第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-5] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-5-1] MR(Mixed Reality)を用いた視空間認知評価の試み

健常高齢者における検討

酒野 直樹1, 和田 紘樹2, 吉武 将司1, 佐藤 香緒里3, 木林 勉3 (1.金城大学 医療健康学部作業療法学科, 2.金城大学短期大学部 美術学科, 3.金城大学 医療健康学部理学療法学科)

【はじめに】現在,臨床現場で視空間認知機能を定量的に評価する手段は,机上検査や動作観察による主観的評価が一般的である.視空間認知は机上検査では問題がなくても,日常生活場面では問題を生じることがあるため,日常の生活空間に近い状態での定量評価の確立が求められる.MR(Mixed Reality:複合現実)は,ヘッドマウントディスプレイを通して,現実空間上にデジタルコンテンツを可視化でき,いわゆるVR (Virtual Reality:仮想現実)酔いが生じにくいとされている.本研究では,MRを用いた視空間認知の評価法(以下MR評価法)の信頼性と妥当性を検証することを目的に,健常高齢者を対象に,独自に作成したMR評価法と従来の机上検査を実施し,比較検討した.
【対象】地域在住高齢者に本研究の趣旨を記載したポスター等を配布し,参加を希望した18名に本研究の目的,方法を説明し,研究への参加を書面で同意を得て対象とした.年齢は65~81歳(平均73.8±4.7歳)で,男性8名,女性10名であった.
【方法】対象者全員に,Unity(Unity Technologies社)で独自に作成したMR評価法を実施した.MR機器はMeta Quest Pro(Meta社)を使用した.MR評価法の課題は3次元空間上に投影された1~26の数字の玉にコントローラーから出る線を当てボタンを押し,順番に消すこととし,終了までの時間を計測した.また机上検査としてTMT-A,TMT-B,CATの視覚性抹消課題(図形△),SDMT,MMSEを実施し,MR評価法の時間と各机上検査の関係性を検討した.また検査実施後にMRを使用した際の圧迫感や疲労感,難易度など計8項目をアンケート調査した.尚,本研究は本学の研究倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】各計測項目の平均値及びSDは, MR評価法の時間:82.7±35.0秒,TMT-A:52.8±15.8秒,TMT-B:100.7±64.4秒,視覚性抹消課題:51.9±14.5秒,SDMT:45.5±7.9%, MMSE:28.6±1.6であった. MR評価法の時間と各机上検査間の相関については有意な相関は認められなかった.アンケート結果では,機器を装着した際の圧迫感について,50%(9名)が全く感じない,あまり感じないと回答した一方で,50%(9名)がやや感じると回答した.机上の検査と比較したMRを使用した検査の難易度については,83.3%(15名)がとても簡単,やや簡単と回答した.MRを使用した検査実施後の疲労感・気分の悪さについては,88.9%(16名)が全く感じない,あまり感じないと回答した.
【考察】本研究では,健常高齢者に対しMR評価法と従来の机上の検査を実施し,MR評価法の信頼性と妥当性を検証した.今回実施したMR評価法では探索に時間のかかる対象者がみられた.MR評価法の課題はTMT-Aと類似した数字を消去していく抹消課題ではあるが,3次元空間上に広く配置されているため時間がかかったのではないかと考えられた.MR評価法と各机上検査間に有意な相関が認められなかったことから,各机上検査では拾いきれない日常の生活空間に近い状態での視空間認知の評価が可能であると考えられた.また,アンケートの結果から機器を装着した際に圧迫感を感じる対象者がいるものの,検査後の疲労感・気分の悪さを訴えた対象者がいなかったことから安全に実施できる検査であると考えられた.以上のことから,MR評価法が視空間認知の評価法として活用できる可能性が示唆された.