[PK-6-3] 左半側空間無視を認める脳卒中重度麻痺患者に対する頸部筋と麻痺肢への振動刺激が食事動作の質の向上に寄与した一例
【はじめに】生活行為に密接に関わる身体空間および近位空間の左半側空間無視(以下左USN)は回復に乏しいとされる(Buxbaum, 2004).振動刺激は痙縮抑制のみならず,左USNの改善(Kerkhoff, 2003)や麻痺筋の促通効果(Shirahashi, 2007)などで近年注目を集めているが,食事動作介入に頸部筋と麻痺肢への振動刺激を併用した例は少ない.今回,左USNに対する頸部筋と麻痺肢への振動刺激が食事動作の質の向上に寄与した症例を経験したので報告する.
【症例】60歳代女性.右MCA領域の出血性梗塞で28病日に当院回復期リハビリテーション病棟に入院.45病日目評価は,MMSE22点,高次脳機能は観察上左USN,注意障害を認め,線分二等分線偏倚率(以下偏倚率)60%,Kessler Foundation Neglect Assessment Process(以下KF-NAP)24点,BAAD17点,Straight-ahead pointing(以下SAP)30度,身体機能面はBr,stageⅡ-Ⅱ-Ⅱ,感覚障害は表在深部ともに重度鈍麻で痺れを認めていた.食事環境は視覚刺激制限下(正面にパーテーション,右側壁付け)で食形態はソフト食(スプーン,介護食器)を摂取し,FIM食事は4点,食事時間は28分,食べこぼし3回,注意のそれ8回,特に気づきが乏しい左上の食器へリーチするまでの経過時間は15分であった.
【方法】昼食介入A期:視覚探索を促す介入(左側食器の工夫,献立の確認,左側へ声掛け),B期:A期介入と併せてハンディマッサージャー(THRIVE MD-001)を用いた介入のAB法.介入期間は45~59病日.振動刺激は,兒玉らの報告(2014)を参考に5200回/分の周波数86.67Hzに設定し,左後頸部には10~20分,麻痺肢には肩から手指にかけて適宜刺激を行った.評価項目は,BAAD,KF-NAP合計,KF-NAP食事,KF-NAP食後の片付け,偏倚率,SAP,食事時間,食べこぼし回数,注意がそれた回数,左上の食器への到達時間,麻痺肢への反応,FIM食事,食事動作の主観的満足度(VAS)を用いた.効果判定には,目視法の最小自乗法の回帰直線のあてはめとBarlowのモデルデータ,統計的手法の比率に基づく効果量(以下PND)を用い,丁子・小林による半側空間無視患者に該当した基準 (PND68.75%以上でMedium~Largeの効果あり)を参考にした.尚,本研究は症例の同意および当院臨床研究審査委員会の承認を得ている.
【結果】目視法のBarlowのモデルデータにおいてB期でパターン2(水準で変化)を示したのは, 食べこぼし回数,注意がそれた回数,左上の食器への到達時間,KF-NAP食後の片付け.パターン3(水準・勾配で変化)は,食事時間.パターン5(勾配で変化)は,KF-NAP合計,KF-NAP食事,偏倚率,SAP,主観的満足度であった.PNDにおいては,B期のKF-NAP合計,KF-NAP食後の片付け,注意がそれた回数で100%,食事時間で89%,KF-NAP食事,偏倚率,SAP,食べこぼし回数,左上の食器への到達時間,主観的満足度で78%と効果を認めた.その他項目(BAAD,麻痺肢への反応,FIM食事)においては変化を認めなかった.最終評価59病日目の食事は,FIM食事6点,食事時間13分,食べこぼし0回,注意のそれ1回,左上の食器へのリーチも開始1分で到達可能となり質の向上を認めた.
【考察】頸部筋振動刺激は,USN患者の姿勢定位や空間認知を改善させ(Karim , 2020),また振動刺激による麻痺側への直接的感覚入力は身体図式の再構築を促進する可能性があると述べられている(中島ら, 2019).今回,食事実動作場面において視覚探索を促す介入と併せて振動刺激を併用したことで,左身体および近位空間の認識が向上し,食事動作の効率性向上による質の向上,さらには主観的満足度の向上に寄与したと推察する.
【症例】60歳代女性.右MCA領域の出血性梗塞で28病日に当院回復期リハビリテーション病棟に入院.45病日目評価は,MMSE22点,高次脳機能は観察上左USN,注意障害を認め,線分二等分線偏倚率(以下偏倚率)60%,Kessler Foundation Neglect Assessment Process(以下KF-NAP)24点,BAAD17点,Straight-ahead pointing(以下SAP)30度,身体機能面はBr,stageⅡ-Ⅱ-Ⅱ,感覚障害は表在深部ともに重度鈍麻で痺れを認めていた.食事環境は視覚刺激制限下(正面にパーテーション,右側壁付け)で食形態はソフト食(スプーン,介護食器)を摂取し,FIM食事は4点,食事時間は28分,食べこぼし3回,注意のそれ8回,特に気づきが乏しい左上の食器へリーチするまでの経過時間は15分であった.
【方法】昼食介入A期:視覚探索を促す介入(左側食器の工夫,献立の確認,左側へ声掛け),B期:A期介入と併せてハンディマッサージャー(THRIVE MD-001)を用いた介入のAB法.介入期間は45~59病日.振動刺激は,兒玉らの報告(2014)を参考に5200回/分の周波数86.67Hzに設定し,左後頸部には10~20分,麻痺肢には肩から手指にかけて適宜刺激を行った.評価項目は,BAAD,KF-NAP合計,KF-NAP食事,KF-NAP食後の片付け,偏倚率,SAP,食事時間,食べこぼし回数,注意がそれた回数,左上の食器への到達時間,麻痺肢への反応,FIM食事,食事動作の主観的満足度(VAS)を用いた.効果判定には,目視法の最小自乗法の回帰直線のあてはめとBarlowのモデルデータ,統計的手法の比率に基づく効果量(以下PND)を用い,丁子・小林による半側空間無視患者に該当した基準 (PND68.75%以上でMedium~Largeの効果あり)を参考にした.尚,本研究は症例の同意および当院臨床研究審査委員会の承認を得ている.
【結果】目視法のBarlowのモデルデータにおいてB期でパターン2(水準で変化)を示したのは, 食べこぼし回数,注意がそれた回数,左上の食器への到達時間,KF-NAP食後の片付け.パターン3(水準・勾配で変化)は,食事時間.パターン5(勾配で変化)は,KF-NAP合計,KF-NAP食事,偏倚率,SAP,主観的満足度であった.PNDにおいては,B期のKF-NAP合計,KF-NAP食後の片付け,注意がそれた回数で100%,食事時間で89%,KF-NAP食事,偏倚率,SAP,食べこぼし回数,左上の食器への到達時間,主観的満足度で78%と効果を認めた.その他項目(BAAD,麻痺肢への反応,FIM食事)においては変化を認めなかった.最終評価59病日目の食事は,FIM食事6点,食事時間13分,食べこぼし0回,注意のそれ1回,左上の食器へのリーチも開始1分で到達可能となり質の向上を認めた.
【考察】頸部筋振動刺激は,USN患者の姿勢定位や空間認知を改善させ(Karim , 2020),また振動刺激による麻痺側への直接的感覚入力は身体図式の再構築を促進する可能性があると述べられている(中島ら, 2019).今回,食事実動作場面において視覚探索を促す介入と併せて振動刺激を併用したことで,左身体および近位空間の認識が向上し,食事動作の効率性向上による質の向上,さらには主観的満足度の向上に寄与したと推察する.