第58回日本作業療法学会

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[PN-2] ポスター:地域 2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-2-8] 介護予防事業が認知機能へ及ぼす影響

長期間フォローアップにおける認知機能の変化

半谷 智辰, 遠藤 達矢, 白土 修 (福島県立医科大学会津医療センター 整形外科・脊椎外科学講座)

【はじめに】
現在,世界では5500万人以上が認知症と診断され,毎年1000万人近くが新たに認知症を発症している.認知機能に対し,有酸素運動やレジスタンス運動,複合運動の効果を検討した報告では,有酸素運動が認知機能の改善に有効であるとされている.また,身体活動や1回の運動時間の長さが認知症発症リスクの低下や認知機能の改善に影響し,エクササイズは認知機能へ一定の効果があるとされている.しかし,長期間の介護予防事業の介入で認知機能の下位項目に焦点を当てた報告は少ない.
【目的】
本研究の目的は,エクサイズを中心とした介護予防事業に参加した高齢者の認知機能の経年的変化を明らかにすること.
【方法】
対象は2017年9月〜2022年6月の期間,介護予防事業に参加した高齢者28名とした.認知機能の評価はMoCA-Jを用い,総得点及び下位項目である視空間,命名,注意,言語,抽象概念,遅延再生,見当識を介入前,1年後と2年後に評価した.介護予防事業は毎週1回1時間程度のセッションで,柔軟性及び筋力向上を目的とした運動や有酸素運動,認知機能向上を目的としたコグニサイズなどを行った.統計的解析は介入前と介入後1年及び2年の比較をFriedman検定と多重比較法(Wilcoxon検定をHolmの方法で修正)を用いて検討した.有意水準は5%とした.
本研究に関して,倫理委員会の承認を得て,対象者には研究内容を十分な説明をした上で行った.
【結果】
最終評価が可能であった女性21名(76.38±7.10歳)を分析対象とした.Friedman検定の結果,MoCA-Jに関して総得点,下位項目では注意,遅延再生で有意差を認めた.多重比較の結果,総得点の介入前(25±3.24)と1年後(27±1.91)および介入前と2年後(28±2.05)で有意差を認め,注意でも同様に介入前(5±1.34)と1年後(6±0.79)および介入前と2年後(6±0.55)で有意差を認めた.遅延再生では介入前(2±1.62)と2年後(4±1.15)で有意差を認めた.
【考察】
本研究の結果,介護予防事業に関する運動療法は認知機能向上へ期待できる結果であった.これまでの運動療法の報告では軽度認知障害者の24〜48%が正常の認知機能に回復したしたとする報告や,地域在住高齢者を対象とした4年間の縦断研究においてMCI者の約20〜60%が正常な認知機能に回復することが報告されており,運動療法が認知機能に対して一定の効果があるとされている.また,軽度認知障害者の認知機能,遂行機能,注意,遅延再生に対して改善したと報告されているが,本研究においてもこれらの先行研究を支持する結果であった.それに加え,本研究では認知機能に関して週1回の介入でも十分な改善を示すことが出来た.これまでの運動による認知機能への効果機序として,ミトコンドリアでのエネルギー生成,endoplasmic reticulum蛋白生成に至り,神経新生や血管新生,神経可塑性の影響が報告されているが,注意や遅延再生に関してもこのような機序で効果があったと考えられる.
認知機能低下に対する防御因子として運動や認知トレーニングが推奨されているが,今回の介護予防事業での有酸素運動やコグニサイズなどが認知機能向上へ至った要因と考えられる.これらより介護予防事業では認知機能が低下した対象者を早期に発見し,適切な介入をすることが認知症予防の対策となる可能性が示唆された.