第58回日本作業療法学会

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地域

[PN-7] ポスター:地域 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-7-2] 地域産業を担うワイナリーの職業病解決に作業療法士が介入する可能性

柳沼 圭亮1, 元廣 惇2,3, 三浦 弓彦1, 佐々木 貴義1, 高橋 慶香1 (1.ReSTAR, 2.株式会社Canvas, 3.国立大学法人島根大学 地域包括ケア教育研究センター)

【序論】島根県の株式会社Canvasの作業療法士が,中小企業を対象に作業療法理論を応用した新たな健康経営サービスを展開した.今回は,そのスキームを基に,福島県郡山市にある東日本大震災後の果樹農業の6次産業化に向けて誕生したワイナリーに対し,従業員の職業病解決のために作業療法士が介入し,作業動作指導やセルフケア導入等のソリューションを従業員と共に導き出す取り組みを実施したため報告する.なお,学会での発表にあたり企業に同意を得ている.【目的】福島県郡山市の株式会社エシカル郡山(以下弊社)では,株式会社Canvasのスキームを基に,2023年4月より作業療法士が中小企業を対象に,健康経営事業(以下本サービス)を開始.弊社と同市にあるワイナリーでは,10名という限られた従業員で地域の農家や福祉事業所と連携してブドウの栽培からワインの製造,販売まで行っている.ワイナリーの仕事は四季折々で作業工程や作業負担度が変化し,特にブドウの仕込み作業が本格化する9月から12月は,毎年腰痛や肘痛を抱えながら日々作業を行っていたことがヒアリングからわかってきた.作業療法士が人・作業・環境の観点からワイナリーの仕事を評価し,職業病改善に向けて従業員と共に共創していくこととなった.【方法】ワイナリーの従業員10名中6名(20代〜60代)を対象に,職業病についてのアンケートを実施(X年6月).健康課題が引き起こしているプレゼンティーイズムに着目し,年間の労働生産損失額をQQ-methodを用いて算出した.また,職場環境の評価と7名の従業員に対しフィジカルチェック及びヒアリングを実施(X+1年1月).ワイナリーならではの職業病の原因を「人・作業・環境」のPEOモデルを用いて分析し,健康経営支援として介入方法を検討した.【結果】従業員向けのアンケートより,6人中4人に腰・肩の痛みの訴えがあり,痛みや不調を抱えながら仕事をしていることがわかった.また,フィジカルチェック・ヒアリングからも,7名中5名が腰痛を訴えていたことがわかった.特にその一方で,アンケート結果から,痛みの改善に対して必要性を感じている従業員は代表以外ほとんどいなかった.代表のヒアリングから,若さゆえの健康に対しての予防意識の低さや職人気質が顕在化してきた.作業動作や関節可動域の評価からは,痛み(特に腰痛)の原因・結果となりうる,股関節・足関節の固さや骨盤・体幹のアライメントの崩れが診られ,業務内容からも,14℃と冷温で温度管理された環境下で50㎏の殻樽を運ぶ作業や不安定なタンク上での撹拌作業などが腰への負担が大きいことが見えてきた.そこから,およそ2年間をかけての介入により,1年目は評価及び解決策の検討,2年目の繁忙期となるX+1年9月から12月に解決策の導入を試みることにより,ワイナリーならではの四季折々の仕事に合わせた作業療法介入を実施することとした.【考察】地域産業・企業を守っていくためには,従業員ひとり一人が健康でパフォーマンス高く働き続けられる職場環境を構築していくことが必要となる.今回のワイナリーでは,特に,四季折々で業務内容や作業負担が大きく変わることから,より従業員の体のケアや動作方法の検討という観点が重要となってくる.そのためには,フィジカルの問題だけでなく,従業員自身の職業病に対する認知を変え,環境や作業動作の工夫という観点も重要となるからこそ,作業療法士がPEOモデルを用い分析し健康経営支援として関わることは重要であると考える.また,従業員が主体的に考え,助け合える企業文化を構築していくためのディスカッションの場づくりは,作業療法理論を大いに活用できるものと言える.