[PK-6-2] 職場への情報提供が復職につながった高次脳機能障害事例
【はじめに】
本邦の脳卒中後の復職率は約30-45%であるが,高次脳機能障害を有している場合はさらに低下することが報告されている.また,高次脳機能障害を有する対象者の復職には,当事者の能力以上に受け入れる職場の理解が大きく影響するため,職場との連携は重要となる.今回,多発性脳梗塞を発症し高次脳機能障害を呈した事例の復職支援に関わる機会を得た.病状に関する情報だけではなく模擬訓練の様子を動画撮影し職場に提供したことで復職に至った事例を経験したため以下に報告する.なお,本報告は対象者およびその家族に同意を得て実施している.
【事例紹介】
事例はX年Y月に多発性脳梗塞を発症した20代前半の男性.第86病日に当院回復期リハビリ病棟に入院した.両親と3人暮らし,喫茶チェーン店の店員として5日/週,7.5時間/日勤務していた.回復期リハビリでは,身体機能および高次脳機能障害に対して介入し第181病日に自宅退院の運びとなったが,復職に向けた支援継続のため外来リハビリが開始された.外来開始時の心身機能は,Brs.右上肢V–手指V–下肢V,MMSE:30点,TMT-J:PartA85秒,PartB94秒,RBMT:SPS12点,SS4点,ROCFT Delay:1点であり,注意障害と記憶障害が残存していた.その他,WAIS–III:VIQ70,PIQ57,FIQ61,対人技能の拙劣さや,感情コントロールの低下,固執性も認められた.
【経過】
外来開始時に在宅生活の様子を事例と家族に聴取した.事例は「問題ない」と話したが,家族からは「薬の飲み忘れ」や「ダイエットと言ってご飯を食べない」などの問題点が挙げられた.職業準備性ピラミッドの基盤となる健康管理・日常生活管理が困難であったため,認知行動的アプローチや事例と家族3者での話し合いによる日常生活における問題点とその解決方法の検討を重ねた.徐々に生活の安定化が図れたため,第260病日より復職に必要な対人技能と社会性の獲得のためにSCTIを開始した.また,職場との面談に向けて家族から依頼を受け,職場に事例の病状と業務上で予測される問題点および対応方法等の情報提供を実施した.面談後,職場から業務内容に即したリハビリを実施してほしいとの依頼を受け,職場に細かな業務内容を確認した上で模擬場面を設定し練習した.職場に対して練習中の動画を提供したところ,上司から「こんなこともできるのですね」との声が聞かれた.しかし,その後も職場との面談は数回実施されたが,再雇用に関しての不安は払拭できていない状況であったため,携わる業務内容の確認および模擬練習の動画提供を繰り返し実施した.
【結果】
第441病日に2日/週,2時間/日勤務が開始となった.業務内容は主に店内清掃や在庫管理である.現在は3〜5日/週,7.5時間/日勤務となっているが,記憶障害や病識の低下,対人関係の拙劣さは残存しており,接客などの一部業務は行えていない状況である.業務上における問題点の確認および解決方法を提案するために月2〜4回の外来リハビリを継続している.
【考察】
今回,高次脳機能障害を呈した事例の復職支援として,職業準備性ピラミッドに沿った段階的な介入と職場への情報提供を実施した.復職支援では健康管理や日常生活の安定化が基盤となるが,病識が低下している事例は問題を認識できていなかった.家族を巻き込んだ3者間の関わりは,客観的な視点を提供し事例の問題認識を高める一助になったと考える.また,復職には職場の理解は必要不可欠である.病状に関する情報提供だけではなく,実際の業務内容に基づいた模擬練習場面の情報提供は,事例の遂行技能を視覚的に確認する機会となり,職場の理解を高めたことで復職につながったと考える.
本邦の脳卒中後の復職率は約30-45%であるが,高次脳機能障害を有している場合はさらに低下することが報告されている.また,高次脳機能障害を有する対象者の復職には,当事者の能力以上に受け入れる職場の理解が大きく影響するため,職場との連携は重要となる.今回,多発性脳梗塞を発症し高次脳機能障害を呈した事例の復職支援に関わる機会を得た.病状に関する情報だけではなく模擬訓練の様子を動画撮影し職場に提供したことで復職に至った事例を経験したため以下に報告する.なお,本報告は対象者およびその家族に同意を得て実施している.
【事例紹介】
事例はX年Y月に多発性脳梗塞を発症した20代前半の男性.第86病日に当院回復期リハビリ病棟に入院した.両親と3人暮らし,喫茶チェーン店の店員として5日/週,7.5時間/日勤務していた.回復期リハビリでは,身体機能および高次脳機能障害に対して介入し第181病日に自宅退院の運びとなったが,復職に向けた支援継続のため外来リハビリが開始された.外来開始時の心身機能は,Brs.右上肢V–手指V–下肢V,MMSE:30点,TMT-J:PartA85秒,PartB94秒,RBMT:SPS12点,SS4点,ROCFT Delay:1点であり,注意障害と記憶障害が残存していた.その他,WAIS–III:VIQ70,PIQ57,FIQ61,対人技能の拙劣さや,感情コントロールの低下,固執性も認められた.
【経過】
外来開始時に在宅生活の様子を事例と家族に聴取した.事例は「問題ない」と話したが,家族からは「薬の飲み忘れ」や「ダイエットと言ってご飯を食べない」などの問題点が挙げられた.職業準備性ピラミッドの基盤となる健康管理・日常生活管理が困難であったため,認知行動的アプローチや事例と家族3者での話し合いによる日常生活における問題点とその解決方法の検討を重ねた.徐々に生活の安定化が図れたため,第260病日より復職に必要な対人技能と社会性の獲得のためにSCTIを開始した.また,職場との面談に向けて家族から依頼を受け,職場に事例の病状と業務上で予測される問題点および対応方法等の情報提供を実施した.面談後,職場から業務内容に即したリハビリを実施してほしいとの依頼を受け,職場に細かな業務内容を確認した上で模擬場面を設定し練習した.職場に対して練習中の動画を提供したところ,上司から「こんなこともできるのですね」との声が聞かれた.しかし,その後も職場との面談は数回実施されたが,再雇用に関しての不安は払拭できていない状況であったため,携わる業務内容の確認および模擬練習の動画提供を繰り返し実施した.
【結果】
第441病日に2日/週,2時間/日勤務が開始となった.業務内容は主に店内清掃や在庫管理である.現在は3〜5日/週,7.5時間/日勤務となっているが,記憶障害や病識の低下,対人関係の拙劣さは残存しており,接客などの一部業務は行えていない状況である.業務上における問題点の確認および解決方法を提案するために月2〜4回の外来リハビリを継続している.
【考察】
今回,高次脳機能障害を呈した事例の復職支援として,職業準備性ピラミッドに沿った段階的な介入と職場への情報提供を実施した.復職支援では健康管理や日常生活の安定化が基盤となるが,病識が低下している事例は問題を認識できていなかった.家族を巻き込んだ3者間の関わりは,客観的な視点を提供し事例の問題認識を高める一助になったと考える.また,復職には職場の理解は必要不可欠である.病状に関する情報提供だけではなく,実際の業務内容に基づいた模擬練習場面の情報提供は,事例の遂行技能を視覚的に確認する機会となり,職場の理解を高めたことで復職につながったと考える.