[PK-5-2] ドライビングシミュレーター操作時の視線X軸データとJ-SDSAとの関連
【背景】
自動車運転は,認知・判断・予測・操作といった様々な要素・能力が求められる複雑な認知運動課題である.これらの要素や運転能力に影響を及ぼす疾患として脳卒中などがあるが,特に,右半球損傷者に認められる半側空間無視は,損傷部位の対側空間を正確に視認できなくなるため,運転再開の阻害要因となる.我々は,視線計測付ドライビングシミュレーターを開発し,健常者データを収集してきた.本研究では,対象を右半球損傷者とし,本装置操作時の視線とStroke Driver‘s Screening Assessment Japanese Version(J-SDSA)との関連について検討した.本研究の目的は,本装置操作時におけるドライバーの視線X軸データとJ-SDSAとの関連について検討し,視線X軸データが自動車運転可否の判定指標となる可能性を探ることである.
【方法】
対象は,所属機関の附属病院でリハビリテーションが処方された右半球損傷者で,自動車運転免許を保有し視線計測付ドライビングシミュレーターの実施が可能で研究協力が得られた11名(平均年齢は62歳,女性3名,男性8名)であった.参加者には研究の趣旨を説明し,文書による同意を得た.本研究は本学倫理委員会の承認を得ている.実験はリハビリテーション室の静音環境下で実施した.測定解析項目は,本装置操作時の視線X軸データ,J-SDSAとした.本装置は,モニターに運転映像を提示し,映像の動きに合わせて模擬運転を行わせ,ハンドル,アクセル,ブレーキの応答,視線計測データを測定できる.視線計測にはTalkEye Freeを用いた.参加者は,初めに練習コースを走行し,次に住宅地コース(約5分)を走行した.その際の視線計測データより,視線X軸上の平均値を算出した.J-SDSAは,Dot抹消,方向,コンパス,道路標識の4つの下位検査より構成される脳卒中ドライバーのスクリーニング評価であり,解析には運転合否判定結果を用いた.視線X軸データとJ-SDSAの関連については,スピアマンの順位相関係数を用いて解析した.なお,統計学的有意水準はp値が0.05未満とした.
【結果】
J-SDSAの合否は,6名が合格,5名が不合格であった.J-SDSAの不合格者は,視線X軸上で視線が右側へ偏位する傾向を認めた.視線X軸データとJ-SDSAとの相関については,有意な負の相関を認めた(ρ=-0.6351, p<0.05).
【考察】
視線X軸データとJ-SDSAの合否判定結果との間に相関を認め,J-SDSAにおける不合格者の視線X軸データ平均値は,右側へ偏位していた.ドライバー視線が右側へ偏位した要因は,本装置操作時の能動的注意・受動的注意が影響していると考えられる.特に,本コースは,市街地コースに比し,外的刺激が少なく,無意識的に注意が向けられる受動的注意の影響を強く受けていたと考える.机上検査では,受動的注意の影響を捉えづらいが,本装置は,実車運転時に近似したドライバー視線を評価できる可能性がある.また,J-SDSAとの相関も認めており,視線X軸データが自動車運転可否の判定の一助となる可能性が示唆された.
自動車運転は,認知・判断・予測・操作といった様々な要素・能力が求められる複雑な認知運動課題である.これらの要素や運転能力に影響を及ぼす疾患として脳卒中などがあるが,特に,右半球損傷者に認められる半側空間無視は,損傷部位の対側空間を正確に視認できなくなるため,運転再開の阻害要因となる.我々は,視線計測付ドライビングシミュレーターを開発し,健常者データを収集してきた.本研究では,対象を右半球損傷者とし,本装置操作時の視線とStroke Driver‘s Screening Assessment Japanese Version(J-SDSA)との関連について検討した.本研究の目的は,本装置操作時におけるドライバーの視線X軸データとJ-SDSAとの関連について検討し,視線X軸データが自動車運転可否の判定指標となる可能性を探ることである.
【方法】
対象は,所属機関の附属病院でリハビリテーションが処方された右半球損傷者で,自動車運転免許を保有し視線計測付ドライビングシミュレーターの実施が可能で研究協力が得られた11名(平均年齢は62歳,女性3名,男性8名)であった.参加者には研究の趣旨を説明し,文書による同意を得た.本研究は本学倫理委員会の承認を得ている.実験はリハビリテーション室の静音環境下で実施した.測定解析項目は,本装置操作時の視線X軸データ,J-SDSAとした.本装置は,モニターに運転映像を提示し,映像の動きに合わせて模擬運転を行わせ,ハンドル,アクセル,ブレーキの応答,視線計測データを測定できる.視線計測にはTalkEye Freeを用いた.参加者は,初めに練習コースを走行し,次に住宅地コース(約5分)を走行した.その際の視線計測データより,視線X軸上の平均値を算出した.J-SDSAは,Dot抹消,方向,コンパス,道路標識の4つの下位検査より構成される脳卒中ドライバーのスクリーニング評価であり,解析には運転合否判定結果を用いた.視線X軸データとJ-SDSAの関連については,スピアマンの順位相関係数を用いて解析した.なお,統計学的有意水準はp値が0.05未満とした.
【結果】
J-SDSAの合否は,6名が合格,5名が不合格であった.J-SDSAの不合格者は,視線X軸上で視線が右側へ偏位する傾向を認めた.視線X軸データとJ-SDSAとの相関については,有意な負の相関を認めた(ρ=-0.6351, p<0.05).
【考察】
視線X軸データとJ-SDSAの合否判定結果との間に相関を認め,J-SDSAにおける不合格者の視線X軸データ平均値は,右側へ偏位していた.ドライバー視線が右側へ偏位した要因は,本装置操作時の能動的注意・受動的注意が影響していると考えられる.特に,本コースは,市街地コースに比し,外的刺激が少なく,無意識的に注意が向けられる受動的注意の影響を強く受けていたと考える.机上検査では,受動的注意の影響を捉えづらいが,本装置は,実車運転時に近似したドライバー視線を評価できる可能性がある.また,J-SDSAとの相関も認めており,視線X軸データが自動車運転可否の判定の一助となる可能性が示唆された.