第58回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)8

Sun. Nov 10, 2024 9:30 AM - 10:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PK-8-5] ぬいぐるみの表情による反応の違い

重度認知症患者への関り

梨和 直登1, 岡崎 汐里1, 山本 優生1, 乗松 学1, 杉江 拓也2 (1.医療法人 仁康会 小泉病院 診療部 作業療法科, 2.医療法人 仁康会 小泉病院 院長)

【はじめに】
 認知症の高齢者を対象とした作業療法プログラムで,ぬいぐるみが登場すると注意を集めやすくなることが多い.また,感情表出が乏しい方が微笑むことや,不機嫌だった方が優しい声をかける場面も見られる.美和千尋ら(2016)によると,認知症患者に対するドールセラピーは「感情の表出」「コミュニケーションの向上」「不安軽減」に有効であったと報告されている.今回,ぬいぐるみの表情によって認知症高齢者の反応にどのような違いがあるか調査,考察した.
【対象者】
 2023年8月1日〜8月31日の期間に,認知症治療病棟,身体合併症病棟入院中の認知症患者95名のうち,指示理解が困難な症例を除外した,長谷川式簡易知能評価スケール10点以下の重度認知症患者36名を対象とした.本研究は対象者と家族に対する十分な説明,同意の下,実施した.
【方法】
 表情の違うクマのぬいぐるみ(笑う・怒る・泣く)を3体準備し,1体ずつ見せて「どんな表情をしている?」と質問し,返事がなければ「笑ってる?怒ってる?泣いてる?」と選択肢で確認をした.その後,ぬいぐるみを3体同時に見せ,一番好きなぬいぐるみを選択してもらい,理由を確認した.
【結果】
 46%の重度認知症患者がぬいぐるみの表情を理解できていた.
 好きなぬいぐるみの選択では,笑っているぬいぐるみを選んだ患者が50%と多かった.
 笑っているぬいぐるみを選んだ理由として,「可愛い」「優しそう」「笑っている」「表情が豊か」「近くにいると悪い気持ちにならない」「いなくなると寂しい」と発言があった.怒っているぬいぐるみを選んだ理由として,「面白い顔をしている」「一緒に何かしてあげたい」「相手にされなくて腹が立っている,優しい顔になればいい」「眉毛が下がるまで構ってあげたい」と発言があった.泣いているぬいぐるみを選んだ理由として,「友達のぬいぐるみを作ってあげる」「私の寝間に入っておいで」と発言があった.
 ぬいぐるみへの行動は,あやす,歌を歌う,キスをする,布団に寝かせる,くすぐる,払いのける動作が見られた.ぬいぐるみに興味を示さない患者は全てのぬいぐるみに対して無反応であった.
【考察】
 重度認知症患者がぬいぐるみの表情を正しく識別することは難しかったが,多くの患者がぬいぐるみの目元や口元に注目しており,表情を判断する基準は保たれていると考えられる.
 ぬいぐるみへの反応は表情に左右されず,可愛がろうとするポジティブな動作が多く見られた.これは,ぬいぐるみの表情よりも,かわいらしさ,柔らかさ,母性の引き出し等のぬいぐるみの特性が効果的であったと考える.ぬいぐるみの選択では,笑っているぬいぐるみを選ぶ患者が多かった.米重友紀子ら(2019)はアルツハイマー型認知症の表情認知機能では喜びが保たれていたと報告しており,ぬいぐるみの表情に関しても笑顔が認識しやすかった事や,笑っているぬいぐるみに対してなじみがあった事が原因と考える.一方で,泣いている・怒っている表情のぬいぐるみを選んだ患者は,多くの発言や行動等の反応があり,ぬいぐるみに対して患者自身の役割を持って選んでいた.
 ぬいぐるみに対して無反応であったり,ネガティブな反応を示す方もいた.これは,ぬいぐるみに対しての恐怖心や関心の無さ,ぬいぐるみを認識していなかった事が原因と考えられる.そのため,ぬいぐるみを用いた関わりは感情の表出やコミュニケーションの向上,不安軽減に有効だが全ての認知症患者に適しているとは限らないため,多様な関わり方を検討していく必要がある.