[PN-4-3] 作業療法士の資格を有する警察官の地域貢献と作業療法の可能性
【はじめに】
近年,「生きづらさ」という言葉をよく耳にする.生きづらさの関連領域は,発達障害やセクシュアルマイノリティー,ひきこもり,いじめ,薬物乱用など,枚挙にいとまがない(藤川,2021).格差社会に迎合するように,最近の作業療法の対象も病院から地域へとシフトし,人−環境−作業の観点から複合的な支援を行っている.
筆者は,令和4年度に静岡県警察の採用試験を受け警察官となった.地域警察官の一人として,昼夜問わず地域住民の声を聴いている.本発表では,警察官に従事する作業療法士としての地域貢献について報告する.なお,発表に際し,所属の警察署の許可を得ている.また,開示すべき利益相反(COI)はない.
【地域警察官の職務】
警察官の職務をいくつか紹介する.防犯指導や地域での困りごとを聴取する「巡回連絡」,担当の地域や施設を巡回する「パトロール」,交通違反に対する「取締り」,保護者や近隣の住民から必要な情報を聞き出し,安全な発見と保護を行う「捜索活動」,目的地まで最適な経路を提供する「道案内」,少年が社会規範を逸脱した場合に,指導や支援を行う「少年補導」,犯罪現場の調査・証拠の確保・関係者への情報収集・科学的手法による分析を行う「犯罪捜査」,事故現場に急行し,事故当事者の安全確保・交通規則の遵守状況を調査する「交通事故捜査」などがある.
【作業療法士の視点を活かした地域貢献】
警察の職務では高齢者や障害者と接する場面が多くみられる.特に高齢者は,道案内や認知症の方の捜索,特殊詐欺の被害,街中での転倒事故,独居者の対応など接触が多い.道案内では口頭説明をしがちだが,認知機能が低下している方も多いことから,近隣であれば付き添い,図式化して視覚情報を活用すると理解されやすい.また,高齢者が振り込みの要件で案内を求めて来た場合,「早く振り込みたい」と焦る気持ちを傾聴しながら,行動に至る経緯や動機が整理できるよう共感的理解を示しながら聴取し,特殊詐欺の被害に遭わない様にする.捜索活動では,家族から基礎疾患や性格特性,心身機能などを聴取し,行動範囲を予測するだけではなく,地域包括支援センター等と連携することで早期発見に努める.巡回連絡で独居者の自宅を訪問した際,「腰が痛くて外出できない」と話す方には,症状から適切な疾患を疑い,簡単な身体機能評価や生活環境のアドバイスを行うことで,廃用予防に努める.その他にも,騒音苦情で現場に臨場した際,通報者や対象者が先駆症状のある精神障害者であれば,症状に対するソフト救急を行うこともできる.
【考察】
最近の作業療法士は,医療,保健,福祉,教育,司法など幅広い領域に従事し,人々の健康と幸福を促進するために作業に焦点を当てた支援を行う(作業療法白書,2021).地域住民の日常生活の安全と平穏を守る警察官は,人々に直接関与する職業でもあり,一般の作業療法士と同様に人々の健康と幸福に寄与できる可能性を秘めている.本報告は「作業療法士特有の実践」ではないのかもしれないが,警察組織に従事する作業療法士として,地域貢献ができる可能性を示した一例ではないかと考える.若手の警察官である筆者は,現在も作業療法の活用方法を模索している段階である.
近年,司法領域では,刑務所や少年院に従事する作業療法士が「出口支援」に従事している.一方,警察官の職務は,刑事司法手続きにおいて「入口支援」に該当する.逮捕から実刑に至るまで,その道のりは長く,入口支援はいわば急性期の役割を担う.今後は,入口支援に従事する警察官としての役割も検討していきたいと考えている.
近年,「生きづらさ」という言葉をよく耳にする.生きづらさの関連領域は,発達障害やセクシュアルマイノリティー,ひきこもり,いじめ,薬物乱用など,枚挙にいとまがない(藤川,2021).格差社会に迎合するように,最近の作業療法の対象も病院から地域へとシフトし,人−環境−作業の観点から複合的な支援を行っている.
筆者は,令和4年度に静岡県警察の採用試験を受け警察官となった.地域警察官の一人として,昼夜問わず地域住民の声を聴いている.本発表では,警察官に従事する作業療法士としての地域貢献について報告する.なお,発表に際し,所属の警察署の許可を得ている.また,開示すべき利益相反(COI)はない.
【地域警察官の職務】
警察官の職務をいくつか紹介する.防犯指導や地域での困りごとを聴取する「巡回連絡」,担当の地域や施設を巡回する「パトロール」,交通違反に対する「取締り」,保護者や近隣の住民から必要な情報を聞き出し,安全な発見と保護を行う「捜索活動」,目的地まで最適な経路を提供する「道案内」,少年が社会規範を逸脱した場合に,指導や支援を行う「少年補導」,犯罪現場の調査・証拠の確保・関係者への情報収集・科学的手法による分析を行う「犯罪捜査」,事故現場に急行し,事故当事者の安全確保・交通規則の遵守状況を調査する「交通事故捜査」などがある.
【作業療法士の視点を活かした地域貢献】
警察の職務では高齢者や障害者と接する場面が多くみられる.特に高齢者は,道案内や認知症の方の捜索,特殊詐欺の被害,街中での転倒事故,独居者の対応など接触が多い.道案内では口頭説明をしがちだが,認知機能が低下している方も多いことから,近隣であれば付き添い,図式化して視覚情報を活用すると理解されやすい.また,高齢者が振り込みの要件で案内を求めて来た場合,「早く振り込みたい」と焦る気持ちを傾聴しながら,行動に至る経緯や動機が整理できるよう共感的理解を示しながら聴取し,特殊詐欺の被害に遭わない様にする.捜索活動では,家族から基礎疾患や性格特性,心身機能などを聴取し,行動範囲を予測するだけではなく,地域包括支援センター等と連携することで早期発見に努める.巡回連絡で独居者の自宅を訪問した際,「腰が痛くて外出できない」と話す方には,症状から適切な疾患を疑い,簡単な身体機能評価や生活環境のアドバイスを行うことで,廃用予防に努める.その他にも,騒音苦情で現場に臨場した際,通報者や対象者が先駆症状のある精神障害者であれば,症状に対するソフト救急を行うこともできる.
【考察】
最近の作業療法士は,医療,保健,福祉,教育,司法など幅広い領域に従事し,人々の健康と幸福を促進するために作業に焦点を当てた支援を行う(作業療法白書,2021).地域住民の日常生活の安全と平穏を守る警察官は,人々に直接関与する職業でもあり,一般の作業療法士と同様に人々の健康と幸福に寄与できる可能性を秘めている.本報告は「作業療法士特有の実践」ではないのかもしれないが,警察組織に従事する作業療法士として,地域貢献ができる可能性を示した一例ではないかと考える.若手の警察官である筆者は,現在も作業療法の活用方法を模索している段階である.
近年,司法領域では,刑務所や少年院に従事する作業療法士が「出口支援」に従事している.一方,警察官の職務は,刑事司法手続きにおいて「入口支援」に該当する.逮捕から実刑に至るまで,その道のりは長く,入口支援はいわば急性期の役割を担う.今後は,入口支援に従事する警察官としての役割も検討していきたいと考えている.