第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-6] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)6

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-6-5] プロンプトフェイディング法を用いて移乗動作を獲得した一例

梶 貴博 (医療法人社団淡路平成会 ケアホーム東浦)

【はじめに】当施設で作業療法を実施していく中で認知症者に対してのADLリハビリテーションを実践している.その中でプロンプトフェイディング法を用いて移乗動作を獲得する事ができた一例について,以下に報告する.尚,本症例を発表するにあたり,発表に必要な個人情報を用いる事に関して,本人・家族から同意を得ている.
【症例紹介】当施設入所中のX年Y月Z日アテローム血栓性脳梗塞の診断を受けA病院へ入院.状態安定しX+2年Y-5月Z-1日,当施設へ再入所となる.
【作業療法評価】 Barthel Index 20/100点,改訂長谷川式簡易知能評価スケール 14/30点,Cognitive Test for Severe Dementia 26/30点,課題分析による移乗動作評価 20/30点 (①右ブレーキを締める:0/3点,②左ブレーキを締める:0/3点,⑤浅く腰をかける:2/3点,⑦両手で手摺りを握る:0/3点). Refind ADL Assessment Scale (課題分析による移乗動作評価と併用) ①身体ガイド,②身体ガイド,⑤非言語的手がかり,⑦非言語的手がかり.移乗時観察評価:動作時性急的であり焦燥感あり.介助依存傾向.動作時発言量多い.
【統合と解釈】本症例は一番の問題点として移乗動作時のブレーキ操作未実施が挙げられた.また,言語的プロンプト (文字パネル) を設置したが注意が向かない様子がみられた.石井らは高齢者の移乗動作手順において,文字教示とフェインディングの技法からなる介入を実施し,認知症患者に適切な手順を獲得させる事に成功していると述べている.本症例は訓練時に指示する事でブレーキ操作をはじめとする一連の移乗動作が実施できた.この事から,「知識の問題」及び「動機付けの問題」によって本動作が困難である事が示唆された.山崎らは知識の問題に対し,文字教示とフェインディングによる介入が選択されるべきとし,動機付けの問題に対しては指示従事行動 (コンプライアンス) が得られなくなる危険性が高い為,成功や上達が体感できる無誤学習が介入の基本となると述べている.これらの情報に配慮した上でプロンプトフェイディング法での移乗動作介入を行う事とした.
【介入経過】介入第一期ではブレーキ操作において身体ガイド・指さしを多く用いて介入にあたった.エラーが出現する直前でそれを実施する事により無誤学習を意識して実施した.徐々にエラー動作前の運動の静止を認めた.介入第二期では声掛け・文字パネルの掲示・指さしを併用して介入にあたった.徐々に自発的なブレーキ操作や,気づきを感じさせる発言を認めた.介入第三期では文字パネルの掲示を中止して介入にあたった.それに合わせ徐々に遠位からの見守りへと切り替え介入にあたった.自発的なブレーキ操作が出現し,他の分節動作(⑤浅く腰を掛ける,⑦両手で手摺を握る)においても行える頻度が増えた.しかし,これらの分節動作の実施は3割の頻度であり,基本的に声掛けを要する状態であった.
【結果】課題分析による移乗動作評価 28/30点 (①右ブレーキを締める:3/3点,②左ブレーキを締める:3/3点,⑤浅く腰をかける:2/3点,⑦両手で手摺りを握る:2/3点) . Refind ADL Assessment Scale ①自立,②自立,⑤言語的手がかり,⑦言語的手がかり.移乗時観察評価:動作時性急性軽度残存.介助依存傾向軽減.動作時発言量低下.ブレーキ操作について気づきを感じる発言あり.
【考察】中等度認知症者に対し,プロンプトフェイディング法を用いて移乗動作が改善した報告は幾つか存在し,「知識の問題」,「動機付けの問題」に対しても有用なアプローチであるとされている.本症例に関しても適切な動機付けの定着や動作学習が促された事により,移乗動作の再現性が高まったと考えられる.