第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-5] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-5-6] 高次脳機能障害を呈した事例に対する急性期からの就労支援

石川 志帆1, 細川 大瑛2,3 (1.森山記念病院 リハビリテーション科, 2.国立病院機構仙台西多賀病院, 3.東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野)

【はじめに】若年脳損傷者にとって就労は重要な課題であり,高次脳機能障害は就労を困難にする要因の一つである.医療機関の作業療法士は,就労支援として障害像の把握,職業準備性支援,職業適性判断等の役割がある(菊地,2022).今回,注意障害や病識低下が中心の高次脳機能障害を呈した事例に対し,症状の気付きを促す振り返りにより職業準備性支援を図り,職業適性判断のための作業評価を実施した.その結果,職務再設計し配置転換での復職に至ったため報告する.尚,本発表は本人に文書にて同意を得た.
【事例紹介】40歳代の矯正右利きの男性で独居.右片麻痺が出現し当院へ救急搬送され,左頭頂側頭葉皮質下出血と診断された.専門学校卒業後,病院や老健に調理師として勤務していた.
【評価】意識障害が改善した10病日から作業療法開始.事例は「早く家に帰りたいけど何かおかしい」と述べた.明らかな運動麻痺や感覚障害はなかった.MMSE-Jは23/30点で,連続減算や遅延再生で失点した.右半側空間無視(線分二等分4/9点,線分抹消30/36点)や持続性注意低下(TMT-A 247秒,TMT-Bは実施困難),構成障害(コース立方体組み合わせテスト実施困難)を認めた.記憶は近時記憶から低下していた.ADLは排泄や更衣に介助を要し,歩行は右側の物や人に気付かず見守りを要した.IADLは,洗濯は洋服を畳めない・ハンガーに掛けられない,掃除は右空間が認識できず終わった範囲を何度も掃除する,料理はまな板の端で材料を切る,買い物は支払いができず,全般的に介助を要した.事例は復職へ高い意欲を示したが,原職復帰を希望し現状に楽観的で病識低下を認めた.
【方針と経過】事例の職場より,清掃や調理補助業務へ配置転換は可能と提案があった.一方,復職には独居を達成し公共交通機関が利用できること,できる作業を本人が理解することが必要であった.これより,独居を想定したADL・IADL自立,担える仕事内容を事例自身が理解することをで復職を目指すこととした.介入は注意障害に対する机上課題,実際のADL・IADL課題を行った.例として,掃除は右空間の把握が困難のため,歩いて部屋の大きさを確認し右側から始める方法を指導した.振り返りは自己評価とOTR評価の比較,良かった点と悪かった点の確認,実施方法の検討をした.初期は「なんとかなる」と考えていたが,徐々に「今まで出来たことも間違える」と変化した.ADL自立後は血圧記録等の健康管理,指定場所での待ち合わせ等の時間管理を追加した.
【結果】右半側空間無視と構成障害は概ね改善,注意障害は残存(TMT-A 84秒,TMT-B 209秒)したが,ADL・IADL自立し独居可能となった.複数の情報は覚えられず記憶障害は残存,また注意障害の影響から複雑な話の要点は掴めないことがあった.業務関連作業は,調理は困難だが,一つの作業に絞ると清掃や食事の盛り付けは可能となった.事例は「最初は一つのことに集中する」と述べ,病識改善を認めた.現状の能力と指示は簡潔に伝える,適宜休憩をする,仕事は一つずつ与えるといった配慮点を職場に情報提供した.約2ヶ月で当院を退院し,その後訪問リハで公共交通機関利用訓練を行い,発症約4ヶ月後に配置転換での復職に至った.
【考察】本事例は症状の改善と効果的な対応策の獲得,職場の配慮や社会資源の活用により,独居生活と短期間での復職を達成した.高次脳機能障害を呈した若年脳損傷者の就労支援には,急性期から障害像を把握し,気付きを促す患者教育と効果的な対応策定着に向けた介入(職業準備性支援),配置転換等の職務再設計を含む職場への情報提供(職業適性判断)が重要であると考える.