第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-1] ポスター:MTDLP 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PM-1-2] 復学と修学旅行への参加を目指した事例

坂田 尚昭 (一般社団法人巨樹の会 新上三川病院)

【はじめに】
術後に右不全麻痺を呈した高校2年生の復学に向け,生活行為向上マネジメントを用いた.入院当初は病識が乏しく,受動的な精神志向であった症例に対して,具体的かつ主体性を重視した関わりを行うことで,復学するための課題を認識し,自発的な行動が取れるようになった.報告にあたり対象者・家族に説明を行い,同意を得た.開示すべき利益相反は無い.
【症例紹介】
高校2年生.趣味はTVゲーム,パズル,プラモデル
12歳頃よりてんかん発作があり,左側頭葉てんかんと診断され薬物療法を開始.15歳頃より発作の回数が増え,意識消失がみられるようになる.左海馬の硬化像を指摘され,受験後に選択的扁桃体海馬切除術を施行し,術後脳出血により右上下肢の不全麻痺と高次脳機能障害を合併した.発症から32病日後に当院転院となる.
【作業療法評価】
1.面接)対人緊張が強く,運動性失語も認めたため,作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を用いた.症例の希望は修学旅行への参加,友人と外出することであった.通学にはバスと電車を利用し片道1時間かかること,教室に行くためには階段昇降が必要であること,学校のトイレは和式であることを確認し,①通学ができる歩行能力②手摺りを使わずに階段昇降ができる③書字ができる④電車・バスの利用ができる⑤自転車操作の5つを合意目標とした.
2.心身機能)MMSE21点,BRS Ⅳ-Ⅳ-Ⅴ,STEF(R/L) 34/82,握力(R/L)7kg/28kg,BBS13点,10MWT実施不可,TMT,RBMT実施不可
【経過】
介入初期の書字は筆圧が弱く,書字速度も遅いため実用性が乏しい状態であった.また,上手く書けないため途中で中断することが頻回であり,消極的な姿勢がみられた.書字以外の生活場面でも右手を使用する頻度が低かったため機能訓練と併行してプラモデル作製,ゲームなどの趣味活動を取り入れ,右手の使用機会を求めた.入院2ヵ月後には院内移動が独歩自立,3ヶ月後には入浴と階段が自立となり,外泊と試験登校を行った.試験登校に同行した際には校内での動作確認,担当教員との情報共有を図り円滑に復学できるよう努めた.4ヶ月目より自宅-駅間の自転車での移動を想定し,院内敷地内での自転車走行や市街地歩行の評価を実施.退院時には連続1kmの歩行が可能となり,『今度は走れるようになりたい』と前向きな目標もきかれた.書字においては,以前のように速く書くことは難しいが,板書がとれるまで改善した. 退院後は修学旅行にも参加でき,将来の進路として医療職に興味を持ち,就業学習として当院を訪れ元気な姿を見せてくれた.
MMSE29点,BRS Ⅵ-Ⅵ-Ⅵ,STEF(R/L) 81/93,握力(R/L)21kg/30kg,BBS56点,10MWT 6.5秒
TMT(A/B) 2分16秒/2分42秒,RBMT SPS19/24 SS9/12
【考察】
機能面では上肢機能の改善という目標があったが,背景にある復学という目標を本人と共有しながら作業療法を展開することが重要と考えた.画像所見及び初期評価より,機能改善の期待が持てたため症例が意欲的に取り組める作業を手段的に活用し,上肢機能の回復を目指した.学校生活への円滑な移行に向けて担当教員や家族と退院後の支援方法について共有できたことも目標達成の一因となったと考える.重要なことは,身体機能やADLの改善のみではなく,今後の生活に対して前向きな精神志向に変化していくことを支援することであった.入院中から公共交通機関の利用訓練や試験登校,自転車操作などの実動作の機会が自信の回復に繋がったと思われた.