第58回日本作業療法学会

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ポスター

援助機器

[PL-3] ポスター:援助機器 3

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PL-3-3] 就学前に重度障害者用意思伝達装置を導入できた脊髄性筋萎縮症Ⅰ型児

勝原 勇希1,2 (1.森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部作業療法学科, 2.神戸医療福祉センターにこにこハウス)

【はじめに】重度障害者用意思伝達装置(以下,意思伝達装置)の支給は,機器操作の可否だけではなく,自治体により6歳以上であることや50音での文字入力が求められる.脊髄性筋萎縮症Ⅰ型(以下,SMAⅠ型)は,一般的に知的機能の遅れがないとされているため,意思伝達装置の導入によるコミュニケーション手段の獲得が期待されるが,就学前に導入へ至った報告は多くない.
【目的】意思伝達装置の導入に至ったSMAⅠ型児の経過を考察することで,導入に必要な支援を示すことである.なお,本報告に際し母親に説明を行い,書面で同意を得た.
【事例紹介】3歳10か月女児.SMAⅠ型.生後4か月で運動発達の遅れ,5か月で四肢筋力低下を認め,SMAと診断された.9か月で気管切開,胃瘻増設し,24時間人工呼吸器を利用. 1歳9か月でヌシネルセン開始.頸部が安定し,上肢の運動も向上した.当施設では,3歳10か月から外来作業療法(以下,外来OT)を開始.
【評価】遠城寺式乳幼児分析的発達検査(3歳9か月時点)は,移動運動1ヶ月,手の運動1ヶ月,基本的習慣3ヶ月,対人関係8ヶ月,発語6ヶ月,言語理解16ヶ月.自宅ではベッド左右半側臥位で過ごし,外出時はバギーを使用.左右上肢機能は,左右ともに不十分ながら手指の握り離しが可能.前腕はわずかに回内外や肘関節屈曲が可能.簡単な質問に対して発声や表情でYes/Noの応答は可能だが,ひらがなの理解は困難であった.
【経過・結果】外来OTは,主にバギー坐位で実施.自宅では,左右側臥位で過ごすことが多いため,左右側臥位での機器やスイッチの適合も実施.介入期間は2回/月(施設都合による未介入期間あり).
第Ⅰ期:視線入力で,ゲームや動画の視聴操作.自宅での設定および操作も可能と判断し,自費でPC,アイトラッカー,PCスタンドを購入した.自宅で知育アプリにも取り組めたが,継続的な実施には至らなかった.
第Ⅱ期:スイッチで,電動玩具や電動移動機器の使用. スイッチは,自作のものを左右母指の外転で操作.OTは,口頭指示と母指に対して徒手的な動作誘導で関わり,徐々に動作誘導を減らした.玩具を貸し出し,自宅でも実施できるように支援した.
第Ⅲ期:iPadのスイッチコントロールで,アプリ操作. アプリは,写真加工アプリなど直感的で,児が興味を持ちやすいものから開始し,LINEのスタンプや文字入力へと段階づけた.スイッチ適合の簡略化のためにハーフスイッチ(アクセスエール社製)を導入した.OTは,第Ⅱ期と同様に段階づけて関わった.友人家族へ協力を依頼し,LINEを使用できる環境を設定した.
第Ⅳ期:意思伝達装置の導入.ファインチャット(アクセスエール社製)のデモを行い,名前や児に馴染みのある単語の入力練習を行った.スイッチを取り付けられる手関節装具を作製し,設定を簡略化した.OTは,第Ⅱ・Ⅲ期と同様に段階づけて関わった.未就学児へのファインチャットの導入は前例がないため,OTは事前に市へ情報提供を行い,判定にも同席した.6歳11か月で意思伝達装置が支給された.導入時点では,50音で自分の名前の入力や馴染みのある単語の入力可能となった.
【考察】意思伝達装置の導入には,スイッチの適合や機器の選定,機器が操作できることが求められる.本事例は,意思伝達装置の早期の導入ではなく,段階的にスイッチ操作による因果関係の理解促進を行ったこと,徒手的な動作誘導による関わりを行ったこと,日常的に機器を使用できるようにスイッチ適合の簡略化や環境調整を行ったことが有効であった.さらに,適切なタイミングで意思伝達装置のデモを行い,市に必要性を示すことできたことで就学前の導入に繋がった.今後は,自宅や学校で活用できるよう支援を継続する必要がある.