第58回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)8

Sun. Nov 10, 2024 9:30 AM - 10:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PK-8-3] マークの掲示と明るさの調整により夜間のトイレ移動率の向上と繰り返し質問が改善した認知症者の一例

月井 直哉1, 藤井 涼2, 新谷 夏海2, 藤生 大我2 (1.社会福祉法人浴風会 認知症介護研究・研修東京センター, 2.医療法人大誠会 介護老人保健施設大誠苑)

【はじめに】認知症の人は,地誌的見当識障害により,トイレを見つけることができず失禁する可能性があり,その対策のひとつとして,マークの掲示がある.今回,マークの掲示と明るさの調整により,夜間におけるトイレまでの移動率が向上し,繰り返し質問が改善したため,ここに報告する.
【症例】症例は92歳の女性.アルツハイマー型とレビー小体型の混合型認知症.主症状は,短期記憶障害や,地誌的見当識障害,病識の低下.認知症高齢者の日常生活自立度はⅢa,障害高齢者の日常生活自立度はA2,改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は8点.移動は独歩自立.夜間頻尿に影響がある内服薬は,アムロジピンとミルタザピンであった. 本人及び職員の困りごととして,夜間に居室からトイレへ移動する際に,トイレの前を通り過ぎることや,別方向に向かうこと,トイレの目の前で「トイレはどこにあるんだい」と繰り返し発言がみられた.居室とトイレの距離は約3mで,居室から前方右斜めの方向に位置している.トイレから居室へ戻る際には誘導することはなかった.
【介入】トイレまで自立した移動を支援するために,マークの掲示と懐中電灯の明るさによる環境調整を行った.マークは,症例が「トイレ」を意味していると理解することができた,標準案内用図記号(JIS Z8210)の「お手洗」を使用し,マークの下には「お手洗い」の文字と懐中電灯を設置した.マークは15㎝×15㎝の大きさとし,居室から見える位置とし,本人の目線の高さに合わせて設置した.症例が居室から移動をした際には職員が遠位見守りをし,トイレの前を通り過ぎた場合には職員が症例に声をかけ,トイレへの誘導を行った.観察期間は2022年9月16日から22日,介入期間は23日から29日とした.
【評価】症例が夜間,トイレまで自立した移動ができた割合と認知症の行動・心理症状質問票(BPSD+Q)の繰り返し質問(忘れて同じことを何度も尋ねる)を評価した.夜間,トイレまで自立した移動ができた割合(移動率)の算出は「1週間あたりの夜間,トイレまで自立した移動ができた総回数」を「1週間あたりの夜間,トイレへ移動した総回数」で除した.なお,夜間とは20時から5時の間とし,移動の様子は居室に設置しているペイシェントウォッチャー(アルコ・イーエックス社)にて起き上がり時の通知音で職員が居室付近に移動し,遠位見守りを行った.評価方法は介入前後で統一した.繰り返し質問は,同一の介護職員1名がBPSD+Qを用い,過去1週間の重症度と負担度を0から5点で評価した.
【結果】移動率は,46.7%(14/30回)から59.5%(25/42回)に増加した.BPSD+Qの繰り返し質問は,重症度が3点(対応したケアが可能だが毎日ある)から0点(症状なし),負担度が3点(中等度の負担)から0点(全くなし)に低下した.
【考察】マークの掲示と明るさの環境調整により,移動率は12.8%向上し,繰り返し質問の症状は改善した.マークの掲示と明るさの調整は工事を伴わず,安価で簡易的に取り組みができることに加え,マークや文字は中重度のアルツハイマー型認知症においても理解できる可能性があること(月井,2022)から,環境調整として推奨できると考えた.
【倫理的配慮】症例と家族には,発表に関する説明を文書及び口頭で行い,家族から書面にて同意を得た.また,本発表の内容は,日本老年医学会雑誌 2024年61巻1号にて掲載された.