[PM-2-2] その人らしく生活できるために生活行為向上マネジメントを用いた関わり
重度脳卒中片麻痺者の役割獲得を目指して
【はじめに】
回復期リハビリテーション病棟(回リハ病棟)では対象者の退院後の生活および役割を視野に入れた介入が重要である(櫻井, 2019).しかし,重度の障害が残っている場合,退院後の生活を想像することが困難な方は多い.今回,自宅退院を控えた重度脳卒中患者を担当した.症例・主介護者の長男ともに退院後の生活を想像することが難しかったため,生活行為向上マネジメントを導入した.その結果,合意目標として設定したケーキ作りを達成し,機能回復を一部認めたため,以下に報告する.尚,本発表は症例・長男に署名での同意と,倫理委員会の承認を得ている(TRC202308).
【対象】
脳出血(右視床・被殻・放線冠)後の意識障害と重度左片麻痺を呈した70歳代前半の女性.病前は長男と2人暮らし.第33病日後,回リハ病棟へ転棟し,作業療法,理学療法,言語療法を各3単位施行.第126病日後,日常生活動作中等度介助レベルとなり,1ヵ月後に自宅退院予定となったが,依然覚醒・活動量は低く,症例・長男ともに退院後どのような生活を営むか想像できていなかった.そこで,生活行為向上マネジメントを導入したところ,希望として「病前作っていたケーキを息子に食べさせたい」と聞かれ,長男からも「もう一度母の食事を食べたい」と発言があった.第127病日後の評価は,Functional Independence Measure(FIM)43点,Japan coma scale(JCS)Ⅱ-10,Brunnstrom recovery stage(BRS)上肢Ⅱ-手指Ⅰ-下肢Ⅱ,表在固有感覚重度鈍麻,線分二等分線右へ9㎝変位していた.合意目標は「病棟内にて作業療法士の介助下でケーキを作れる」とし実行度1,満足度1であった.
【介入】
合意目標に対する基本的プログラムは,必要材料と工程の書き出し,車椅子座位での調理工程の確認を行った.次に応用的プログラムとして,自助具を用いて調理を段階的に実施した.まず,工程に合わせて必要な材料を選ぶ,正中位で対象物を混ぜる・つぶす・切る・予熱時間を計算して行動しケーキを作成した.その際,症例には主体的に行ってもらうことを心がけ介助は最低限とし,適宜正のフィードバックを与え成功体験を積み重ねられるように意識した.社会適応プログラムは,長男へケーキ作りのために必要な介助や自助具,環境調整について伝達し,同様の内容をケアマネージャーにも申し送った.
【結果】
第140病日後,合意目標は達成され実行度7,満足度10と向上した.ケーキ完成時には「これなら息子と一緒に作れる」と意欲的な発言が聞かれ,長男は「こんなこともできるんですね」と涙を流された.調理時は,笑顔が多く見られ,覚醒レベルは向上し姿勢も正中位で維持できていた.また, 調理実施を契機に車椅子離床に対する意欲の向上や正中位を意識した姿勢の保持,排泄動作介助量軽減を認め, FIM49点,JCSⅠ-1,線分二等分線右4㎝変位と改善した.
【考察】
今回,重度脳卒中患者に対する意味のある作業の獲得に至った.回リハ病棟では,作業療法士が日々介入できるため,適宜対象者に合わせた関わりが柔軟に行える利点がある.そのため重症者ほど回リハ病棟入院中から退院後の生活を見据えた介入が重要と思われる.また,意味のある作業での成功体験は身体機能,セルフケアといった能力が向上する(小檜山,2013).症例の希望するケーキ作りを実施し成功体験を積み重ねた事で,先行研究と同様に能力向上が図れたと推察する.しかし,現状病棟での調理に留まっているため,退院後に長男と円滑なケーキ作りが行え役割の再獲得に至るよう,ケアマネージャーや訪問リハビリテーションへの申し送りを今後行っていく予定である.
回復期リハビリテーション病棟(回リハ病棟)では対象者の退院後の生活および役割を視野に入れた介入が重要である(櫻井, 2019).しかし,重度の障害が残っている場合,退院後の生活を想像することが困難な方は多い.今回,自宅退院を控えた重度脳卒中患者を担当した.症例・主介護者の長男ともに退院後の生活を想像することが難しかったため,生活行為向上マネジメントを導入した.その結果,合意目標として設定したケーキ作りを達成し,機能回復を一部認めたため,以下に報告する.尚,本発表は症例・長男に署名での同意と,倫理委員会の承認を得ている(TRC202308).
【対象】
脳出血(右視床・被殻・放線冠)後の意識障害と重度左片麻痺を呈した70歳代前半の女性.病前は長男と2人暮らし.第33病日後,回リハ病棟へ転棟し,作業療法,理学療法,言語療法を各3単位施行.第126病日後,日常生活動作中等度介助レベルとなり,1ヵ月後に自宅退院予定となったが,依然覚醒・活動量は低く,症例・長男ともに退院後どのような生活を営むか想像できていなかった.そこで,生活行為向上マネジメントを導入したところ,希望として「病前作っていたケーキを息子に食べさせたい」と聞かれ,長男からも「もう一度母の食事を食べたい」と発言があった.第127病日後の評価は,Functional Independence Measure(FIM)43点,Japan coma scale(JCS)Ⅱ-10,Brunnstrom recovery stage(BRS)上肢Ⅱ-手指Ⅰ-下肢Ⅱ,表在固有感覚重度鈍麻,線分二等分線右へ9㎝変位していた.合意目標は「病棟内にて作業療法士の介助下でケーキを作れる」とし実行度1,満足度1であった.
【介入】
合意目標に対する基本的プログラムは,必要材料と工程の書き出し,車椅子座位での調理工程の確認を行った.次に応用的プログラムとして,自助具を用いて調理を段階的に実施した.まず,工程に合わせて必要な材料を選ぶ,正中位で対象物を混ぜる・つぶす・切る・予熱時間を計算して行動しケーキを作成した.その際,症例には主体的に行ってもらうことを心がけ介助は最低限とし,適宜正のフィードバックを与え成功体験を積み重ねられるように意識した.社会適応プログラムは,長男へケーキ作りのために必要な介助や自助具,環境調整について伝達し,同様の内容をケアマネージャーにも申し送った.
【結果】
第140病日後,合意目標は達成され実行度7,満足度10と向上した.ケーキ完成時には「これなら息子と一緒に作れる」と意欲的な発言が聞かれ,長男は「こんなこともできるんですね」と涙を流された.調理時は,笑顔が多く見られ,覚醒レベルは向上し姿勢も正中位で維持できていた.また, 調理実施を契機に車椅子離床に対する意欲の向上や正中位を意識した姿勢の保持,排泄動作介助量軽減を認め, FIM49点,JCSⅠ-1,線分二等分線右4㎝変位と改善した.
【考察】
今回,重度脳卒中患者に対する意味のある作業の獲得に至った.回リハ病棟では,作業療法士が日々介入できるため,適宜対象者に合わせた関わりが柔軟に行える利点がある.そのため重症者ほど回リハ病棟入院中から退院後の生活を見据えた介入が重要と思われる.また,意味のある作業での成功体験は身体機能,セルフケアといった能力が向上する(小檜山,2013).症例の希望するケーキ作りを実施し成功体験を積み重ねた事で,先行研究と同様に能力向上が図れたと推察する.しかし,現状病棟での調理に留まっているため,退院後に長男と円滑なケーキ作りが行え役割の再獲得に至るよう,ケアマネージャーや訪問リハビリテーションへの申し送りを今後行っていく予定である.