や外泊時に「私のベッドと仏壇があるから自分の部屋」と認識したが,自身の物と認識できる物が無い部屋は既知感が無く自宅と認識できず,部屋間移動に介助を要した.街並の同定時の内省から,視覚的な全体認知の程度は明確に判断できなかったが,個々の物体の既知感や記憶から相貌や街並などを推測することで代償的に同定できる場面が増えたと考えた.家族は外泊での生活障害を見て記憶の想起を促す対応をしたが,個々の物体は記憶できること,自宅の良く使う部屋の扉に目印となる飾りをつけること,自宅と認識できない部屋に既知感のある物を置くことを提案し,退院後4日で自宅内移動は自立し混乱なく生活できている.
【考察】本症例は,認知機能や物体失認症状は改善を認め,相貌や街並の記憶は保たれていたが,視覚的な全体認知や視覚情報から記憶を想起する認知過程の障害が後期まで残存したと考えられた.聴覚情報から想起した記憶を活用する代償戦略により,髪型や家具など視覚的に捉えられる部分が増加し,同定可能な物が増えた可能性があると考える.以上から,障害された視覚認知機能を詳細に分析した上で適切な代償手段を選択することが,効果的な作業療法を進めるために重要であった.
【症例紹介】右利きの90代前半の女性.両側の後頭葉から側頭葉の脳塞栓症の診断で,第14病日に回復期病棟に入院した.MMSE20点,Behavioural inattention test(BIT)128点で机上検査で左右空間の著明な無視症状は認めなかった.眼球運動は正常,視野は上方盲を呈した.日常生活ではトイレットペーパーが分からず排泄に声掛けを要した.食事では,野菜の呼称は可能だがカットされた野菜は同定できず,嗅覚や味覚で認知した.また,家族を見ても誰か分からないが会話すれば認識し,自宅写真を見て家具の同定は可能も既知感は無く,自宅と分からなかった.本発表はヘルシンキ宣言を遵守して対象者保護に留意し,書面にて家族から同意を得た.
【介入と結果】第40病日に家族の顔は認知可能となった.排泄時の声掛けは要さず,生活での物体失認症状は軽減した.第81病日時点でMMSE23点,BIT142点となった.高次視知覚機能検査(VPTA)では有名人の認知16/16点,指示は15/16点と熟知相貌項目に重度障害を認めたが,氏名を口頭で伝えると職業や相貌の特徴を正確に言語的に表出した.風景認知は「部屋にベッドと仏壇がある」と正確に説明したが,自宅訪問時に近隣の街並や自宅,自身の部屋を見ても認識できなかった.以上より,相貌や街並の認知において,聴覚呈示では特徴を説明でき記憶は保たれていると推測された.また,野菜や家具など個々の物体の認知は改善したが,相貌や部屋などの全体認知や視覚情報から記憶を想起する認知過程に障害があると考えた.そこで,聴覚情報から想起した記憶を活用して視覚情報を同定する代償的な視覚認知訓練として,口頭で氏名を呈示された有名人の相貌の特徴を言語化した後に,顔写真から視覚的に人物を同定する練習を実施した.全体認知の練習として,写真の状況説明や図形模写,見本通りにピースを並べ立方体を作る課題などを実施した.
第154病日,VPTAでは,有名人の認知は10/16点(正答3/8),指示は7/16点(正答6/8)と改善を認めた.自宅写真を見た際や外泊時に「私のベッドと仏壇があるから自分の部屋」と認識したが,自身の物と認識できる物が無い部屋は既知感が無く自宅と認識できず,部屋間移動に介助を要した.街並の同定時の内省から,視覚的な全体認知の程度は明確に判断できなかったが,個々の物体の既知感や記憶から相貌や街並などを推測することで代償的に同定できる場面が増えたと考えた.家族は外泊での生活障害を見て記憶の想起を促す対応をしたが,個々の物体は記憶できること,自宅の良く使う部屋の扉に目印となる飾りをつけること,自宅と認識できない部屋に既知感のある物を置くことを提案し,退院後4日で自宅内移動は自立し混乱なく生活できている.
【考察】本症例は,認知機能や物体失認症状は改善を認め,相貌や街並の記憶は保たれていたが,視覚的な全体認知や視覚情報から記憶を想起する認知過程の障害が後期まで残存したと考えられた.聴覚情報から想起した記憶を活用する代償戦略により,髪型や家具など視覚的に捉えられる部分が増加し,同定可能な物が増えた可能性があると考える.以上から,障害された視覚認知機能を詳細に分析した上で適切な代償手段を選択することが,効果的な作業療法を進めるために重要であった.