第58回日本作業療法学会

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[PN-4] ポスター:地域 4

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PN-4-10] 作業療法士による特例子会社での職場定着支援に関する一考察

古澤 美樹1, 野崎 智仁2 (1.みずほビジネス・チャレンジド株式会社 鶴見業務センター, 2.国際医療福祉大学 保健医療学部 作業療法学科)

【序論】障害者雇用が促進される現代において,職場定着が課題の一つとされている.厚生労働省は,障害者の1年後職場定着率を,発達障害者71.5%,精神障害者49.3%と報告しており,特に精神障害者の職場定着が低調である.筆者は,2022年より特例子会社の企業在籍型ジョブコーチ(以下,JC)として精神障害者の職場定着支援を行っている.今回,2事例の実践報告を通して,特例子会社における職場定着支援への作業療法士の有用性について考察をする.尚,本報告について,対象者本人に説明をし同意を得ている.
【会社概要】弊社は,みずほ銀行を親会社とする特例子会社である.1998年に町田本社を設立し,主に身体障害者を採用した.その後,2010年に知的障害者中心の拠点を大手町に,2018年に精神障害者(発達障害を含む)の採用を目的とした鶴見業務センターを立ち上げた.その後,類似拠点を横山町に立ち上げ,現在4つの拠点がある.各拠点を合わせると約50名のJCが配置されており,所有する資格は精神保健福祉士,公認心理師,手話通訳士,保育士など様々である.筆者が所属する鶴見業務センターは,銀行OBが5名,JCが8名,障害のある社員(以下,社員)が80名超所属している.障害種は8割が精神障害であり,JCの主な役割は社内面談を通じた相談援助である.社員の業務内容は銀行の事務補助が中心である.チームを編成し,チーム長・副長を置き,主体的に業務マネジメントを行っている.現在は11種の業務を行っているが,数か月に一度,新規業務依頼や既存業務の終了があり,その変化に対応することが求められる.
【事例】1事例目:30代,男性.ADHD,ASD.副長の役割を担い13名のマネジメント業務を補佐的に行う.周囲からコミュニケーションに対して指摘を受けることが多く,本人も「コミュニケーションがうまくできるようになりたい」と話していた.改善を希望する具体的な場面は,業務の改善点を複数の社員から聞き取る場面を挙げた.また,「考えを伝えること」が自身の課題であると認識していた.業務場面を観察すると「聞き方」に課題がみられた.具体的には,他社員のコメントに反応しない,相手が話している途中で頻繁に遮る,自分の話すトピックに固執するなどがみられた.自己理解を促進し,改善を図る目的で評価結果をフィードバックし,人事評価の目標設定シートに課題を挙げ,現在も改善を図っている.
2事例目:30代,女性.ADHD,LD.WAIS-Ⅲ PO59,WM56.他社員に比べて業務遂行上の困難さが目立った.面談にて「新しい仕事がどうしてもできない」と相談があったことから,業務場面を観察した.書類をはさみで分割する作業や,データを別のフォルダへコピー&ペーストする作業で介助を要していた.また,指導する社員は多様な代償手段を提案するが,本人に合わず習得に至らない様子であった.評価結果を基に,JCが本人用マニュアルを作成し,模擬場面での練習,また毎回同じ手順で業務指導を受けられるように環境設定を行った.その後,約1ヶ月後にはマニュアルを用いることで自立することができた.
【考察】精神障害者との面談の中で,本人が認識している課題と客観的にみた課題にズレがあることは多い.相談に応じるだけでなく業務場面の評価が重要であり,作業評価ができる作業療法士の視点は職場定着支援でも有効と考える.また,評価結果は支援者だけでなく,本人と周囲の同僚と共有することで業務改善が図れる.業務内で機敏に評価し,こまめに経過を追えることが企業に在籍する作業療法士の強みと考える.