[PN-3-6] ミラーを取り付けたことで活動範囲が拡大した維持期半側空間無視の一症例
【はじめに】在宅要介護者の健康をどう確保していくかは,地域包括ケアが中心になってきているわが国にとって重要な課題である.在宅における脳卒中患者は,活動量が低下し活動範囲も狭小化しやすい.また,半側空間無視を伴う場合,行動範囲の拡大には十分な注意を要すると報告している(百合,2016).今回,訪問にて発症より5年経過した半側空間無視患者を担当し,福祉用具を調整し訓練することで一定の効果を得られた為,以下に報告する.尚,ヘルシンキ宣言に基づいて症例と家族に対して発表に関する内容や目的を十分に説明し同意を得た.【対象】症例は,要介護2の持ち家にて奥様と2人暮らししている男性である.X−5年前に心筋梗塞ならびに右後頭葉に脳梗塞発症.麻痺は軽度であったが,左同名半盲ならびに左半側空間無視あり.X年より誤嚥性肺炎にて入退院を繰り返したことで,筋力,活動性ともに低下した.歩行にも強い不安を抱くようになり,在宅でのリハビリを希望となった.介護保険にて週2回のデイケアを利用している.訪問リハビリは週1回で開始した.自宅内の移動は独歩にて可能であり,左側から話しかけられた際の注意は向きにくいものの,食事,トイレ,更衣は自立しており,入浴も毎日自身で行っている.日中は数独や音楽鑑賞をして過ごされている.屋外歩行は両側ノルディックスティックを使用しているが,左側が確認できず,道路の中央へ寄っていく場面がみられ,後方が確認できず誰か来ても分からなかった.歩行は10分程度で息切れが生じていた.最寄り50mの喫茶店までも自身で行けず,1人では無理と話していた.身体機能はCS-30にて8回,FRTにて20㎝,片脚立位は1~2秒であった.認知機能はMMSEにて28/30点,星印抹消は48/54であり,模写課題では左空間を無視する場面がみられた.CBSは本人,家族に聴取し,共に10点と軽度~中等度の無視がみられた.【経過】耐久性低下が顕著であり,屋外歩行時の休息場所も住宅街である為に確保が困難だった為,歩行器の提案より行った.前に滑りそうになるのが怖いとの発言より,抑速付きの歩行器を導入した.屋外歩行においては,慣れている地域であれば,左側を確認し曲がって行くことも可能であった.左後方が確認できない為,徐々に中央に寄っていく場面は継続していた.注意を促せば後方を確認することは可能であったが,外を歩きながら周りを見回したくないとの訴えより,歩行器にベビーミラーを取り付け,本人の耐久性に考慮しつつ,徐々に歩行距離を延長していった.介入期間は1年間.期間中,持病で入退院が3回あった.【結果】CS-30は12回,片脚立位は3秒,FRTは25㎝となった.MMSEは変化なし.星印抹消は49/54であり,模写も左側の無視は残存していたが,CBSは本人,家族ともに5点であり日常生活場面においては軽減がみられた.屋外歩行は息切れなく20分連続して可能となり,道路の中央に寄ることなく歩行し,後方も確認できるようになった.最寄りの喫茶店も本人のみで行けるようになった.【考察】道路は歩行者や車,信号機など様々な物があり,また交互に行きかっている.在宅での屋外歩行にて歩行時の後方の確認は,必要不可欠な要素である.半側空間無視のアプローチとして,無視空間への手がかりの提示が勧められている(脳卒中ガイドライン,2015).今回,歩行器の検討に加え,ベビーミラーを取り付けたことで,歩行時の後方を安全に確認出来るようになり,活動範囲の拡大に繋がった.模写にて半側空間無視は残存したものの,CBSにて症状が主観的にも客観的にも軽減したことは意義深い.今後はその適応範囲等を含めて検討していく必要がある.