第58回日本作業療法学会

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[PN-2] ポスター:地域 2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-2-3] 地方在住シニア女性における化粧習慣の有無による心身・生活機能の比較

河口 向日葵, 吉瀬 陽, 宮田 浩紀, 松尾 崇史 (熊本保健科学大学大学院 保健科学研究科保健科学専攻リハビリテーション領域)

【緒言】シニア女性の化粧行動に関連する先行研究において,うつや認知症などの情動に良好な変化を与えたとする報告(浜ら.,1993)や認知機能に一定の効果を示すとした報告がある(八田ら,2007).さらに石橋ら(2013)は,女性にとっての化粧は社会参加に至る重要な作業活動の一つであると報告している.しかし,結婚や出産・育児,加齢に伴い化粧頻度は減少していく傾向が多く観察され,特に農村地域などの地方部になるとその傾向は多く観察される.さらに,地方部では若い頃から農作業に勤しみ,化粧の習慣が全く無いというシニア女性も含まれるため,一様に化粧習慣の有無のみで身体・認知・心理機能等を比較はできないことも考えられる.したがって各地域における文化や特性を考慮した調査研究の必要性は高い.そこで本研究では,地方在住の化粧習慣のあるシニア女性を対象に,化粧習慣の継続性の有無が,心身機能や生活機能等に影響を与えるか否か調査したため以下に報告する.
【対象と方法】本研究に関連する倫理的手続きについて,所属する研究機関の倫理審査委員会の承認を得て実施している(承認番号:23032).対象はA市在住の65歳以上の地域在住シニア女性(平均年齢79.2±6.0歳)のうち,本研究に同意の得られた36名である.このうち,化粧習慣が生涯を通してほとんど無いという参加者を除いた,33名を分析対象とした.調査した内容は,身体機能評価として握力,Timed up&Go Test(TUG),生活能力面の評価としてJST版活動能力指標,認知機能検査としてMini-Mental State Examination (MMSE),日本語版Short-from UCLA孤独感尺度10項目,年齢や化粧頻度や過去の化粧頻度をアンケート形式にて調査した.分析対象のうちアンケート調査において「65歳以前と比べて化粧習慣の維持ができている群(習慣有群)」と「65歳以前に比べて化粧習慣が減った(減少群)」の2群に分け,それぞれの評価結果をマンホイットニーのU検定にて比較した.統計処理はSPSS vol.28を用い,有意水準は5%である.
【結果】それぞれの2群間の比較の結果,身体機能の評価では握力で習慣有群が21.23±2.65kg,減少群が17.96±4.54㎏で,習慣有群が有意に高値を示し,TUGにおいては,習慣有群が7.21±1.74sec,減少群が9.93±3.18secであり,有意に習慣有群が低値であった(p=0.003).また興味深い結果として日本語版Short-from UCLA孤独感尺度で減少群(19.73±5.39)よりも習慣有群(15.09±4.44)が有意に低値を示した(p=0.017).
【考察】本研究結果から,地方在住のシニア女性における化粧習慣の継続性の有無は,維持できていない(65歳以前より頻度減)のシニア女性よりも,維持しているシニア女性の方が,筋力やバランス能力が高く,さらに心理面として孤独感が低いということがわかった.これは,これまで実施されてきた先行研究と同様,地方在住のシニア女性においても,化粧が心身機能やセルフケア能力を向上させる可能性がある.また孤独感が化粧習慣の持続性が高い習慣有群で低値を示した点について,大坊(2002)は,高齢女性の化粧は自己評価を高め,現在の生活における活動範囲の拡大,希薄化していた他者への関心の回復とそれに伴うコミュニケーションの活性を高める働きがあると述べている.つまり,社会習慣における買い物や地域活動への参加など外出に伴う1つの作業プロセスとなっていることが要因であると考えられ,化粧習慣がある人ほど活動範囲や他者への関心等が高く孤独感も低い可能性がある.したがって,今後は外出頻度等の社会参加状況も含め検証する必要がある.