第58回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-3] ポスター:地域 3 

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-3-1] 高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施における作業療法士の役割について

活動報告と考察

長田 啓, 原田 伸吾 (株式会社 つむぎ)

【はじめに】
 令和2年4月から全国において後期高齢者医療広域連合と市町村が協力して後期高齢者の健康維持・フレイル予防に努める新たな制度として高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施(以下一体的実施事業)が開始された.弊社では,令和4年9月から鳥取市より委託を受け,一体的実施事業における身体的ハイリスクアプローチに参画している.今回,ハイリスクアプローチの活動実績を報告すると共に他職種と協働する中で見えてきた作業療法士(以下OT)の役割について考察したため以下に報告する.
【事業の概要】
 鳥取市では一体的実施国保データベース活用支援ツールの初期設定条件かつBMI18.5未満orBMI30以上の者を身体的ハイリスクアプローチ対象者とし,保健所所属の看護師と弊社所属の作業療法士の2名による複数職種で対象者宅に訪問している.
【方法】
 対象者は,28名で平均84.3±5.3歳,男女比は5:23であった.身体的ハイリスクアプローチ対象者に対して訪問前に事前通知と後期高齢者質問票,1日のスケジュール表を郵送.その後看護師とOTで訪問.訪問時には後期高齢者質問票と1日スケジュール表を用いて対象者の作業バランスの評価,生活状況,フレイル状態の確認など包括的なアセスメント及び助言を実施した.目標設定が可能であれば,目標カードをその場で作成し対象者に渡した.具体的な助言内容は目標に合わせたホームエクササイズの提案や環境調整などを行った.また,アセスメントの結果,サービスの必要性があると判断した場合は地域包括支援センター等の機関につなげた.初回訪問から3ヶ月を目処に評価訪問を実施し効果判定を行った.効果判定では,①活動時間の変化,②目標の達成度,③行動変容ステージの変化,④後期高齢者質問票の主観的健康感と生活満足度の変化で判定を行った.②と③の判定は事前に設定している基準をもとに経験のある看護師1名が判定した.
【結果】
 ①活動時間の変化については維持または改善した割合が69.6%,②目標の達成度の割合が59%,③行動変容ステージ実行期以上の割合が60.7%,④後期高齢者質問票の主観的健康感の改善率1.9%,生活満足度の改善率6.1%であった.評価訪問時に趣味を再開していた対象者や気付いた時に運動をするようになったという対象者などを確認することができた.また訪問した際にサービスが必要と判断し,地域包括支援センター,認知症初期集中支援,予防教室等につながった対象者は9名中8名であった.具体的な例としては,70代後半の女性.BMI37.4,腰痛,膝痛あり.ややうつ傾向.家屋状況は玄関や居間は段差が多く手すりなどもない状況.対象者に対して介護保険サービスを利用し玄関に手すりをつけるなど福祉用具の導入を提案.地域包括支援センターにつなげた結果,玄関に手すりがついたことで活動範囲の広がりにつながり,体重も5kg減少した.
【考察】
 今回の経験からOTが一体的実施事業におけるハイリスクアプローチに参画することは有益ではないかと考える.従来,身体的フレイルの対象者に対するハイリスクアプローチでは運動指導のみ実施されることが多い.今回はスケジュール表を導入し作業バランスの評価,作業ニーズの聞き取りを行い具体的な目標設定,必要に応じて目標に沿った運動指導及び環境調整の提案を意識して行なった.その結果,対象者の活動時間の変化,そして行動変容に寄与できたのではないかと考える.これらはOT独自の視点であり,一体的実施事業においても今後求められる視点ではないかと考える.