第58回日本作業療法学会

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[PN-3] ポスター:地域 3 

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-3-2] 障害福祉サービス施設における高次脳機能障害者の就労支援への認識

館岡 周平, 會田 玉美 (目白大学 保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】我が国の障害福祉サービス施設(以下,障害福祉施設)は医療機関での治療・支援と社会復帰の中間のサービスとして重要な役割を担っている.しかし,東京都の高次脳機能障害者の障害福祉施設の受け入れは一部の施設に集中しており(今橋久美子ら,2021),均一的な支援は行えていないことが推測される.高次脳機能障害者の就労等の社会参加を促進するために,障害福祉施設への普及が課題の一つと思われる.本研究の目的は,障害福祉施設の就労支援に対する認識を調査し,さらなる支援の均霑化のための課題を明らかにする事である.
【方法】2023年2月時点で東京都福祉保健局(東京都心身障害者福祉センター,とうきょう高次脳機能障害インフォメーション,高次脳機能障害者を受け入れ可能な通所施設一覧)に掲載されている都内の317施設を対象とした.調査機関は,2023年8月1日から8月31日であり,対象施設の管理者宛に研究協力依頼書を郵送し,Webアンケートへの移動方法を添付した.調査項目は障害福祉施設の基本属性と高次脳機能障害者への就労支援に関する認識についての自由記述である.得られた自由記述の回答は集約し内容分析を行った.手順は,回答を文脈単位に分け,意味がとらえられる範囲で記録単位として抽出した.次に意味内容が類似する記録単位を同一記録単位として集約してサブカテゴリとし,さらにサブカテゴリを意味内容の類似性から集約し,カテゴリを生成した.本研究は所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】80件から回答があり,その内60件で高次脳機能障害者の受け入れ経験があった.受け入れ経験があった障害福祉施設の記述は合計157記録単位で1名あたり1~5記録単位であった.これら記録単位の分析から4カテゴリが生成された.「就労支援に欠かせないこと」は全記録単位の4割以上を占め,〈症状の多様性の理解〉〈支援に向けたシームレスな連携〉〈就労支援に特化した専門スキル〉〈通所手段の確立〉〈適切な予後予測〉〈当事者が安心できる居場所の構築〉〈当事者と支援場所のマッチング〉といったサブカテゴリが含まれた.「就労支援中に危惧されること」には,〈他の利用者への弊害〉〈当事者の希望と現実のギャップ〉〈家族関係者の負担〉〈個別性の高い支援に対する職員の疲弊〉が含まれた.「社会・制度の弊害」には,〈社会の高次脳機能障害に対する認知不足〉〈制度の難しさ〉が含まれた.「当事者が遭遇する困難」には,〈現状の受け入れ〉〈新たな環境への適応の難しさ〉〈社会参加から生まれる辛さ〉〈安定した作業遂行〉〈感情コントロールの難しさ〉が含まれた.
【考察】障害福祉施設の高次脳機能障害者の支援に対する認識は,専門スキルや症状の理解,事業所間連携が含まれる「就労支援に欠かせないこと」の記録単位の割合が最も高かった.先行研究(大阪府障がい者自立相談支援センター,2019)では,支援者は記憶や注意,易疲労性に起因する本人の言動に関することに最も苦労を感じていたとの報告からも,高次脳機能障害に起因する言動に対応するための専門スキルや関係機関との連携が支援を受け入れるために最も大きな課題と示唆された.本研究で得られた課題への対策として,専門家による研修や受け入れ経験のある障害福祉施設との情報共有などが考えられる.しかし,障害福祉施設は人手不足や人材が定着しないと示されており(福祉医療機構,2021),研修等だけでは理解が普及・定着しない可能性がある.したがって,これらの対策に加えて人材の定着,人材確保に向けた取り組みが必要である.