第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

MTDLP

[PM-3] ポスター:MTDLP 3

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PM-3-2] 生活行為向上マネジメントにエンディングノートを併用した急性期脳卒中患者の一例

武谷 秀一, 竹本 朋子, 髙岩 亜輝子, 木下 洋平, 峰岡 貴代美 (社会医療法人 青洲会 福岡青洲会病院 リハビリテーション部)

【序論】生活行為向上マネジメント(以下MTDLP)は,患者が「したいこと」や「する必要があること」「することが期待されている生活行為」に焦点を当て,セラビストと目標を共有し,患者が自分の回復に積極的に関与するマネージメントツールである.また,エンディングノートは自死に備えて医療や介護,遺言相続,葬儀,埋葬地など自分のエンディングに向けた希望を一冊にまとめて家族や周囲に伝えるノートである.急性期における脳卒中患者は突然の発症により急激に変化した身体機能や認知機能の低下を把握し受容することは困難である.今回MTDLPにエンディングノートを併用した.患者自身が目標を見出し,選択することで,セラピストと目標を合意形成し,実施した症例について報告する.
【症例紹介】症例は80歳代,男性,右利き.入院前の生活では,日常生活動作は自立.住居は2階に居住し1階は息子の仕事場であった.症例が自宅ドアの開け方が分からないと息子に連絡し,駆け付けると時計の位置がわからないなど,様子がおかしいため救急搬送となった.頭部MRI所見で右側頭葉から頭頂葉,後頭葉に心原性脳塞栓症を認めた.神経学的所見では明らかな神経脱落症状を認めなかった.神経心理学的所見は左半側空間無視,注意障害を認めた.
【作業療法評価】発症3病日から5病日に高次脳機能評価を行った.BIT行動性無視検査では,通常検査:63点,行動検査:43点であった.HDS-Rは18点,FIM総得点は42点で内訳は運動25点,認知17点であった.
【介入方法】1病日よりリハを開始し,合意目標は「グランドゴルフの参加」とした.グランドゴルフ会場までの移動は左半側空間無視があるため家族の協力が必要であった.しかし,家族関係は息子家族と不仲であることがわかり,家族の協力でグランドゴルフに行く目標は棄却された.そこで今後の人生における希望を整理してもらうためにエンディングノートを導入した.今後の希望欄では「家族ともう一度やり直したい」と発言があり,合意目標を家族関係の修復,具体目標は「家族に手紙を書くこと」とした.MTDLPの初期実行度は5/10,満足度は2/10であり,訓練は書字練習をした.家族への手紙は14病日に書き上げることができ,翌日の退院日には家族へ渡すことができた.MTDLPは最終実行度8/10,満足度8/10となり,転院先へ申し送りを行った.
【考察】今回MTDLPにエンディングノートを活用することにより現実的かつ将来的な目標を設定することができた.エンディングノートの作成では自分のこれまでの人生を思い出しながら振り返り,現在の状況を冷静に見つめる作業がある.その中には病気やいずれ迎える死に対して向き合い,考える機会がある.エンディングノートは病気に対して心を落ち着かせる効果があり(本田 桂子 ,2013年),急性期脳卒中患者が障害と共存する人生を思慮する過程に活用することができる.本症例はMTDLPにエンディングノートを加えることで人生を見つめ直し,患者自身の選択で家族への和解を望むことができ,合意目標のもとでリハを実施することができた.患者にとって意味のある作業を選択するためには,患者が「したいこと」や「する必要があること」「することが期待されている行為」をエンティングノートで思いを整理し,MTDLPを用いることで具体的に実施することができた.急性期にMTDLPにエンディングノートを併用する事は自分の人生を最期まで自分らしく生きていくための一助になると考えられた.
尚,本研究は,対象者及び家族から同意を得ており,当院倫理委員会の承認を得ている.