第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-6] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)6

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-6-1] 多職種連携による就労支援に難渋した高次脳機能障害と失語症を有した一例

寺岡 優希, 壹岐 伸弥, 川村 啓和, 島 るりか, 川口 琢也 (医療法人香庸会 川口脳神経外科リハビリクリニック)

【はじめに】就労支援先である企業や支援機関が医療機関に対してどのような協働支援を期待しているかについての報告は少ない.本人や家族,就労支援機関,企業など多職種間での適切な情報共有に難渋した高次脳機能障害と失語症を有する一例の経過について報告する.
【症例情報】50歳代男性.右利き.営業職.妻,子供1人と3人暮らし.X年Y月Z日に失語症状を認め家人が救急要請.左被殻出血で保存加療.Y+3.6ヶ月より当院での外来リハビリテーション(以下,外来リハ)を開始した.右上肢は実用性に乏しく利き手交換をしていた.
X+2年4ヶ月就労時点での神経心理学検査は,Wechsler Adult Inteligence Scale-Third Edition:FIQ78,VIQ73,PIQ78,標準失語症検査:聴く37/40,話す64/70,読む39/40,書く35/35,計算20/20,Wechsler Memory Scale-Revised:言語性記憶69,視覚性記憶117,一般的記憶81,注意/集中88,遅延再生92,Trail Making Test 日本版 A:63秒(異常)B:75秒(境界),日本版BADS遂行機能障害症候群の行動評価:78(境界域)と軽度の失語症と記銘力低下,注意障害,遂行機能障害を認め,自身の言いたいことを伝える事ができず,口頭指示による理解の困難さに加え,理解した内容も注意の問題により,翌日には健忘している場面がみられた.
【経過】週4回2時間の頻度で外来リハを開始した.妻を通じた企業とのヒアリングや支援機関との対応は当院の心理士が行った.本例と企業との関係は良好であった.Y+8.2ヶ月,脳卒中後の復職は企業側も初めてであったためサポート会社を依頼され,復職前に地域障害者職業センター(以下,職業センター)の利用を提案された.職業センターの利用はX+1年4ヶ月後より週2回で開始し,休職期間が切れるX+1年9ヶ月後より復職予定となった.X+1年8ヶ月,職業センターの担当,直属の上司,産業医と現状の能力のチェックがあった.この話し合いに当院より,本例に関わる人の制限や,可能な作業や苦手な作業,体力面を説明する資料を作成し事前に共有した.しかし,企業側の要求と支援側との提案に乖離があり,特に現状のパソコン(以下,PC)能力では復帰は難しいという結論に至った.月に1回,PC能力チェックが行われ復帰時期を検討していく方針となった.内容について本例に確認するも,想起が不十分であり説明困難であった.妻に確認したが,企業側からも具体的な点は不明瞭であった.毎月の能力チェックでどういった反省点があり,何が不十分であったのかについて支援職と共有できず対策が難しかった.その後,4回のPC能力チェックを繰り返し,X+2年4ヶ月より復帰が決まった.
【考察】大熊ら(2023)は,医療機関と就労支援機関との連携では「決して十分な情報が医療機関から提供されてるとは言えない」,「医療機関が提供する情報に配慮がなされていない」ことを指摘しており,具体的な作業のスピードや実用性などは一般的な指標を用いた共有が必要であったと考えられる.企業側も任せる仕事内容に疑問を持っていたことに関しては,本人の能力について共有が不足し,仕事内容のリハーサルや具体性が共有できなかったためではないかと考える.今後は,企業側の欲求を聴取し,共有できるような仕組みや役割分担が必要であり,対面での情報共有などが望ましいのではないかと考える.
【倫理的配慮】本報告にあたり本例へ十分な説明の上,書面にて同意を得た.