第58回日本作業療法学会

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[PN-5] ポスター:地域 5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-5-9] 人間作業モデルを使用した他職種連携により引きこもりが改善した通所介護の一事例

髙木 初代1, 篠原 和也2, 鹿田 将隆2, 山田 孝3 (1.富山医療生活協同組合 富山協立病院, 2.常葉大学保健医療学部, 3.一般社団法人日本人間作業モデル研究所)

【はじめに】 通所介護では,他職種と連携して対象者を支援する.今回,午前半日利用のAさんに対し,午後半日勤務の作業療法士(以下,OT)が自宅訪問や面接評価を行った.その結果を人間作業モデル(以下,MOHO)を用いて通所介護スタッフ(以下,スタッフ)に伝達した.スタッフがMOHOに基づいて支援し,OTは対象者の変化を確認した.それにより,引きこもりであったAさんの作業参加が改善した.通所介護で他職種がMOHOを用いて支援した報告は少なく,事例からMOHOによるスタッフの連携と支援の影響を検討するため報告する.本報告はAさんの承諾を得ており,開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【事例紹介】 Aさん,70歳代女性,夫と全国各地を旅行し,社交ダンスを楽しむなど多趣味であった.話好きで,一見,社交的であったが,夫を介護し,知人や友人は少なかった.記憶の低下が著明で,服薬管理ができず,ヘルパーを利用していた.夫が他界後,引きこもりとなった.大量の食材を購入し二人分の食事を作ることがあった.入浴しているかも不明であった.そこで外出の機会と入浴目的で,通所介護の利用となった.通所介護では,表情は硬く,入浴を拒否し,「ここに来る必要はない」と何度も帰ろうとした.
【評価とMOHOによる伝達】 OTがAさんを訪問すると,自宅は整理され,仏壇に遺影をかざり,夫の他界を認識して極度の悲嘆はなかった.Aさんは「私は通所介護に行く必要はない」と語った.MMSEは20点で,日時の見当識と短期記憶の低下がみられた.FIMは111点(運動項目91点,認知項目20点)で,ADLは自立しているが,社会的認知が低下していた.MOHOSTは56点で動機づけ,作業のパターン,処理技能が低下していた.Aさんは価値を置く夫との生活を失い,習慣が変化し,妻の役割を喪失した.新たな役割がなく,生活が空虚となっていた.
 カンファレンスでスタッフに評価結果を伝えた.MOHOの概念を「身体の機能・認知機能(遂行)」「自分に対する自信・大事なこと・興味のあること(意志)」「日々の習慣・生活の役割(習慣化)」「生活環境や用具・周りの人など(環境)」と表現して伝え,習慣,役割の低下による悪循環を図で示した.役割の喪失について伝え,Aさんの変化に共感してほしいこと,価値を共有してほしいこと,通所介護で友人ができるとよいことを支援の重点として伝えた.
【経過と結果】 スタッフはAさんが帰りたいと訴えると,旅行や旅行先の食べ物の話題を話すようにした.するとAさんの訴えは減った.また,社交ダンスを共通の趣味としたBさんの近くに席を配置した.二人の話が盛り上がり,通所介護の休みは激減した.さらにBさんの隣のCさんとも話すようになった.Aさんは移動販売車による買物を好み,喜んで参加するようになった.2か月後,通所介護の休みはなくなり,来所後,自ら様々な利用者に近づき,歓談するようになった.3か月後,OTが自宅を訪問すると,Aさんは「通所介護の買い物がよい」と語った.MMSEは20点, FIMは113点(運動項目91点,認知項目22点),MOHOSTは66点となり,作業のパターンが改善した.
【考察】 MOHOは対象者を包括的にとらえる.評価結果をMOHOで伝えることにより,スタッフは対象者の個人史を知り,価値や興味,役割に配慮して支援できた.また,図で示すことにより,視覚的に理解しやすく,起きている出来事の背景を検討できた.対象者の価値や役割に配慮した支援により,対象者の生活範囲の拡大と新たな役割の獲得がもたらされたことから,他職種にとってもMOHOは有用であったと思われた.