[PN-5-10] 作業療法士による旅行支援後に日常生活と家族関係が改善した事例
序論 :脳卒中や脊髄損傷の後遺症によって,旅行が困難になるケースがある.それにもかかわらず,再び旅行することを望む者は多く,旅行は社会参加の一つとしてリハビリテーション(以下,リハ)の重要な目標である.今回,脳卒中患者において作業療法士(以下,OTR)による旅行支援サービス後に,前向きな言動へ変容し,家族関係にも良い影響を与え,日常生活活動(以下,ADL)自立度の改善に至った維持期脳卒中患者の事例を報告する.
目的:本研究の目的は,障害者の旅行支援に対するOTRの役割の重要性について報告することである.また,医療介護保険外のサービスを併用する方略としての旅行支援サービスの有用性を報告することである.
方法 :本研究では,OTRによる旅行支援サービスが提供された障害者を対象とした.症例は,脳卒中後の左片麻痺とうつ病を患う高齢者である.70歳代・男性,60歳代の妻と二人暮らし,右利き,Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)上肢4/下肢4,Mini-Mental State Examination 30点,車椅子利用者で,訪問リハと通所介護を利用している.旅行支援前は,家族だけでの旅行への不安から旅行することを諦めていたが,「人生の最後に思い出の場所に行けるなら行ってみたい」という目標に向けて,OTRが旅行前の準備から当日の同行まで支援を行った.支援内容は,1)旅行前の利用者のADL評価や旅行先の環境調査,2)事前調査に基づく旅行中の移動やADLの支援,現地の宿泊環境での家族指導,3)旅行後に本人に対する旅中の動作のフィードバックや次回の旅行に必要な動作のフォローアップの3段階で構成された.旅行の前後には,Functional Independence Measure(以下,FIM)を使用してADLの評価を実施した.なお,本研究について,所属施設の責任者より文書による承認を得た.また,学術公表に際し,本人および家族に対して口頭にて説明を行い同意を得た.
結果:旅行後は本人から「今度は違う場所に旅行に行くために家の事くらい出来るようにならないと」と前向きな言動が見られた.旅行後のフォローアップから2か月後には,BRSに変化は認めなかったが,FIM合計が78から108点に改善し,車椅子介助での移動(4点)から独りでの杖歩行(6点)や階段昇降(2から6点)が可能となった.他の改善したFIMの項目は,整容(4から5点),清拭(1から5点),更衣の上半身(3から7点)・下半身(2から6点),トイレ動作(2から6点),移乗のトイレ(4から6点)・浴槽(1から4点),社会的交流(3から5点)であった.また,共に旅行した妻からも「久しぶりの旅行を楽しめた」という意見があり,後に長女からも「母が介護を忘れて楽しそうだった」と喜ぶ姿も見られ,家族の関わりの中でも笑顔が増えるなどの変化が見られた.さらに,初めて旅行支援に参加したOTRからは「ツアーナースと同じように専門性を発揮でき,非常にやりがいを感じた」との感想が寄せられた.
考察:OTRによる旅中の支援は,その専門性を活かした安全な介助だけでなく,自立を促した動作練習が有効であった.さらに,次の旅行を目標としたリハを実施することで,より高い練習効果が期待できる.これは,対象者のその後のADLや社会参加に好影響を与える可能性がある.また,家族に対しても好影響を認めたことから,介護疲れや介護うつといった在宅ケアの問題に対して効果的なサービスとなりうる.したがって,旅行支援あるいは旅行リハは,OTRの職域の拡大に寄与すると考える.今後は,認知症,内部障害,発達障害,精神疾患などに対象を拡大し,症例集積研究で調査されるべきである.
目的:本研究の目的は,障害者の旅行支援に対するOTRの役割の重要性について報告することである.また,医療介護保険外のサービスを併用する方略としての旅行支援サービスの有用性を報告することである.
方法 :本研究では,OTRによる旅行支援サービスが提供された障害者を対象とした.症例は,脳卒中後の左片麻痺とうつ病を患う高齢者である.70歳代・男性,60歳代の妻と二人暮らし,右利き,Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)上肢4/下肢4,Mini-Mental State Examination 30点,車椅子利用者で,訪問リハと通所介護を利用している.旅行支援前は,家族だけでの旅行への不安から旅行することを諦めていたが,「人生の最後に思い出の場所に行けるなら行ってみたい」という目標に向けて,OTRが旅行前の準備から当日の同行まで支援を行った.支援内容は,1)旅行前の利用者のADL評価や旅行先の環境調査,2)事前調査に基づく旅行中の移動やADLの支援,現地の宿泊環境での家族指導,3)旅行後に本人に対する旅中の動作のフィードバックや次回の旅行に必要な動作のフォローアップの3段階で構成された.旅行の前後には,Functional Independence Measure(以下,FIM)を使用してADLの評価を実施した.なお,本研究について,所属施設の責任者より文書による承認を得た.また,学術公表に際し,本人および家族に対して口頭にて説明を行い同意を得た.
結果:旅行後は本人から「今度は違う場所に旅行に行くために家の事くらい出来るようにならないと」と前向きな言動が見られた.旅行後のフォローアップから2か月後には,BRSに変化は認めなかったが,FIM合計が78から108点に改善し,車椅子介助での移動(4点)から独りでの杖歩行(6点)や階段昇降(2から6点)が可能となった.他の改善したFIMの項目は,整容(4から5点),清拭(1から5点),更衣の上半身(3から7点)・下半身(2から6点),トイレ動作(2から6点),移乗のトイレ(4から6点)・浴槽(1から4点),社会的交流(3から5点)であった.また,共に旅行した妻からも「久しぶりの旅行を楽しめた」という意見があり,後に長女からも「母が介護を忘れて楽しそうだった」と喜ぶ姿も見られ,家族の関わりの中でも笑顔が増えるなどの変化が見られた.さらに,初めて旅行支援に参加したOTRからは「ツアーナースと同じように専門性を発揮でき,非常にやりがいを感じた」との感想が寄せられた.
考察:OTRによる旅中の支援は,その専門性を活かした安全な介助だけでなく,自立を促した動作練習が有効であった.さらに,次の旅行を目標としたリハを実施することで,より高い練習効果が期待できる.これは,対象者のその後のADLや社会参加に好影響を与える可能性がある.また,家族に対しても好影響を認めたことから,介護疲れや介護うつといった在宅ケアの問題に対して効果的なサービスとなりうる.したがって,旅行支援あるいは旅行リハは,OTRの職域の拡大に寄与すると考える.今後は,認知症,内部障害,発達障害,精神疾患などに対象を拡大し,症例集積研究で調査されるべきである.