第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

援助機器

[PL-3] ポスター:援助機器 3

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PL-3-1] 楽に食べきれるための自助具箸の工夫

一木 愛子1,2, 松田 健太2 (1.神奈川県総合リハビリテーションセンター 作業療法科, 2.神奈川県総合リハビリテーションセンター 研究部)

【はじめに】
上肢機能に障害がある場合は通常の箸を使用することは難しく,自助具箸の使用を検討する.市販のもので使用可能であればそのまま導入するが,導入後操作時の過剰な握りこみにより,上肢の過剰な筋緊張亢進が確認され,箸を上手く操作できていないことがある.そのため箸操作に問題が生じ,食事中疲労を感じる方は少なくない.今回自助具箸(有限会社ウインド社製の箸ぞうくんⅡ,クリア)に装着可能な部品を,破損時の再作製時にも再現可能となるように3Dプリンタで作製し,その部品と導入結果について報告する.なお発表に際し,書面により本人家族の承諾は得ており,利益相反も無い.
【自助具箸の特徴と導入時評価】
 この箸は,使用時の手の動きである①保持②動かす③コントロールを援助するように考えられている.指を少し動かすことができれば,軽い力で箸先がクロスせずに摘むことができる.今回の対象は失調症状を伴う脳血管障害者A と上肢の痛みや疲労感を伴う側弯症を呈する空洞症患者B の2名である.それぞれ導入評価時にみられた問題は以下のとおりであった.対象者Aは箸の保持の際に強く握ってしまい,対象物を摘みに行く際や口に運ぶ際に失調が出現し,上肢全体に過剰に力が入ってしまっていた.そのため利き手である右手での食事を断念し,左手での食事に変更し,器は持てずに体幹を前屈しながら行っていた.対象者Bは箸の保持や開閉時に対象を把持しようとすると手指に力が入り,箸の開閉時には手関節の自由度が損なわれ,その後上肢全体の筋緊張が亢進し,痛みや体幹の側屈が出現していた.それにより両者ともに食事に時間がかかり,疲労感が出現していた.
【作製方法と結果】
今までワイヤーで作製したアーチ部品とそれに付着したスポンジの握りを基に,リハエンジニアとイメージを共有し,耐久性に優れた構造で,装着位置が再現しやすく容易に装着できるシンプルな形状を検討した.その後リハエンジニアが3DCADで設計し,3DプリンタにてABS素材で試作した.部品は,手指の動きが出やすい肢位となる手掌の機能的なアーチの確保と尺側の安定性を促すために,全長10cmのアーチ部品と縦4cmで横2.5cmの卵型の握り部品の2つとした.アーチ部品の固定はグリップの根元に,握り部品はアーチ部品にそれぞれはめ込む構造とした.握り部品の装着位置は,対象者の手指の対立肢位を観察し,手のアーチに合わせて適合した.その後,実際の場面での評価を重ね導入を決定した.導入した結果,対象者Aでは食事での失調症状が軽減し,右手での食事が可能となり,左手で器を把持しながら体幹を前屈することなく,箸を口に運び,食べられるようになった.対象者Bでは上肢の筋緊張や箸操作時の体幹の側屈が軽減し,中断せずに終えることができるようになった.加えて両者ともに食事場面での疲労が減少した.
【まとめ】
自助具箸の導入に当たり,つまむことや口に運び食べることができるだけが選定の視点ではなく,どのように使用しているか,生涯楽に食べ続けることができるかについても自助具を選定するためには重要な視点であると考える.今回作製した部品は,市販の自助具箸をそのままの状態で使用できない対象者が,箸での食事を実現するための一助になるのではないかと感じている.今回のように,装着する対象物に合せて接続部を固定性のあるものに仕上げるためには,3Dプリンタの使用は非常に有用である.また当院の手部にフィットするカスタムメイドの自助具づくりでは,まず新規で作製する際には身近な素材で試作機を作製し,それを基に3DCADでデータ化することは再作製時の再現性,汎用性に有用であると考える.