[PN-6-9] 業務パフォーマンスと職場における身体活動及び心理・社会的因子との関連性についての検討
中小企業労働者を対象として
【はじめに】
労働生産人口の減少に伴い,従業員の健康と経営的な価値を繋ぐ「健康経営」が注目されている.株式会社Canvasでは作業療法の包括的な観点を活かした健康経営支援事業を進めており,特にリソースの少ない従業員数50名以下の事業所では従業員一人当たりの労働生産性向上が重要であることが明らかになりつつある.その背景にある業務パフォーマンスの改善において,先行研究では職場での身体活動やストレス等との関連が報告されているが,我が国における小規模の事業所を対象とした調査は進んでいない.そこで本研究では,このような事業所の従業員における業務パフォーマンスの低下と仕事中の身体活動及び心理社会的要因との関連を分析することを目的とした.
【方法】
本研究に同意した島根県内の中小企業従業員575名(女性226名,年齢40.0±12.3歳)のデータを横断的に分析した.自記式質問用紙では労働生産性低下の状況をQQmethod,仕事中の身体活動の割合,仕事でのストレスを職業性ストレス簡易調査票57項目版,ワーク・エンゲイジメントをUltrashort Version of the Utrecht Work Engagement Scale (UWES-3))にて評価した.QQmethodの仕事の量と質の低下を掛け合わせたものを「業務パフォーマンスの低下」とし,低下の割合が50%未満を「維持群」,50%以上を「低下群」の2群に分類した.身体活動の割合は1日の業務における座位,立位,歩行,重労働(重いものを持ち運ぶ,走る等)の各割合を%で答える.職業性ストレス簡易調査票の下位項目には仕事のストレス要因,心身のストレス反応,周囲のサポート,満足度があり,点数が高いほどストレスが高いことを示す.UWES-3は点数が高いほどワーク・エンゲイジメントが高いことを示す.なお本研究は島根大学倫理審査委員会にて承認を得ている(承認番号:2022-2).
【結果】
業務パフォーマンスにおいて「維持群」が361名(63%),「低下群」が214名(37%)であった.この二群を従属変数として,業務中の身体活動の割合(座位,立位,歩行,重労働),職業性ストレス簡易調査表下位項目(仕事のストレス要因,心身のストレス反応,周囲のサポート,満足度),UWES -3を独立変数に投入したロジスティック回帰分析の結果,「低下群」は「維持群」と比較して,座位時間(OR: 1.42, 95%CI: 1.01- 2.02, p=0.04),重労働(OR: 0.52, 95%CI: 0.35-0.76, p<0.01),心身のストレス反応(OR: 0.98,0.97-0.99,p=0.02)等で有意な関連を認めた.
【考察】
本研究の結果より,従業員の業務パフォーマンスに対して介入する場合,仕事中の活動量や職場のストレスなど,個人だけでなく職場のコミュニティ全体を包括的に分析する必要性が示唆された.本研究の限界として,横断研究であり因果関係は断定できないこと,あくまで自記式であり,実際の活動量との間に誤差がある可能性が挙げられる.今後は健康経営支援事業の実施前後で,業務パフォーマンスが変化し得るのか縦断的に検証することによって,作業療法士が新しい形で社会に貢献するエビデンスの構築を目指している.
労働生産人口の減少に伴い,従業員の健康と経営的な価値を繋ぐ「健康経営」が注目されている.株式会社Canvasでは作業療法の包括的な観点を活かした健康経営支援事業を進めており,特にリソースの少ない従業員数50名以下の事業所では従業員一人当たりの労働生産性向上が重要であることが明らかになりつつある.その背景にある業務パフォーマンスの改善において,先行研究では職場での身体活動やストレス等との関連が報告されているが,我が国における小規模の事業所を対象とした調査は進んでいない.そこで本研究では,このような事業所の従業員における業務パフォーマンスの低下と仕事中の身体活動及び心理社会的要因との関連を分析することを目的とした.
【方法】
本研究に同意した島根県内の中小企業従業員575名(女性226名,年齢40.0±12.3歳)のデータを横断的に分析した.自記式質問用紙では労働生産性低下の状況をQQmethod,仕事中の身体活動の割合,仕事でのストレスを職業性ストレス簡易調査票57項目版,ワーク・エンゲイジメントをUltrashort Version of the Utrecht Work Engagement Scale (UWES-3))にて評価した.QQmethodの仕事の量と質の低下を掛け合わせたものを「業務パフォーマンスの低下」とし,低下の割合が50%未満を「維持群」,50%以上を「低下群」の2群に分類した.身体活動の割合は1日の業務における座位,立位,歩行,重労働(重いものを持ち運ぶ,走る等)の各割合を%で答える.職業性ストレス簡易調査票の下位項目には仕事のストレス要因,心身のストレス反応,周囲のサポート,満足度があり,点数が高いほどストレスが高いことを示す.UWES-3は点数が高いほどワーク・エンゲイジメントが高いことを示す.なお本研究は島根大学倫理審査委員会にて承認を得ている(承認番号:2022-2).
【結果】
業務パフォーマンスにおいて「維持群」が361名(63%),「低下群」が214名(37%)であった.この二群を従属変数として,業務中の身体活動の割合(座位,立位,歩行,重労働),職業性ストレス簡易調査表下位項目(仕事のストレス要因,心身のストレス反応,周囲のサポート,満足度),UWES -3を独立変数に投入したロジスティック回帰分析の結果,「低下群」は「維持群」と比較して,座位時間(OR: 1.42, 95%CI: 1.01- 2.02, p=0.04),重労働(OR: 0.52, 95%CI: 0.35-0.76, p<0.01),心身のストレス反応(OR: 0.98,0.97-0.99,p=0.02)等で有意な関連を認めた.
【考察】
本研究の結果より,従業員の業務パフォーマンスに対して介入する場合,仕事中の活動量や職場のストレスなど,個人だけでなく職場のコミュニティ全体を包括的に分析する必要性が示唆された.本研究の限界として,横断研究であり因果関係は断定できないこと,あくまで自記式であり,実際の活動量との間に誤差がある可能性が挙げられる.今後は健康経営支援事業の実施前後で,業務パフォーマンスが変化し得るのか縦断的に検証することによって,作業療法士が新しい形で社会に貢献するエビデンスの構築を目指している.